クラウドファンディングとものづくりの可能性
Makerプラットフォームのzenmonoを通じて、ものづくりに携わる経営者が自立することが真の目的
2013年にスタートした、ものづくりに特化し、町工場や個人でものづくりを行う人を支援するクラウドファンディングサイト「zenmono」。
これまでに掲載してきたプロジェクトすべてが目標金額の達成を実現している。zenmonoでは、資金だけでなくものづくりを成功に導くためのパートナーとして、町工場との調整や開発に向けたさまざま支援を行っている。前回に引き続き、enmono を運営する三木康司氏と宇都宮茂氏にお話を伺う。今回は、ものづくりの分野で事業を行うために必要な要素とはなにか、その考えについて尋ねた。
enmonoは、クラウドファンディングだけでなく、Eコマースやメディア、町工場との調整役など、多角的な視点からものづくり全般を支援する取り組みを行っている。その根底には、どんなものをつくるか、どう出資者を募るか、どう販売するかなど、すべてのプロセスに関与していくことによって、ものづくりの成功事例を少しでも多く作りあげようとしている思いがある。
「ものづくりは、当たり前ですがお金があっても作れないんです。仮に1億円を調達しても開発や試作などですぐなくなることもざら。それよりも、いい開発会社とつながることで活路を見出すことが多い。(enmonoでは)作りたい製品にマッチした開発会社や町工場との間に入ったりしている。教育の場を提供することで、アイデアとお金、能力だけでなく、場所や人、町工場とのつながりがものづくりに必要なんです」(三木氏)
クラウドファンディングを通じたさまざまな効果
プロジェクトオーナー一人一人ときちんと向き合いながら、作り手が考えている思いをくみ取り、それをいかにしてストーリーとして伝えるかを常に考えているenmonoの二人。そうしてブラッシュアップされたプロジェクトオーナーたちの思いに共感した人たちが、プロジェクトのパートナーや協力者として集まり、大きな渦を作り出す。その取り組みは、ものづくりだけにとどまらず地域おこしなどの新たな側面を生み出すこともある。
例えば、zenmonoで掲載したプロジェクトの一つである「大正ロマン・蕗谷虹児画伯の浴衣で温泉街に、にぎわいを。」では、地元新潟県新発田市出身の挿絵画家/詩人の蕗谷虹児氏が描いた浴衣を作成し、旅館で貸し出したり販売したりするためのプロジェクトだ。出資の対価として画家のポストカードや旅館のチケットなどを用意した。同時に、プロジェクトを成功させるために人材を募集したところ、浴衣を着たモデルに新潟出身者を中心に20人以上もの応募が集まり、地元を盛り上げるきっかけになったという。クラウドファンディングのプロジェクトを通じて地域の関係者との関係性が深まったり、プロジェクトに共感した人たちが集まることで活動の輪が広まったりしている。まさに、クラウドファンディングを通じてお金だけではないさまざまなつながりを作った事例といえる。
さまざまな開発ステージを経て、規模の大きなプロジェクトをzenmono上で展開したこともある。「日本生まれの空飛ぶ車“SkyDrive”をつくるプロジェクト 」のように、1回のクラウドファンディングプロジェクトでは製品が完成しないこともある。「試作機開発や実機の開発、そして量産体制に向けたプロジェクトなど、何段階ものプロジェクトを掲載することもある。トータルとしてプロジェクトが成功するためにzenmono上でできるサポートを全力で行っていきたい」(三木氏)
どんな段階であっても、クラウドファンディングとしてプロジェクトを掲載する限り、出資していただく人たちが納得したり共感し応援したくなったりする内容でなければならない。クラウドファンディングを成功させるためにプロジェクトオーナーたちがやるべきこと、説明すべきことがブラッシュアップされることで、はじめから大きな成功を目指そうとするのではなく、小さな成功を積み重ねながら、応援者を集め、確実にプロジェクトの成功に向けたステップを踏むことができると三木氏は語る。
zenmonoを通じて、経営者が自立することが真の目的
