企業もはじめるFab&Hack
IoTハードの戦い方を知ろう——シャープがIoTベンチャー向けブートキャンプを始める理由
シャープがIoT系ハードウェアベンチャー向けにアクセラレーションプログラム「SHARP IoT.make Bootcamp」を開始する。初回は2016年11月21日から12月1日まで祝日を挟んだ10日間。奈良県天理市にあるシャープ総合開発センターで10日間70時間のプログラムを提供する。現在、参加企業を募集中だ。
シャープはプログラムを通じて、スタートアップをサポートするだけでなく、自社からもスタートアップを輩出したいと発表している。果たしてスタートアップにとってどのような価値のあるプログラムなのか。主催側関係者及びパイロットプログラムに参加したスタートアップにお話を伺った。(写真:左からシャープの村上善照氏、tsumugの牧田恵里氏、ABBALab/さくらインターネットの小笠原治氏)
「熱い思いを持ったスタートアップであれば、どんなスタートアップでもウェルカムです。プログラムを通じて、スタートアップの考えや決意を社内に広げ、シャープの中からも新しい事業を創出するきっかけにしたい」(村上氏)
「企画からものがゴミになって、それをいかにリサイクルするかまで考えている企業は数社しかいない。そのうちの1社であるシャープがスタートアップの熱量を求めているのは僕らにとってチャンスだと思う」(小笠原氏)
プログラムの概要についてはニュースでも取り上げているが、回路設計や熱処理、金型といったハードウェア部分だけでなく、ネットワークやシステムなどIoT製品に不可欠な要素や工場とのやりとりに必要な要求仕様書や原価管理、アフターサービス、そして資金調達に至るまでカバーしている。
これまでに延べ千社以上のスタートアップと会ってきた小笠原氏だが、最もスタートアップに欠けていることは製品の品質を適切に決める能力だと指摘する。
全体の把握と理解なしには品質は決められない
「やりたいサービスに対して適切な品質を設定するというのは試作の段階から重要な要素です。とはいえ、スタートアップがシャープと同じ品質基準を設定するというのではなく、目指すべき方向として大企業の品質とは何かを正しく知る。その上で自分たちの製品の品質を決めて、量産のステップに進めることが今回のブートキャンプの重要なポイントです。既に量産を経験したスタートアップでも自己流でやっていた人達であれば、今回のプログラムを受ける意味はあると思います」(小笠原氏)
メカ専門、組み込み専門など一部に明るい人材はいるが、全体を把握していないため正しい品質設定ができないことが開発の遅れや計画外の支出につながり、スタートアップにとって量産をより難しいものにしている。
「シャープさんには全体を幅広く理解している人を育成できる内容にしてほしいとお願いしました。製品開発において、どんな事がこの先必要かを正しく押さえることが重要なので、何か一つに特化するのではなく幅広く教えて頂きたいと。特に最近は作りたいものを作るのではなく、何か特定の課題を解決するためにハードウェアという選択肢をとる人たちが増えています。ビジネスプランはあるけど、実現する手段としてのハードウェアやソフトウェアの知識が足りていないというケースが多々あり、その中でも一番足りないのが“品質決め”なんです」(小笠原氏)
たとえばスマートロックひとつとっても、取り付ける場所が室内か室外かによって、求められる耐久性が大きく異なる。そういった求められる品質を正しく理解するためには全体を把握し、工場などの外部パートナーとのやりとりも難なく進めていけるだけの知識が必要だ。プログラムには、今、IoTスタートアップとしてスタートラインに立つための必要な要素が現場目線で反映されている。