Dig up the underground「プロダクト一機一会」by 松崎順一
昭和のオーディオ界が激震した究極のアナログテープメディア「TDK MA-R」「TDK MA-XG Fermo」「SONY Metal Master」「Maxell Metal Vertex」
この頃よく知り合いの方から「カセットテープがいま流行りらしいですよ」と声を聞くことが多い。巷ではようやくカセットテープの再燃がささやかれているらしい。筆者が10年以上前からカセットテープの魅力について語ってきたことが世間で認識されるのは、正直言って嬉しい限りだ。さらに最近ではテレビをあまり見ない筆者が唯一見ている「マツコの知らない世界」でもテープの楽しさを語らせていただいた。
今回はそんなカセットテープの中でも当時なかなか買えなかったハイエンドのメタルテープを4品紹介させていただきたいと思っている。どの製品も今では伝説になっている貴重なものだ。日本でメタルテープが発売された1979年から90年までの景気が良かった時代を年代順に見てみることにしよう。
「TDK MA-R」
まず79年にメタルの申し子と言っても良いほど斬新なデザインで登場したのが「TDK MA-R」だ。
ダイキャストにアクリル板を組み合わせたハーフは、テープが空中に浮いているような感覚で未来感を感じさせる。
そして金属なので全体がひんやりしてずしっとくる重量がなんとも言えない名品だ。
上部の録音防止の爪は方向を変えるだけで何回でも使える。そして中央寄りに開いた2個の穴がメタルポジションの検知用だ。
「SONY Metal Master」
そして86年に登場したのが「SONY Metal Master」だ。SONYがハーフの素材に選んだのはセラミックだった。
全体がセラミックで覆われ、内部に一部金属を組み合わせたセラミックスコンポジットとしてハーフの精度を高めている。
表面が梨地仕上げでしっとり感も良い。
そして従来のラベルを貼る場所もなくして、この状態のままで使用する特殊な存在感のメタルテープはある意味SONYらしいこだわりだ。
「Maxell Metal Vertex」
Maxellがメタルのフラッグシップモデルの「Metal Vertex」を発売したのは89年で、他のメーカーよりかなり遅れての登場だった。
デザインはユニークで、中央には防振に効果を発揮する金色のメタルプレートを埋め込み、3ピースで構成されたハーフは高精度だ。
また、よく見るとメタルプレートにはシリアルナンバーが刻印されている。
そしてインスタントレタリングならぬフレームプレートが付属しており、ゴージャスな金文字でラベルを貼ることができる。
「TDK MA-XG Fermo」
最後に紹介するのはTDK MA-Rの進化形で、最終モデルとなる1990年に登場した「MA-XG Fermo」だ。
ハーフはダイキャストではなくなったが5ピースからなる精巧なメカニズムが特徴だ。外観は斬新さよりも落ち着いた高級感漂うデザインで、感触もしっとりしている。
この後メタルカセットテープは90年代後半まで各メーカーで製造され続けるが、MDやDATなどのデジタルメディアの登場でひそかに消えていった。現在では今回紹介したメタルテープは希少価値から価格の高騰が続いている。願わくは、メタルでなくても質の良いテープの市販を期待しているこの頃である。
「TDK MA-R」「TDK MA-XG Fermo」「SONY Metal Master」「Maxell Metal Vertex」
発売時期: 1979年~1990年
1979年~1990年に起きた主な出来事
- クイズ番組「クイズ100人に聞きました」放送開始(1979年)
- 任天堂「スーパーマリオブラザーズ」発売(1985年)
- 宇宙をテーマにしたテーマパーク「スペースワールド」(北九州市)開園(1990年)