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ネコ飼いMaker必見!

手作りスマートトイレで愛猫の健康管理

ここ数年、コロナ禍で在宅の日々が増え、癒しを求めてネコを飼う人がグッと増えいまや飼育頭数は約895万頭となり、数字上は日本人の14人にひとりがネコを飼う空前のネコブームを迎えている。関連グッズも増え、中にはそこそこ値の張るものもある。そんなネコグッズを愛猫のために自作しているネコ飼いMakerたち。necobit(ねこびっと)さんもそのひとり。どんなものを作っているのか聞いてみた。

きっかけはネコイベント

名前にネコ(neco)を冠するぐらい、ネコ好きのnecobitさん。音楽と電子回路をテーマにMakerとしても活動している。その世界では知られた存在だ。
ロゴマークはもちろんネコ。現在は13歳になるメスの「ぽち」ちゃんと暮らしている。

necobitさんがネコグッズを作ることになったきっかけは、あるイベントだった。

necobit:たまたま知り合いから「ねこIoTLT」というオンラインのトークイベントに登壇してくれないかと頼まれました。ネタとしてネコグッズを作ることになり、いろいろ考えて行き着いたのが「飲水計」だったんです。

なぜ飲水計だったのか? ネコは腎臓病になりやすく、その兆候は多飲多尿に現れる。以前腎臓病のネコを飼った経験のあるnecobitさんはそれを思い出し、簡易的な飲水計を企画したのだ。

necobit:飲み水の計測に重さを量るためのロードセル(後述)を使いました。簡易的に作ったわりにはうまくいったので、その経験を生かして次に「スマートトイレ」を作ろうと思ったんです。

手作りスマートトイレのシステムを説明するnecobitさん。 手作りスマートトイレのシステムを説明するnecobitさん。

necobitさんが目指すスマートトイレとは、ネコがトイレを使うことで取れる体重などのデータを健康チェックに役立てようというもの。

necobit:「ぽち」は抱かれるのがいやで、体重を量ることができませんでした。そこでトイレに入ったとき、自動で体重が量れる装置が欲しかったのです。常時計測してグラム単位で変化を見られれば、体重はもちろん、トイレの回数、滞在時間、排泄物の量などがわかります。データはクラウドに送り、スマホで見たり、ログとして記録したりしてグラフなどで可視化します。

ネコのためのIoTシステム

necobitさんのシステムは、こうだ。ネコトイレを平らで頑丈な板の上に置く。たまたま使わなくなったうどん打ち用の板があったのでそれを使ったとのこと。センシングして、データはマイコンボードで処理し、クラウドに送る。

ハードウェアとソフトウェアのシステム構成。 ハードウェアとソフトウェアのシステム構成。
板の裏に配置された電子部品。 板の裏に配置された電子部品。

重さを量る電子部品・ロードセルは、質量やトルクといった力を検出するセンサー。ひずみゲージの変形を抵抗値に変え、四隅で計測するタイプのものを使った。

当初は、トイレが砂等入れて5kg、ネコが4kgぐらいなので上限20kgが測れるタイプを考えていた。結果的に入手したのは32kgのもの。1個は8kg上限のものを四隅に配置した。ただし、そのままだと不安定だったので、3Dプリンターでステーを作って取り付けた。正しい計測にはセンサーの固定がポイントのひとつになる。

*ステー/部品を支えたり、補強したりする部材

お手製のステーを付けたロードセル。 お手製のステーを付けたロードセル。

マイコンボードとしてはIoTに強いM5Stackシリーズ中のM5StickC Plusを選択。これに計量機器用のチップHX711搭載の、M5Stackシリーズ用「重さユニット」を付けた。ロードセルからの入力データを処理するのに、以下のライブラリーにあるソフトを使っている。
https://github.com/RobTillaart/HX711

マイコンボードにはM5StickC Plusを使用。 マイコンボードにはM5StickC Plusを使用。
M5Stackシリーズ用の「重さユニット」 M5Stackシリーズ用の「重さユニット」

