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1年半で国産ドローンを量産——金沢発、群制御に特化したドローンショー用機体「unika」を生んだスタートアップの歩みと未来

2021年夏、東京の夜空に立体的な地球とエンブレムが浮かび上がった光景を覚えている方も多いだろう。国立競技場の空を照らしたドローンショーには、1824台ものインテル社製機体が使われていた。

時を同じくして、とある日本のスタートアップがドローンショー用の機体開発に取り組んでいたのをご存知だろうか。その企業の名前は、株式会社ドローンショー(以下、ドローンショー社)。コロナ禍の1年半で量産までたどり着いた機体を活用、販売しながら、「M-1グランプリ2022」オープニングのショーを手掛けるなど、全国各地で活動の幅を広げている。

ドローンショー社は、他社製のドローンを扱うサービス事業者としてスタートしたのち、自社で機体を作るメイカー企業に転身。ドローンショーに特化した機体「unika(ユニカ)」開発の最終段階では、3D技術を活用した設計製造を得意とするスワニーとタッグを組み、スピーディな量産を実現した。2023年4月に創業4年目を迎えるドローンショー社の取り組みと、その先で目指すものについて取材した。

国産ドローンが長野の空を彩る

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時はさかのぼり、2022年10月28日。長野県伊那市の伊那スタジアムで、県内初となるドローンショーのリハーサル準備が進んでいた。互いに明るく声を掛け合いながら、100台ものドローンを手際よくセットしている若者たちが、ドローンショー社のメンバーだ。

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使用されるドローンは、ドローンショー社とスワニーが共同開発したunika。小型、軽量で持ち運びやすく、透明なボディは内蔵LEDが放つ光の拡散性も高い。ショーの設営から実演まで考慮した、ドローンショーに特化したオリジナルの国産機体だ。

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通信環境の確認や機体交換などをするうちに、会場はだんだんと暗くなっていく。設営は順調に進み、時間に多少の余裕を残して打ち合わせが完了。カウントダウンと共に、100台のドローンが空へ飛び上がった。

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BGMに合わせ、色と形を変えていく100台のunika。花火を近くで見ると球体であることが分かるように、ドローンショーも近くで見ると立体感が際立つ。画面越しでは味わえない存在感の強さに、筆者の心も大きく動かされた。長野の空を彩った国産ドローンによるショーは、翌日の本番でも数百名の老若男女を楽しませたという。

提供:ドローンショー社 提供:ドローンショー社

今回のショーで機体の配置やオペレーションに携わった人員は6名ほど。真剣に取り組む緊張感の傍ら、どこか部活動のような身近さと爽やかさも感じられたのは、彼らがこの事業自体を楽しんでいるからだろう。

左の写真でオレンジ色の道具を持っている人物が門前氏。 左の写真でオレンジ色の道具を持っている人物が門前氏。

そんなチームをリードするのが、ドローンショー社のチーフメカニックでドローンパイロットの門前龍汰(もんぜん りょうた)氏だ。音楽系のエンジニアを経て、個人としてドローンのエンジニアやレーサーとして活躍したのち、2020年10月にドローンショー社にジョイン。取材時27歳という若さながら、それまで海外製の機体を使っていた同社を、自社でドローンを開発するメイカー企業へと転身させたキーマンだ。

運用コストを突き詰めた、ドローンショー専用機体の開発

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ドローンショー社の活動拠点は、石川県野々市(ののいち)市の産学連携施設「いしかわ大学連携インキュベータ」内にある。3Dプリンターや電動工具、パーツやバッテリーなどがずらりと並ぶ空間では、機体のメンテナンスや新しい基板のテストなど、ショーに向けた準備や次世代機の開発が進められていた。

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門前氏と同社の出会いは、SNSの投稿がきっかけだったという。

「弊社代表の山本(代表取締役の山本雄貴氏)のFacebookの投稿がタイムラインに流れてきて、2020年8月に金沢港でドローンショーが行われたことを知りました。当時は個人でドローンレースのチームに関わっていたのですが、金沢は地元でゆかりもあるし、面白そうだと思って連絡してみたんです」(門前氏)

オンラインで意気投合した山本氏と会うやいなや、門前氏は当時ショーに使っていたドローンを解体し、バージョンの古さに気付いたという。日本ではまだドローンショー自体が珍しく、山本氏も中国から輸入した機体を使っていた時期のことだった。他社製の機体をショーで継続的に使うことには、ある問題がつきまとう。

