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STEM教育時代の学童保育を訪ねる

生きていくためのテクノロジーを教える—TECH PARKが考えるSTEM教育時代の学童保育のあり方

マルチスレッドからAIまで学ぶ小学生

AIについて子どもたちに教えようという提案も社内から。良いと思うものを、自分たちで提供することで独自のノウハウが蓄積している。 AIについて子どもたちに教えようという提案も社内から。良いと思うものを、自分たちで提供することで独自のノウハウが蓄積している。

TECH PARKの運営を外部委託せずに自社の社員で回しているのも、テクノロジーを使って仕事をしている大人から、テクノロジーを学ぶことが重要であるという考えに基づいている。

「社会の課題を解決するとか教育の場面でもよく言われていますが、私たちは実際に仕事を通じて社会課題を解決しています。であれば、私達が社会と関わっている部分を子どもたちにも触れてもらいたいと思っています。売買損益の話にしても、自分が損せずに暮らしていくためには必要だけど、本質を理解した人が教えないと子どもには腹落ちしません」

おやつを用意したスタッフの前に集まる子どもたち。PCから離れれば、おやつを食べたり壁によじ登ったりと一般的な学童保育と同じ過ごし方だ 運営開始から2年が経ち、スタッフからのアイデア提案も増えたが、何よりもスタッフが自分の子どもをTECH PARKに連れてくることが一番嬉しいと佐々木さんは話す。 「社員が良いと思ってくれる場所になっていることが、とても大事」 おやつを用意したスタッフの前に集まる子どもたち。PCから離れれば、おやつを食べたり壁によじ登ったりと一般的な学童保育と同じ過ごし方だ 運営開始から2年が経ち、スタッフからのアイデア提案も増えたが、何よりもスタッフが自分の子どもをTECH PARKに連れてくることが一番嬉しいと佐々木さんは話す。 「社員が良いと思ってくれる場所になっていることが、とても大事」

グルーヴノーツでは、プログラミングができなくても機械学習プログラムを組めるクラウドサービス「MAGELLAN BLOCKS」を提供している。その流れで今年から子どもたちにAIについて教える取り組みも始めた。

「初回のアクティビティは最首(最首 英裕社長)が担当し、『例えばAIを使えば、並べられた形の違いを見つけ、自動的に分類してくれるようになる。ある形は横から見れば四角に見えるけど、上から見ると円形だったりとか、また別の形は三角形だったりと、それぞれの個体差を見つけて分類してくれる。そうやっていろいろな形を見せてあげて学習させることで、AIは自分が今本当に欲しい形が何かを勝手に探してくれるようになる』という風な)教え方をしていました」

子どもたちは佐々木さんのことを先生と呼ぶ。佐々木さんが教室に入ると、子どもたちからの質問が絶えない 子どもたちは佐々木さんのことを先生と呼ぶ。佐々木さんが教室に入ると、子どもたちからの質問が絶えない

平易な言葉で説明し概念が理解できれば、大人が仕事で使うようなフレームワークも理解できるという。

「Scratchでプログラミングを教えているところは多いと思いますが、単純にネコを鳴かせる※のではなくて、エンジニアが仕事で実際に使っていることをScratchに落とし込んで説明しています。マルチスレッドをロジックから教えることもあります。『同時にキャラクター同士で演奏させよう』とか『そんなに長くコードを書かなくていい』とか教えていくと、マルチスレッドって本人たちに言わなくても、その概念は理解できます」

※Scratchの開発画面ではイラストで描かれたネコがプログラムで処理したとおりに動く

むき出しのほうが大事に扱う

子どもの入/退館を記録するシステムもスタッフがRaspberry Piで自作した。 子どもの入/退館を記録するシステムもスタッフがRaspberry Piで自作した。

教材もSTEM教育ではおなじみのツールを使うが、向き不向きもあるようだ。例えばMESHやlittleBitsといった外装がしっかりとしたものは、レゴブロック感覚で手に取りやすい一方、おもちゃのように雑に扱うことが多い。その一方でマイコンボードのようなむき出しの基板のほうが丁寧に扱うので学童には向いているという。

「プロダクトとしてきれいに作られているものほど、乱暴に使っても大丈夫だと思って失くしたり壊したりするんです。micro:bitやIchigoJamはむき出しになっているせいか、丁寧に扱わないといけないと思ってくれます(笑)」

アプリケーションの操作を覚え、考えるフレームワークを身に付け、自分を表現するためにハードウェアを活用する。そうすることによって、子どもたちは自分たちの好きなことや、日々の生活の中からアウトプットし、能力は着実に向上する。

