MUDSNAIL 藤本有輝インタビュー
シューズからクルマまで——3Dテクノロジーでコンセプトを形にするMUDSNAIL藤本有輝とは
ファッションの世界で暗躍する「MUDSNAIL(マッドスネイル)」というプロダクト内装デザインチームがいる。得意とするのは、3Dモデリングの技術を生かしたものづくり。独学で制作を始め、近年はファッションブランドのANREALAGE(アンリアレイジ)やkeisuke kanda(ケイスケカンダ)とのコラボレーションから、プリウスPHVの展示モデルまでを手がける。同チーム代表/第七創個代表取締役の藤本有輝さんに話を聞くと、CNCミリングマシンを自作したという話や、かなり思い切った設備投資をしたという話などなど……数々の破天荒エピソードを語ってくれた。(インタビュー撮影:荻原楽太郎)
ファッションとテクノロジー
ANREALAGE(※1)が2回目のパリ・コレクション登場を果たした2015ー2016秋冬コレクション。(※2)テーマは「LIGHT」。全身を影の色に包まれたモデルの体に円形の光が投射され、光と影と映像が服を構成するかのような世界観が現れた。映像とプログラミングを手がけたのは、Rhizomatiks(ライゾマティクス)の真鍋大度さん。このショーでモデルの足元を飾っていたのがMUDSNAILのシューズ。ヒールの中央には透明な樹脂が流し込まれ、ここにも光が射し込んでいるようだった。
※1 ANREALAGE:デザイナーの森永邦彦によるファッションブランド。「AN・REAL・AGE」は A REAL-日常、UN REAL-非日常、AGE-時代 を意味する。移りゆく時代の中で、日常通り過ぎてしまうような小さなことに価値を見出し、ディテールに執着した服づくりを追求している。
※2 パリ・コレクション:フランスのパリで開催される世界最大級のファッションショー及び展示会の総称。ファッションブランドがシーズンに先駆けて新作を発表する。春夏向けと秋冬向けの年2回開催。
子どもの頃から遊びに本気だった
——MUDSNAILのメンバーは藤本さんをはじめ、独学で制作を始めた方ばかりだそうですね。子どもの頃からものづくりは好きだったんですか?
藤本 好きな方だったと思います。例えば小学校で割り箸鉄砲の作り方を習って基本的な作り方を覚えると、さらなる威力を求めて改良しはじめるじゃないですか。そういったことは散々やっていました。友達は皆ゲームをして遊んでいましたけど、僕は結構1人で遊んでる子どもだったと思います。ゲームは好きだし楽しいけど、友達とやるとすぐに負けちゃうから(笑)。
——ゲームであまり遊んでいなかったというのは、デジタルなものづくりに携わっている方にしては、意外ですね。
藤本 生き物が好きなので、近所の植物園に遊びに行って、メダカを効率的に捕まえるにはどうしたらいいかとか、そういうことばっかり考えていました。自分にとっては遊びのつもりはなくて。“漁”って感じでした。
藤本さんは1984年、東京生まれ。現在も育った町、文京区にあるマンションにオフィスを構える。
——現在のものづくりにつながるような経験は?
藤本 たぶん小学校の頃です。当時の図工の先生が、いきなり生徒たちに木の額縁を渡して「何を作ってもいい」というような人だったんですよ。そこに絵を描いてはめ込む子もいたんですけど、僕は粘土や好きな材料を盛りつけていく方だったんですね。2次元のものから3次元のものを作るという楽しさを知ったのは、そこだったのかなと思います。それから僕はミニ四駆というものに出会って、熱狂的なミニ四駆時代に入るんです。
90年代、男子小中学生を中心にミニ四駆レースマンガ「爆走兄弟レッツ&ゴー!!」がブームになった。藤本さんは渋谷の東急東横店の屋上にあった「渋谷トップサーキット」に通い、自ら加工したミニ四駆で仲間たちとタイムを競っていた。
藤本 ミニ四駆はサーキットにミニ四駆を持って行って走らせると、すぐ目の前で結果が出る。タイムがガクッと落ちたら、その原因は何だったのかということを考えて、その場でまた加工する。そういうことを延々と繰り返していました。
——改良を重ねて精度を高めていく、そういうやり方はそのときに鍛えられたのでしょうか?
藤本 当時は数値をいじって最適化していくということもできなかったですし、実験を繰り返すしかなかったんですよ。実験をするときの「これはすごい発見をしてしまうかもしれない」みたいな思いが原動力になっていたと思います。