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「不具合が起きたり、壊れたりした機体を修理する際には、毎回輸入元のメーカーに連絡する必要がありました。メーカーの返事や修理されたドローンが返ってくるのを待つうちに、費用も時間もかさんでしまうので、総合的に見るとランニングコストが高かったんです。修理も他人に任せて機体を使っているだけでは、ただの消費者でしかないというか、搾取されているような状況に近いと感じました」(門前氏)

ドローンショーという業態の性質上、スケジュール調整は重要な要素だ。壊れたときにすぐ修理ができず、納期も分からないようでは、サービスの安定供給もままならない。そんな状況を問題視し、商売道具を外部に依存してしまう体質を脱するべく、門前氏を中心とした自社製機体の開発がスタートした。

現在は組み立てから修理まで、社内で一貫して行っている。 現在は組み立てから修理まで、社内で一貫して行っている。

開発で重視したのは、ショーの継続的な運用まで含めてランニングコストを抑えること。自社ないし国内で製造や修理を完結できれば、海外とは数週間単位でかかるやり取りも、数日まで圧縮できる。品質面のみならず、運用面から見ても、できるだけ国内で生産することは開発の必須条件だった。

量産モデルの「unika」は5台までスタッキングできる。 量産モデルの「unika」は5台までスタッキングできる。

機体の設計には、ショーの運営で得た知見が反映されていく。スタッキング可能な足とくぼみを付けたのは、1人で何台も持ち運んでスピーディに設営するためだ。「おかもち」のような専用ケースやコンテナと合わせて使えば、ショーを遠方で開催する際も、より効率的に安全に運搬できる。あえて一部を分割したり折れやすくしたりしているのも、破損時にパーツごと交換できるようにするため。タイトな時間管理やスケジュール、安全性が求められるショーならではの発想が各所に詰め込まれている。

1年半での量産を支えた、スワニーとの強力タッグ

2021年9月に発表された、3Dプリント製の初期「unika」(提供:ドローンショー社)。 2021年9月に発表された、3Dプリント製の初期「unika」(提供:ドローンショー社)。

当初は3Dプリンターで最終製品まで生産することを想定していたが、次第に形状の制約や強度の問題に直面するようになったという。量産設計に悩んでいたところ、地元の商工会議所を通じてつながったのが、長野県伊那市の企業、スワニーだった。

写真左がスワニー代表取締役社長の橋爪良博(はしづめ よしひろ)氏。伊那スタジアムで開催されたドローンショーは、もともとスワニー向けの「unika」完成披露会として企画されていたが、橋爪氏の提案で一般向けイベントとなった。 写真左がスワニー代表取締役社長の橋爪良博(はしづめ よしひろ)氏。伊那スタジアムで開催されたドローンショーは、もともとスワニー向けの「unika」完成披露会として企画されていたが、橋爪氏の提案で一般向けイベントとなった。

スワニーは3Dモデリングと3Dプリンターなどのデジタルツールを活用した製品化を得意とする製品設計会社。3Dプリント樹脂で量産型を作る「デジタルモールド」などの独自技術も持ち、少量、中量のスピーディな生産を可能にしている。門前氏らが試作中の機体を持って訪れたところ、ドローンという言葉を聞いた橋爪氏の顔がガラッと変わり「やろう!」と快諾してくれたという。

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門前氏らが製作した試作機に、スワニーが量産設計のための工夫を加えていく。3Dプリントで作っていたパーツは全て、金型で成形する設計に変更して強度と量産性を確保しながら、構造の工夫で軽量化も行った。ステッカーで貼ろうとしていたロゴも、型を工夫してパーツと一体化した。それまで一体成形で考えていたスタッキング用の足も、橋爪氏のアイデアによって折れることを見越した脱着可能なものへと改良された。

「橋爪さんの『そうしちゃおうよ』という提案が、僕たちのプラスになりました。スワニーさんと出会わなければできなかったことが本当にたくさんあって、想定していたよりも良いものに仕上がったと思います」(門前氏)

透明なボディや電子部品をマウントする内部パーツなど、多くの部品が量産用に最適化された。 透明なボディや電子部品をマウントする内部パーツなど、多くの部品が量産用に最適化された。

スワニーへの発注から3週間という速さで量産モデルに生まれ変わり、500台分のパーツがそろったunika。門前氏らのアイデアと熱意に、スワニーの設計製造力が組み合わさったことで、2021年3月の開発開始から約1年半というスピードで量産が可能になったのだろう。

完成したunikaは、自社のドローンショーで活用されることはもちろん、一台約18万円という価格で販売もされている。国内企業ならではのサポート体制や安心感、総合的なランニングコストの優位性もあってか、花火や音響といったイベント関連の企業を中心に、個人ユーザーからも引き合いが絶えないという。

