MUDSNAIL 藤本有輝インタビュー
シューズからクルマまで——3Dテクノロジーでコンセプトを形にするMUDSNAIL藤本有輝とは
今できることをやる、オリジナルブランド
2014年、MUDSNAILはチーム名と同名のオリジナルブランドを発表した。第1弾は、部分的なパーツだけではなく、靴全体を丸ごと3Dプリンタで出力したシリーズだ。
——3Dプリンタで丸ごと出力したのはなぜですか?
藤本 その時にやっておきたかったんですよね。ちょっと乱暴な言い方をしてしまうと、3Dプリンタが家庭に普及すれば、こういう作り方をした品物を売るというのは、コピー用紙に印刷したものを売るようなもの。当時、それがギリギリ許されるのは今しかないと思ったんですよ。
——スタイリストの高山エリさんとコラボレーションし、履き心地の良さを追求したパンプスも作られていました。これからは履き心地も重視していくのでしょうか?
藤本 そこは以前から大事にしている要素です。シューズに限らず、実用品において機能や品質というものは、全くもって脇役ではないと思うんです。デザインに喰われるか機能に喰われるかという問題は出てきますが、それらをなるべく高次元でマッチさせていく。その過程でデジタル機器は非常に便利なツールとなりますが、人が使う物を作っているので、最終的に手作業で仕上げるという作業は必須です。履き心地や素材の質感なんかは、ずっとこだわっていきたいですね。
車、バイク、これから作りたいもの
——ファッション以外の仕事には興味ありますか?
藤本 表立っているのはファッションですけど、それ以外にも取り組ませていただいたことや、興味あることはたくさんありますよ。最近は新型プリウスPHV(トヨタ)の展示モデルの内外装の製作を手がけました。外装が透けてエンジンや内装が見えているというものだったんですけれど、支給された生データはエンジン1つで7GBぐらいあって、これをワイヤーフレーム状に編集していくのですが、ボルト1本1本までデータがあるので、それを間引きしていくという……(笑)、かなり気の遠くなるような作業でした。
——今作りたいものはありますか?
藤本 僕は趣味でバイクに乗っているんですけど、そのバイクのクラッチシステムを社外品に交換するためのパーツを作りたい——といいますか、欲しいです。設計は大体考えてあるので、シール材に強い人と出会えたら、いつか作りたいな。自分が作りたいものは、常に自分が欲しいとか、見たいものが多いです。
3D造形を際立たせる、崩れの美
——デジタルだけではなく、アナログ作業との組み合わせによって完成している作品が多いですね。
藤本 そうですね。手でできることは手でやればいいし、できないことは機械でやればいいと思っています。ただ、アナログは最終兵器としては非常に重要で、最後は手だと思っているんです。
——どちらかというと、シンプルにものづくりをする方向へ向かっているようです。
藤本 デジタルの精度の高いことが、必ずしもいいわけじゃないから。例えば僕は、FreeFormでリングを作るときに手作業でアクセサリーを作る人のブレ感みたいなものを意識していたりするんですよね。“崩れの美”って、3次元では表現しづらいんですけど。
——実際にはどんな作業になるんですか?
藤本 コンピューターの画面上で「こうしたら気持ちいいよね」というのがあったら、それを制する気持ちです(笑)。データを作っていると、数値がわかるのできれいにはめたくなってくるんですよね。左右を均等にそろえたいとか、平行にしたいとか。そういったソフトの機能を利用するのは楽だし、そっちへ流れがちですが、あえてそこをフリーハンドでやると、画面上で見たときはすごく気持ち悪いんですけど、出力してみると気にならない。気にならないっていうことは、崩したのが効いてるんですよ。
——その辺をイメージする作業は、今のところ人間にしかできないことですよね。
藤本 そうですね。そのうちデザインも人がやらなくなるという話がありますけど、「崩れ」とか「歪み」とかは、まだギリギリ人が表現できることというか、最後の部分なんじゃないかと思います。作ったデータを大量生産する時は、最終的にどんな素材に置き換わるのかとか、どういう生産方法をとるのかというところまで想定して、さらに変えます。
——これからどんな作り手になっていきたいですか?
藤本 今の3D技術が当たり前のものになったときに、2次元で言えばグラフィックデザイナーみたいな位置にいたいなと思っています。“3D職人デザイナー”みたいな。でもそうなったら、3Dの先端技術に固執する必要もないと思っているんです。基本は、適所で柔軟に使う。そういうスタンスで作り続けていきたいですね。