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2020年プログラミング必修化!「作る」ことで分かるSTEM教育

第8回 慶應SFC研究所 高大連携教育WG、奈良県立高で「つくりかたの未来講座」を開催——STEM手法で生徒の創造性を引き出すワークショップ

2018年3月17日、慶應義塾大学SFC研究所 ファブ地球社会コンソーシアム内 高大連携教育ワーキンググループ(高大連携教育WG)は、奈良県立磯城野(しきの)高校において、「授業レシピ」を用いたワークショップ「つくりかたの未来講座」を実施した。1つの正解を導かせるものではなく、参加者が問題点から自分たちで考えて解決法を見いだし、プロトタイプを作るという、STEM教育の手法がとられていた。

「授業レシピ」とは、慶應義塾大学SFC研究所、アドビ システムズ、ヤマハ、トロテック・レーザー・ジャパン、奈良県教育委員会で構成される高大連携教育WGが、教育現場での創造的問題解決能力育成を支援する目的で開発しているものだ。今回実施した「つくりかたの未来講座」は、2018年1月16日に発表した2種類の授業レシピのうち、高校生向けのワークショッププログラム「デジタル機械を活用したプロトタイピング」をベースとしている。 ワークショップには、奈良県内の5つの高校から集まった34人の生徒に加え、ICT活用教育エバンジェリスト育成プロジェクト(*)に参加する奈良県内の教員が参加した。またこのワークショップは教員が授業を実践する際の学習課題などを認識する、教育実践研究会として位置付けられており、奈良県内外の小中高校の教員20人ほどが見学していた。

*ICT活用教育エバンジェリスト育成プロジェクト:奈良県教育委員会が立ち上げた、児童生徒の情報活用能力を高め、情報社会の進展に対応した教育を推進するために、その指導的役割を果たす教員「ICT活用教育エバンジェリスト」を育成するプロジェクト。ICTを教えるのではなく、ICTをツールとして活用して教育効果を高めようという狙いがある。

奈良県内の県立高校5校から応募した生徒4~5人が1グループとなって課題に取り組んだ。進め方については教員が、機材やアプリケーションの使い方などはメンターがフォローした。 奈良県内の県立高校5校から応募した生徒4~5人が1グループとなって課題に取り組んだ。進め方については教員が、機材やアプリケーションの使い方などはメンターがフォローした。

生徒は4、5人ずつ7つのグループに分かれ、それぞれにICT活用教育エバンジェリスト育成プロジェクトの教員1人、そしてメンターが付いた。使用する機材/アプリケーションなどは以下の通り。

  • アイデアをまとめる形にするためのワークシート/スケッチシート
  • ソニーの電子タグ「MESH」
  • iPad(MESHのプログラミングや操作に使用)
  • オリンパスのオープンプラットフォームカメラ「OLYMPUS AIR」
  • ノートパソコン
  • 「Adobe Illustrator」
  • レーザーカッター「trotec Rayjet」
  • 「Fabble」

初めに、アイデアを形にするための基礎的なやり方(MESHデザインパターンカード、アイデアスケッチ)や、MESH、OLYMPUS AIR、Fabbleの基本的な使い方のレクチャーがあり、その後、今回のテーマが発表された。

ワークショップのテーマは「掃除×テクノロジー」だ。掃除はやらなければならないことだが、あまり楽しくないし、どちらかといえばやりたくない、ではどうすれば掃除を進んでできるようになるかという課題に対して、問題の分析からどうやって解決すればよいかをグループで考え、与えられた機材/アプリケーションを使って課題を解決するプロトタイプを作るまでを、3~4時間で行った。

マンダラートを使って、掃除の課題を分析。 マンダラートを使って、掃除の課題を分析。

課題の分析は、マンダラートと呼ばれる手法を使った。3×3の9つに区切ったマス目の中央にテーマとなる「掃除」と書き、周囲のマス目に「掃除」から連想される言葉を書く。次に連想された言葉から掘り下げたい言葉を選んで、またマス目の中央に書き、なぜそう感じるのかを周囲に書く。次にそこに出てきた理由を1つ選び、また別のマス目の中央に記入し、今度はそれを解決するためのアイデアを周りに記入させた。

マンダラートで得られたアイデアは、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)で10年以上にわたり実践されているアイデアスケッチという、アイデアをチーム内で共有し深めていく手法を使いながら、どれをプロトタイピングするかを決定した。

お互いに打ち解けるにつれて、議論も活発に。 お互いに打ち解けるにつれて、議論も活発に。

ここで各グループの生徒を、制作のプロセスを記録/編集するプレゼンテーション部門、機能を整理して実際に動かすプログラミング部門、機能的な形を決めて作るデザイン部門のいずれかの役割と責任を持たせた。これは、全員に役割を持たせることで、活発に活動する生徒ばかりが作業し、消極的な生徒がそれを眺めるだけになることを防ぐという意味合いもある。各グループには異なる学校の生徒1人ずつが割り振られているため、アイデア出しのころはややぎこちないコミュニケーションだったものが、役割分担のあたりではすっかり打ち解けてきて、活発な意見交換が始まっていた。