データの調整に一苦労

necobit:この構成でまずはデータを取ってみたのですが、思ったよりドリフトして、値がジリジリと変わってしまいます。そこで微妙に変わっていく数値は全部カットして、瞬間的に数値が変わったときだけ計測するという取り方をしました。

*ドリフト/センサー機器の計測中の値などが、継続的に意図しない変化を起こすこと。

ドリフトするデータ。 ドリフトするデータ。

処理したデータはWi-Fi経由でクラウドへと送り、クラウド上のサービスを使って可視化する。ここではのちにフレキシブルに数値を使えるよう、Googleスプレッドシートに数値を記録するスタイルを採った。

*Googleスプレッドシート/Googleが提供する無償の表計算ソフト。Webアプリケーションの一種。

necobit:取れたデータを見ると、よくわからないゴミのような数値が頻繁に出てきてしまいました。そこで閾値(いきち)の調整を行うことにしました。方針としては以下の3つです。

  1. ドリフト対策として常時10g以上の変動があったら0kgの基準点をずらす。
  2. 誤作動防止に200g以上変動した状態が20回計測分(約5秒)続いたら数値を記録する。
  3. ゴミ対策として数値が増えたときだけ記録する。
調整前のデータ。 調整前のデータ。

使ったデータはオープンソースで以下に公開されている。
https://github.com/necobit/Smart_Cat_Toilet
調整後のデータをグラフ化したものが以下の通り。

調整後のデータを基にできたグラフ。 調整後のデータを基にできたグラフ。

necobit:量り始めからひと月を過ぎたところで、体重が減っているのがわかります(Aの部分)。この時期、ちょうど引っ越しした直後で環境が変わったせいか食が細くなっていました。動物病院に連れて行くと、獣医の先生から「少し体重を増やした方がいいですね」と言われたので、環境に慣れて食べ出した頃を見計らって量を増やしました。そうしたらどんどん増え出して(Bの部分)太り気味になってきたので餌の量を以前と同じに戻しました。ちなみにときどき突出して現れる山は(Cの部分)砂や下に敷くシートを取り替えたときのものです。

さらにnecobitさんはネコがトイレに入ったときにLINEに通知を出すように設定した。IFTTTを使って、WebhookからLINE Notifyに通知される仕組みだ。

スマートトイレに入る「ぽち」ちゃん。 スマートトイレに入る「ぽち」ちゃん。
LINEの通知。数値はトイレを含んだ全重量を示している。 LINEの通知。数値はトイレを含んだ全重量を示している。

*IFTTT/「イフト」と読む。プラットフォーム仲介のWebサービス。
*Webhook/特定のイベントが発生したら別のWebアプリケーションに通知を発行するよう利用者が指定する仕組み。
*LINE Notify/LINEと外部のWebサービスやアプリを連携し、ユーザーがカスタマイズされた好みの情報を受け取ることができる機能。

進化するスマートトイレ

体重だけを追っていても、餌との関連性がわかって面白かったというnecobitさん。ただ、問題点も感じている。

necobit:精度をもっと上げたいと思っています。ネコの場合、10g単位まで正確に測れれば十分なんですが、そこまで至っていないですね。ウンチやオシッコの量までは今のところ、ちょっとわからない。ハード面、ソフト面、両方で修正の必要を感じています。

体重管理がうまくできるようになったら、次は尿の管理にも取り組みたいという。

necobit:経験上、尿路結石になったり、腎臓病の症状が進んだりすると、オシッコの色が変わります。オシッコが付いたシートの色を判別して、注意を促すようなシステムが作れたらいいなと思ってます。

*尿路結石/膀胱に結石ができて組織や尿道を傷付ける病気。ネコには多い。

手作りスマートトイレに大満足(!?)の「ぽち」ちゃん。 手作りスマートトイレに大満足(!?)の「ぽち」ちゃん。

まだまだ進化しそうなnecobitさんの手作りスマートトイレ。愛猫との幸せなネコライフを目指して開発は続く。

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