クラウドファンディングで成功することは、経営者の自信にもつながり、その後の事業にも大きな影響を及ぼす。クラウドファンディングで出資を募るということは日々の営業活動にも近く、経営戦略としてどう位置づけるかを経営者が考える機会となる。
「プロジェクトを掲載する前には見込み顧客リストを考えてもらい、SNSでの発信や個別にメッセージを送ったりしながら、支援を集めてもらうなど、営業の基本を学んでもらう。クラウドファンディングを成功させると考えるのではなく、ビジネスとしての振る舞いを覚えてもらうことが重要」(三木氏)
プロジェクト開始後は、進捗を随時プロジェクトページで更新することを促す。ものづくりにおいては、開発の進捗を気にする人も多い。また、工程上に遅延も起きやすいため、できるだけ開発の状況を共有することで共感や協力が生まれる。開発段階や予約購入、量産生産など、きちんと現状のステータスを更新し、定期的にアップデートする近況報告も欠かせない。
クラウドファンディングのプロジェクトを成功させるために広報戦略、PR、支援者とのコミュニケーションを考えることは、事業を成長させるためにプランニングし、実践し、自身が足りないリソースを考え外部との連携や協力を仰ぐという経営者として求められる振る舞いと直結する。つまり、クラウドファンディングプロジェクト成功に取り組むという経験が、ビジネスセンスや経営の経験の場となっていると三木氏は話す。
「クラウドファンディングをいかに成功させるかを経営者が考えるようになると、経営者としてのレベルが上がるんです。アイデアだけでなく、クラウドファンディングで成功するための原価計算や広報、メディア戦略、Webマーケティング、支援者やファンとのコミュニティ作りなどを自分たちで考えるようになるんです。経営者が自立する環境を作ることこそ、zenmonoが目指す本当の姿だと思っています」(三木氏)
いまは、ものづくりの覚悟が問われる時代
クラウドファンディングを通じてものづくりをする人が増えてきたがenmonoの二人は、クラウドファンディングは一つのツールであり、そのツールにあまり振り回されてはいけない、と指摘する。
「まず一番重要なのは、作りたいという覚悟。マーケットを見るのではなく、いかに自分が作りたいかという欲求に忠実になることで、その熱量がきちんと相手に伝わる時代。かつては、覚悟があっても資金をどう集めるかなど手軽にものづくりできる環境じゃなかったけど、いまでは短時間でお金や人材を集めることができる時代になった。だからこそ、余計に覚悟が問われる」と三木氏は話す。
同時に、ものづくりのプロセスが変わってきたと三木氏。試作ができたらオープンにしてアイデアを集め、それと同時に製品ができる前からファンを作る。インターネットを通じてさまざまな人とコミュニケーションができるからこそ、商品企画やマーケティングにも活用できる。リソースが少ない中小企業や作り手だからこそ、クラウドファンディングを含めたオンラインでのコミュニケーションは使わない手はないと話す。
「あらゆるものが見える化される時代だからこそ、大事なのは覚悟。だからこそ、zenschoolを通じて覚悟を説いているんです。覚悟がある人はきちんと残る。そして、そういう人たちを私たちは全力で応援していきたい」(三木氏)
新たな取組として2015年7月16日より、国内中小企業連携によるハードウェア・アクセラレーター 「zenfactory」(ゼンファクトリー)を提供開始した。
「ハードウェアビジネスで最も難しい部分は、R&D完了後に製品の製造コストを下げることと、製造をうまく回すことです。経験がないスタートアップ企業は、製造に関するリスクと必要なサポートを正確に見積もることの支援を必要としています。そこで、モノづくりに関わる豊富な実績を活用しながら、zenschoolでハードウェア商品開発のプロセスを学んだ中小企業が連携して、量産化に必要な支援を提供するのがzenfactoryです。
連携する製造業は、当社が2011年より運営しているzenschoolの卒業生で、プロダクトデザイン、基板実装、プレス、金属加工などを扱います。」(三木氏)