MESHデザインパターンカードを使った、アイデアスケッチ。 MESHデザインパターンカードを使った、アイデアスケッチ。

どのような方向性で課題を解決するか決まったグループから、デザイン部門とプログラミング部門が議論しながら手を動かし、プロトタイプを作り上げていく。プレゼンテーション部門はその様子をカメラで記録したり、Fabbleにドキュメントを残したりと、分担して作業をこなしていく。大半の生徒は、MESHやAdobe Illustrator、レーザーカッターなどを使うのは初めてだったというが、基本的な使い方とはいえ、必要十分に使いこなしていた。

数時間の後、作り上げたプロトタイプを各グループのプレゼンテーション部門が発表した。

密告ちゃん:掃除機などに振動センサーを取り付け、1週間振動を感知しなければ掃除をしていないと見なして、スマートフォンに掃除するよう通知する。通知後1週間しても振動を感知しなければ、スマートフォンの連絡先にランダムに「この人は掃除をさぼっている」という通知を送る。これにより必要最低限の掃除をしてもらう。

お知らせ機能付き掃除機:掃除用具の手入れをしないといけないのが問題と考え、ごみの量を検知するセンサーを掃除機に取り付け、一定量たまるとごみの写真を撮って、捨ててくださいというメールがスマートフォンに届く。

家族が笑って暮らすために:掃除をする意識を促すプログラムが作れないかと考えた。部屋の人の出入りや掃除していない期間から、ごみがたまっている部屋を判断し、掃除するようスマートフォンに通知を送る。

おそうじできたね。:掃除がめんどくさくなくなり楽しくなる方法を考え、掃除をするとキャラクターを育てるゲームを作った。掃除機のヘッドに取り付けた振動センサーと温度センサーで、掃除機を使っているかどうかを判断する。掃除をすると卵から動物のキャラクターが生まれる。掃除せずにいると、キャラクターもごみまみれになる。

チームポセイドン:掃除が楽しくなる掃除道具を作ることを考えた。ふた付きのゴミ箱のふたが開くと光センサーで音が出る。振動センサーではうまくいかず、光センサーにした。

マジックほうき:掃除が楽しくできるよう、ほうきに振動センサーを取り付けて振ると音が出るようにした。飽きないようさまざまな音が出る。

いかにモノを減らすか:使っていないものでもなかなか捨てられないことが問題と考えた。クローゼットのハンガーに振動センサーを付け、振動を検知すると写真を撮る。1年間振動がないと使わないものと判断して、自動的にフリマアプリに出品し、売れると通知が届く。

完成したプロトタイプのプレゼンテーションの様子。Fabbleに掲載した制作状況を表示しながら、プレゼンテーション部門の生徒が発表した。 完成したプロトタイプのプレゼンテーションの様子。Fabbleに掲載した制作状況を表示しながら、プレゼンテーション部門の生徒が発表した。
使い方が理解しやすいせいか、レーザーカッターはMESHタグのケースなどの制作に多くのグループが利用していた。 使い方が理解しやすいせいか、レーザーカッターはMESHタグのケースなどの制作に多くのグループが利用していた。

正直言って私は、今回の課題と与えられた機材を見て、どれも似たようなプロトタイプになってしまうのではないかと思っていた。しかし、生徒達が作り上げたプロトタイプは、限定された機材を使いながらも掃除をさせるためのアプローチはそれぞれユニークで、高校生の柔軟な発想に驚かされた。
アドビ システムズが実施した国際調査において、日本のZ世代(12~18歳)の多くが自分たちを「創造的」と考えていないという結果が出たことが、授業レシピを開発している高大連携教育WG発足のきっかけとなっているわけだが、今回のワークショップは、適切な機材/アプリケーションと場を与えれば、日本の生徒達は創造的な力をちゃんと持っていて発揮できることを証明するものと言えそうだ。

奈良県教育委員会は高大連携教育WGへの参画以外に、県立高校へのICTハードウェアの整備を進め、また教員と生徒のICT活用のための教育環境整備としてアドビ システムズと教育期間向け包括ライセンス契約を結ぶなど、急速に環境の整備を進めている。
県立教育研究所副所長の石井宏典氏によると、文部科学省が毎年実施している「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」において、奈良県は全国平均からもかなり低い状態にあるが、これを一気に引き上げ「フロントランナーとなることによって、ICTの活用で子どもたちの潜在能力や教員の能力を引き出すことにチャレンジしたい」と話している。

つくりかたの未来講座ワークショップに参加した生徒と教員、メンター他関係者の皆さん。 つくりかたの未来講座ワークショップに参加した生徒と教員、メンター他関係者の皆さん。

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