Omotenasy 今村泰彦/西村拓紀インタビュー
音の体験は没入感から臨場感へ、フルオープンエアーの新世代ヘッドフォン「VIE SHAIR」の革新
プロトタイプ開発や量産設計での苦労とは
「自分たちだけでは試作は無理だった」と今村氏は話す。イベント用に30台のプロトタイプ開発ができるパートナーを探したときは「『アナログとデジタルの切り替えが多く、通信モジュールも多い。ヘッドフォンの小さなスペースに納めるのがとても厳しい』と何度も断られました。しかし、ユカイ工学さんが一緒にチャレンジしてくれたおかげで、実現できました」(今村氏)。
他にもホウメイ、アーティストデザイン、五光発條、スワニー等の町工場の力を借りることで、プロトタイプが完成した。
量産の壁も高い。現実的に量産設計する上で、VIE SHAIRは、プロトタイプ開発と同じ悩みを抱えた。
量産を得意とするメーカーも、ヘッドフォンを作っているところから音楽機材のパーツだけを作っているところまで幅広く存在するので、選ぶのが難しい。Kickstarterは量産の設計ができてないとプロジェクトを出せない。量産設計だけでも何社も断られ、1カ月くらいの想定が、量産設計だけで3カ月も掛かったという。
また、モデリングした製品データも量産を意識した形になっていなかった。RhinocerosとGrasshopper 3Dを使うと、デザインの検討スピードは上がるが、量産することになったとき、メッシュデータからソリッドデータへの読み込みができなかったため、清書して対応した。
現時点での反省も含め、もっと最初からシンプルにした方が良かったと今村さんは振り返る。
「やりたいことを盛り込み過ぎました。でも、周りからいろいろな意見を聞けたから、機能を削って、今の状態ができたと思います。アイデアを盗まれたくないと、隠したがる企業が多いが、どんどんアイデアを周りに話しました。もちろん特許は取っていきますが、できるだけオープンにして、たくさんフィードバックを得たほうがいいと思います。これはソフトウェア業界の考え方かもしれないですね」(今村氏)
「イベントに展示して、音質や装着感等の感想を聞いては、ブラッシュアップしてきました。それが一番ゴールまでの近道だと思います。ここまで大変だったけど、無理だと言わなかった人達が残って、そして最速でプロダクトを作ることができた。普通だったらできないことも、やる気があればできると思います」(西村氏)
「音楽が好きなので、音楽が騒音になってしまうのを防ぎたいと思っていました。騒音になることを気にして、昨今のヘッドフォンは没入系に進んでいますが、僕はそれが面白くないと思います。マラソンに大きなスピーカーを用意して、大音量を流しながら走るのは難しいけど、VIE SHAIRを装着すれば、みんなと音楽を聴いてコミュニケーションしながら、ディスコ感覚で走ることができます。
VIE SHAIRのような製品を通して、聴覚がどうやって拡張していくのか、コミュニケーションとしての語学や音楽がどう変わっていくのか。社会にどういう影響を与えていけるのか楽しみですね」(今村氏)