「お父さんの影響で布袋寅泰モデルのギターを作った子がいましたね。外装はダンボールで作って、micro:bitを使ってギターを揺らすと音が鳴る仕組みを作って。ご両親も喜んでいたし、作った本人もすごく満足していました。0から1を生み出すのは難しいけど、少しだけアイデアの種を渡すと、子どもたちは1を10、10を100にするのは上手い」

隣の子どもの真似をすることも、公開されているScratchのコードを改造することも子どもたちのアイデアを膨らませるきっかけになる。そうして自分で走り出せる子どもが増えていくと教室全体に熱が伝搬する。

「Scratchのコードをリミックスすることを合作と呼んでるんですけど、子どもたちが『このソースコードをいただきます』って開発した人にサイト上の機能を使って伝えてるんですね。それで自分なりの要素を付け足して公開してというのを繰り返す。分からないことがあればSlackで社員並みにやりとりするし、アンテナの感度も高い。Scratchのバージョンアップ情報とか自分で調べてたり、YouTubeでやり方を学んだり、大人が使っているものでもすぐに使えるようになります」

肝心なのは最初のきっかけで、それは人のマネでもいいし、既存のものを組み合わせる形でも構わない。

「子どもは早く結果を出したいので、人に聞きまくる子もいれば、隣の子の真似をする子もいるし、ズルだと思われるようなことをする子もいます。でも、それは止めなくてもいいかなと、私個人は思います。それよりも『自分はできない』って言ってやりたくない意思を示している子には無理をさせずに『じゃあ、やらなくていいよ。別のことをやろう』ということもあります。みんなやっているからと強制させる必要はない。いろんな題材がある中で、子どもたちが自分で選び、教えあって真似し出す。そうしているうちに刺激しあって、それぞれのオリジナリティが出るようになる」

テクノロジーは何のためにあるか、子どもに説明できますか

子育てがしにくくなり、誰も子どもを持ちたがらない社会になると、出産や育児のすべてをバイオ技術やロボット、AIといったテクノロジーで代替するような社会になるかもしれない。そうならないためにも、自分たちにできることを続けていきたいと佐々木さんは話す。 子育てがしにくくなり、誰も子どもを持ちたがらない社会になると、出産や育児のすべてをバイオ技術やロボット、AIといったテクノロジーで代替するような社会になるかもしれない。そうならないためにも、自分たちにできることを続けていきたいと佐々木さんは話す。

佐々木さんは子どもたちにテクノロジーとは何か、どのように教えていますかと尋ねると「人の生活を豊かにするためのもの」というシンプルな回答が返ってきた。しかし、何をテクノロジーで解決すると豊かになるかという点が重要だと続けた。

「人の生活を豊かにする、そのためには嫌なことを人にさせない、人を幸せにするためにテクノロジーはあると思います。誰かの仕事を奪うとか、手間を増やしたり、人を追い込んだりするためにテクノロジーがあるわけではないと、いつも言っています。

今、少人数でやっている特別クラスも人を喜ばせるためにテクノロジーを使おうというのが根幹にあるし、他のクラスも含めてつらそうな人、困っている人がいたときに解決方法を自分で考えられる子に育ってほしいんです。突き詰めると愛される存在になってほしい。無口で人と関わるのが苦手だとしても、みんなが困ったときにテクノロジーで解決できて必要とされる存在になってほしい」

人のためにテクノロジーを駆使できる子どもになってほしいと話す佐々木さん。こうした佐々木さんの思いとテックパークの方針に関心を示す教育関係者は多く、講演依頼や視察の相談も絶えない。 人のためにテクノロジーを駆使できる子どもになってほしいと話す佐々木さん。こうした佐々木さんの思いとテックパークの方針に関心を示す教育関係者は多く、講演依頼や視察の相談も絶えない。

プログラミングやエンジニアリングといった言葉が先行するが、基本的には今の大人が小学校で彫刻刀や包丁の使い方を教わるのと変わらないと佐々木さんは考える。社会の中で役に立ち、人に喜んでもらうために自分のスキルを使える子どもになってほしいというのがTECH PARKの考えるSTEM教育だ。

「英語しゃべれますよとかプログラミングができるから入社させてくださいじゃなくて、こういうスキルがあるからあなたの役に立ちたい、仲良くなりたいって言えるのが大事だなって思います。それこそ、そういったハートの部分はAIには無い要素だから」

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