イベントレポート
未来をプロトタイピングしよう——ソニーのフューチャーセッションワークショップに行ってみた
ソニーといえば、誰もが知る巨大企業であると同時に、FES WatchやMESHといった、同社の中でこれまでに無かった新たなプロダクトの開発や、独自運営のクラウドファンディング/ECサイト「First Flight」といった企業内スタートアップにも熱心なメーカーとして、fabcross読者にはおなじみの存在だろう。そんなソニーの新しい取り組みは、直接的なものづくりだけに限らない。今回は、未来のファッションをテーマにしたワークショップをレポート。柔軟な発想を育みながら、新しい事業アイデアを生み出すソニーの一端が伺えた当日の様子を伝えたい。
今回取材したイベントは、ソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」の一環によるもの。現業の範囲では思いつかないような、新たな事業アイデアを自由に発想するために、ソニー社員に加え、社外からもソニーが幅広い分野から招待した、テーマに関連する有識者人も参加するのが特徴だ。
今回のテーマは10年後のファッション。テクノロジーが進化する事で、ファッションにどのようなイノベーションが起き、どんな生活スタイルが生まれるのかディスカッションしようという内容だ。
このワークショップは3回シリーズ中の2回目で、既に1回目で参加者が定義した10タイプの未来人を下地に、ディスカッションが進められた。
こちらが1回目のワークショップから生まれた、10タイプの未来人。「気分とトレンドを押さえて好感度アップしたい欲張りレディー」や「みんなと同じがいい制服的ミニマリスト」といった、現代にもいそうなキャラから、「自分や家族の着たいを形にする素人のニューデザイナー」といったデジタルファブリケーションを意識したものや、「どんな環境でも快適に、エネルギー自給自足ワーカー」といった未来的なものまでラインナップされている。
まずは、各未来人になりきる形でタイプごとに集まってグループを作り、その中でお題に沿ってディスカッションを進める。各グループごとに、2025年の社会に起きているであろう、未来人にとってのポジティブなことやネガティブなこと、新たなニーズを話し合いながら、丸いボードに書き込んでいく。
その後、会場内を自由に移動して、他の参加者とそれぞれ2025年の未来人になりきって会話をする。未来の人になりきるということで、少しはにかみながら話す人もいれば、真剣に話す人までさまざまだが、今の自分ではない未来の自分になるという体験そのものを楽しんでいるようにも見えた。
この後、参加企業から今回のテーマに関連した短いトークセッションを挟み、最後に再びグループで、未来人がファッションショーに出演する事を想定し、どんなテクノロジーを活かしたファッションを纏うかをまとめて発表した。
今回のワークショップは、新しいサービスや商品を企画する際に使用される「ペルソナ手法」に近い内容だ。ペルソナ手法とは架空のユーザーを作り、そのユーザーのライフスタイルや行動をイメージしたシナリオを作る事で、実際の利用者を意識しながらサービスや商品の中身を具体化していくものだ。
テーマは10年先のファッションという、今の社会ニーズに沿ったものではない。しかし、少し先の社会をテーマにすることで、想像力を働かせながらプロダクトのアイデアを柔軟に生み出そうとする点で、新しい価値観に基づいたプロダクトを生み出すためのトレーニングのようにも映った。
イベント終了後、今回のイベントを企画/運営するソニーの新規事業創出部にお話を伺った。
——こういったイベントに参加する事で、社員の方からはどんな反応がありましたか?
この活動を始めてから約2年で、社内外から約1400人の方にご参加いただきました。「視野が広がった」という声や「皆さんの熱意を感じてモチベーションが上がった」などの声も頂いています。また、このワークショップから生まれた事業アイデアで、SAPのオーディション(※編集部注:ソニー社内の新規ビジネスコンテスト)に応募した社員もいました。
——プロダクトのアイデアが、このワークショップからも生まれているんですね。企画や進行の中で気を付けている事はありますか?
企画時に「これは既存の事業では話さないだろう」とか「社会的な課題があるのに、まだ取り組みが少ないのでは」というテーマを選定し、それを参加者の皆さんと一緒に考える「問い」に落とし込んでワークショップへと展開しています。参加者の皆さんには、所属する企業や組織、立場に囚われず、自分はどう思うのか、どんな未来を迎えるために何をしたいのかを考えてもらうようなファシリテーションを心掛けています。
今回のイベントでまとめた内容は翌月に持ち越され、アイデアソン形式でさらに未来のファッションとテクノロジーを具体化していくという。今回のワークショップはいささかSF的な要素もありつつ、だからこそ正解がない中で自由にアイデアを持ち寄れる点がユニークだと感じた。
ソニーでは、今後もこういった形式のワークショップをさらに進化させ、他業種の企業との共催によるアイデアソンやハッカソンにも展開していきたいと考えているそうだ。ものづくりのアイデアを出すには、身近な課題だけでなく、少し先の未来をイメージする事も大事だと感じた一日だった。