2022年8月に発表された「unika」の量産モデル。プロペラなどは海外製だが、いずれは全部品の国産化を目指している(提供:ドローンショー社)。 2022年8月に発表された「unika」の量産モデル。プロペラなどは海外製だが、いずれは全部品の国産化を目指している(提供:ドローンショー社)。

「僕たちだけでなく、いろいろな人が金沢や全国でunikaを飛ばす光景が当たり前になってほしい」と語る門前氏だが、unikaのような群制御を前提としたドローンに、幅広い応用可能性も見出している。

何十台、何百台もの機体が相互に通信することで、複数台で重い荷物を輸送したり、天候に左右されがちな農薬散布を短時間で終えたりと、群制御のドローンが効果を発揮できるシチュエーションはさまざまだ。unikaの生産を通じて高まった開発力や、毎週のように開催されるショーで培われた運用ノウハウは、今後の機体開発やサービスにも反映されていくだろう。

地方の強みを生かしたハードウェアスタートアップ

ドローンショー社の創業は2020年4月。代表取締役の山本雄貴(やまもと ゆうき)氏は、東京で複数のITサービスを立ち上げ、上場企業の取締役などを歴任したのち、地元石川県に戻って事業を始めようと志した。「東京ではどう頑張ってもまねできないようなテーマでビジネスを起こしたい」と考え、ドローンショーに取り組むことを決めたという。

山本氏。 山本氏。

「東京都内は地理的に狭く、開発中に何百台ものドローンを飛ばすのには手間がかかりますが、地方であればスペースが確保しやすい。僕らは石川県立大学と提携して、大学のグラウンドや体育館なども使わせてもらっています。思い立ったらすぐにテストして、うまくいかなかったらまた直して……という、ベンチャーに必要な試行錯誤が行いやすい環境があるのは、地方ならではの強みだと思います」(山本氏)

ビジネスとしてのドローンショーはなかなか理解されなかったが、「10人に話したら1人だけ面白がってもらえるようなものこそ、ベンチャーでやる意味がある」という思いで事業に尽力。2020年10月に開催された「スタートアップビジネスプランコンテストいしかわ2020」での最優秀起業家賞の受賞を機に、今の場所にラボを構え、県の支援も受けて地方発ベンチャーとしての色を濃くしていった。

門前氏と山本氏が持つ「unika」の「ka」は、金沢の頭文字から取ったものだ。 門前氏と山本氏が持つ「unika」の「ka」は、金沢の頭文字から取ったものだ。

「僕自身はハードウェアエンジニアではないので、最初は中国のOEM会社にドローンを発注して、国内の技適(技術基準適合証明)は自分で取るなどして進めていました。しかし、機体がいつ届くか分からなかったり、すぐ壊れてしまったりと、とにかくトラブルが多かった。次第にコロナも流行し始め、直接中国に行くこともできず、他社に依存する体質をなんとかしなければ、と思っていたときに門前と出会ったんです」(山本氏)

新型コロナウイルス感染症の影響で各地のショーが中止となって、売り上げが立たず、キャッシュが尽きる可能性もある中、門前氏を中心に急ピッチで自社機体の開発を進めていく。東京2020オリンピック開会式でドローンショーの認知度が急激に上がると、早くからショーを開催していた実績やSEO対策が功を奏し、会社への問い合わせが増えていった。需要の増加と機体開発がかみ合い、単なるサービス事業者からメイカー企業への転身を果たしたドローンショー社は、時流に乗って活躍の場を広げている。

「unikaは完成しましたが、会社のメンバーは誰一人として、これが最終形だとは思っていません。むしろ、ようやくスタートラインに立てたという認識です。ショーだけにとどまらない、ドローンを活用した課題解決に取り組む企業として、日本らしい品質の高さとコストまで配慮した設計を武器に、世界に通用するものを打ち出していきたいです」(山本氏)

ドローンが空に未来を描く

同社のメンバーの平均年齢は25歳前後と若く、地元の大学や高専からインターンで参加し、そのまま新卒で入社する学生も多いという。ドローンに関わる仕事をしたい学生にとって、スクールの講師やオペレーターだけでなく、機体の開発や運用から関われる選択肢は、魅力的なものに見えるのだろう。スタートアップらしく、あらゆる業務に全員で取り組む一体感があり、そこで過ごす日々は慌ただしくも充実したものになっているようだ。

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ショーの現場や開発室には、若いエネルギーと未来への野心が溢れている。新しい機体が日本や世界の空を飛び交う日も、そう遠くはないだろう。「仕事の幅も広がって、近いうちにドローンショーという社名は変わるでしょうね」と笑う山本氏らが見つめる空は、きっとどこまでも明るいはずだ。

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