位置情報×IoTの最前線
“落し物の専門家”が作った世界最小クラスの紛失物追跡タグ——MAMORIO
位置情報を活用したIoTの提供事例をテーマとした「位置情報×IoTの最前線」。第1回は、Bluetoothタグを活用した紛失物・遺失物探索サービス「MAMORIO」を提供するMAMORIOを訪れた。MAMORIOのサービスを開始した理由やサービスへのこだわり、開発の苦労などについて話を聞いた。
BLEビーコン内蔵のタグを活用した落し物探索サービス
MAMORIOはBluetooth Low Energy(BLE)ビーコンを内蔵したタグで、財布や鍵などの大事なものに取り付けることにより、スマートフォンと同期させることで、手元から離れた場合に通知を送って紛失を防止できる。紛失した場所をスマートフォンの地図上で確認することも可能だ。また、MAMORIOのアプリを入れているユーザー同士で協力して落し物を捜す「クラウドトラッキング」という機能も搭載しており、同機能をオンにすることで、他のユーザーが紛失したMAMORIOとすれ違ったときに、その場所を知らせてくれる。
MAMORIOの前身となる落し物ドットコムは、紛失物や忘れ物情報のポータルサイト「落し物ドットコム」を2012年8月にオープンし、現在も運営を続けている。このサイトは拾得物や遺失物に関する情報を、Twitterアカウントを用いて登録し、シェアすることができるサイトで、登録することで紛失物に関する情報を多くの人に見てもらえる。世の中から落し物を無くすことを目標に取り組んできた同社は、2014年11月、紛失物を防止するための新しい製品「MAMORIO」を開発するため、クラウドファンディングで資金調達を行った。
代表取締役である増木大己氏は、「海外でBLEを使った製品が続々と登場するのを見て、これを色々なものに取り付ければ、忘れ物をしたときに探索するためのデバイスとして便利に使えるのではないかと思いつきました。Kickstarterなどのクラウドファンディングでも同様の製品が資金調達に成功するのを見て、自分たちも作ってみたいと思ったのがMAMORIOを立ち上げたきっかけです」と語る。
クラウドファンディングで資金調達に成功した増木氏は、早速BLEタグの製造に取りかかった。当初は2015年の2月に出荷を開始する予定で2000個を量産したが、事前にテストしたところ、ビーコンが動作しないというトラブルが発生した。MAMORIOは電池交換をしない設計になっており、電池寿命は約1年間と設定していた。ところができあがった製品では、たった数日で寿命が尽きてしまう。
「採用を予定していたBluetoothチップは、スペック上は低消費電力で長持ちするという話だったのですが、実際にはファームウェアが対応していないことがわかりました。なんとかアプリケーションやファームウェアの修正で調整することで解決できないか試行錯誤してみたのですが、うまくいかず結局はすべて作り直しました。資金的にも苦しかったですが、ちょうどその頃スタートアップのピッチイベントに参加し、そこでプレゼンテーションをしたことが契機で資金調達が実現し、そのおかげでなんとか急場をしのぐことができました」(増木氏)
世界最小を目指したシンプルなタグ
増木氏がスタートアップイベントでアピールしたのは、クラウドトラッキングのサービスを日本でも実現したいという思いだった。「もともと私たちは落し物のポータルサイトを運営していて、落し物の専門家であるという自負があったので、『これまでのノウハウを生かして作りたい』と言ったところ、『それは説得力があるね』と評価していただきました」と増木氏は当時を振り返る。
海外製の紛失物追跡タグとの差別化を図るため、増木氏はBLEタグを極力シンプルに、そして小型化することを追及した。例えば海外のタグには、タグを見失ったときにスマートフォンの操作で音を出して知らせる機能が付いているものが多いが、MAMORIOにはこのような機能は一切付いていない。
「とにかく“世界最小”を狙いたいと考えました。海外のほうが先行しているので、同じ物を出すのではなく、小ささや薄さなどで勝負しようと思ったわけです。そのために余計な機能はすべて削りました。特に小型化・軽量化する上で電池は一番のボトルネックなので、これには電池の中でも薄くて小さいCR1616を加工したものをベースにデザインすることにしました。また、電池交換も可能にしようとすると、開け閉めするための機構が必要となり、地面に落としたときなどでも耐えうる一定の強度を保つためにも、内部のスペースに余裕を持たせる必要がありますが、電池交換を不要にすれば強度を保ちつつ小型化が可能になります。」(増木氏)
タグの外装は2つのプラスチックパーツに分かれているが、この2つを固定するのには当初“超音波溶着”という技術を用いていた。「精密部品が入っている電子部品には、基本的に超音波溶着は使わないのが一般的ですが、これを思い切って採用したことにより、ネジを使うことなく固定することが可能となり、大幅に小さくすることができました」と増木氏は語る。