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イベントレポート

最優秀賞は医師が考案した遠隔聴診システム——オムロンの本気が見えた「コトチャレンジ」2期デモデイ

オムロンベンチャーズは、ハードウェア・スタートアップ向けのアクセラレータープログラム「オムロン コトチャレンジ」(以下、コトチャレンジ)のデモデイ(成果発表会)を2016年7月23日に開催した。コトチャレンジはオムロンの技術者や事業開発担当と組んで、アイデアを磨きながらサービスプロトタイプを三カ月で製作するプログラムだ。

コトチャレンジは以前にも紹介しているが、新規事業創出を加速させるために、企業とベンチャーとのコラボレーションを試みるオムロンが始めたプログラムの一つで、オムロングループの社員及び「匠」と呼ばれるOBエンジニアからのメンタリングを受けることができる。メンタリングでは市場調査や量産化に向けたノウハウ提供以外にも、営業ネットワークを活用し、大企業へのデモを行う事で実際の市場ニーズを把握するといった、オムロンのブランドを活かした支援も行っている。

今回は大学発ベンチャーや現役の医師に大学生チームなど、さまざまなバックグラウンドを持った5組が三カ月のメンタリング期間中に開発したプロトタイプを基にビジネスアイデアを発表した。ここからはデモデイで紹介された各製品を紹介する。

採血無しで血中脂質を計測するデバイス

手乗りサイズの黒いセンサデバイスを使って、実際に検査をする様子 手乗りサイズの黒いセンサデバイスを使って、実際に検査をする様子

2015年に設立した北海道大学発のベンチャー企業「メディカルフォトニクス」は採血することなく血中脂質を計測する方法を開発した。

ガンや成人病の原因となる食後高脂血症を簡単に検査できるデバイスで、血液の濁りを検出して早期の発見ができるとしている。

「食後高脂血症は簡単に検査できる仕組が現存では無く、症状が見逃されやすい」(代表取締役 飯永一也氏)

このデバイスのメイン利用者層としては心筋梗塞を一度発症した患者の再発予防で、飯永氏によれば年間80万人が心筋梗塞を発症し、その7割が再発しているという。2017年には研究者向けのパッケージでの販売ができるよう、今後はデータ収集と製品の改善に注力したいと説明した。

財布や定期入れからカードを出すことなく通信するデバイス

eNFCの和城 賢典氏はNFCに対応したカードやスマートフォンからの情報を専用のデバイスを通じて、指先で通信できるデバイス「eNFC」を開発した。

NFCの磁界を電界に変換し人体を介して通信できるのが特徴で、電車の改札で端末やカードを直接当てることなく、通信・認証できる事を目指している。現状のプロトタイプではカードを直接腕に装着したデバイスに挿入しているが、将来的には更に小型化したモデルやポケットにカードが入った状態でも通信できる仕組みを目指している。

また通信範囲を手首から先にするなど範囲を限定する事で、第三者から情報を抜き取られないといった工夫も図られている。プロジェクト中にオムロンのグループ企業を通じて、レジャー系企業や航空会社にデモを行う機会があったことで、さまざまな現場でのニーズを吸い上げながら開発することができたと和城氏は話した。このデバイスは審査員特別賞を受賞している。

現役大学院生による鮮度計測システム

大学院生3人によるiFACToryは野菜の鮮度を計測するデバイスを発表し、会場投票によるオーディエンス賞を受賞した。

スマートフォンへのアラートを通じて冷蔵庫の鮮度劣化を通知することで、気づかないうちに野菜が萎びていく事を避ける仕組で、主婦層をターゲットに考案した。コトチャレンジに参加した際はラフスケッチしかない状況だったが、オムロンからのメンタリングを通じて発表前日に特許出願までこぎつけたという。

オムロン社内チームによる植物工場向け水質管理システム

オムロンの現役社員によるチームU.W.Iは植物や野菜を工場で栽培する企業向けの水質管理システムを発表した。

国内の水消費の7割を占める農業用水の中でも植物工場に着目し、生菌の増殖を抑え、水の安全性を可視化するシステムを開発した。工場内で使用される水の生菌が増殖した場合、薬液を注入することで増加を防止。生菌の状況はシステムでモニタリングし、データで可視化される仕組みだ。

開発チームによれば、植物工場だけでなく水族館など水質管理が経営リスクに直結する業態への応用も可能としている。

最優秀賞は内科医が開発した遠隔で聴診できるデバイス

鹿児島県の循環器内科医、小川晋平氏は発症すると2~5年で死に至る可能性のある大動脈弁狭窄症を早期に発見するための聴診デバイスを考案。

循環器内科医の脳と耳を機械に盛り込むことがコンセプトで、「このデバイスで早期に発見し、カテーテル手術ですぐに対処できる状況を作りたい」という現場でのアイデアが反映された医療機器だ。

小川氏によれば2015年8月に厚生労働省が情報通信機器を使った遠隔診療を広く認める通達を発表したものの、実際に遠隔診療を受けた人はごくわずかで、小川氏自身も活用の方向を模索していた。その後、2016年4月に発生した熊本地震でボランティアとして被災地で診療にあたった際に多くの被災者が症状とは関係なく聴診するよう訴えたという。被災地から戻った小川氏はオムロンのエンジニアの協力の下、大動脈弁狭窄症向けに開発していた診療デバイスに遠隔で聴診可能な機能を盛り込み、デモデイ直前までデータ収集と検証を繰り返した。

「患者にとっては聴診した上で薬を処方してもらう事に安心感と信頼を覚えることがわかった一方で、聴診に対応した遠隔診療デバイスはほとんどなかった。僻地や被災地での医療に強い関心を持ちながら、さまざまな事情から現地にいけない医師は少なくない。そうした医師と患者をつなぐデバイスを一家に一台レベルで普及させ、遠隔医療の質に貢献したい」(小川氏)。

成功しないことにはアクセラレーター・プログラムは長続きしない

オムロンがアクセラレーター・プログラムを推進する背景には、自社だけで製品開発する時代は終わり、スタートアップが持つ優れたアイデアをオムロンのリソースを活かして早期に立ち上げ、新たなビジネスモデルを生み出すというエコシステムを生み出すことが今後の重要な課題と認識しているからだと、デモデイに参加したオムロン関係者から異口同音に語られた。

「今回はオムロンが目指すエコシステムと、企業とベンチャーのコラボレーションによる事業創出の事例づくりを強く意識しました。具体的には滋賀県の草津事業所内のファブ施設を活用した試作支援や、製品開発と事業開発に長けたOBをアサインし、グループ会社にも参加してもらうなど、ハードウェア・スタートアップにとって非常に高い壁となっている量産化と事業化をクリアするための仕組み作りに注力しました」(オムロンコトチャレンジの今林氏)

大企業によるアクセラレーター・プログラムが増え続ける中で、結果に拘らなければ長続きしないという。

「取組がうまく行かず、他のプレーヤーと『どこがやってもうまくいかないね』という苦しみを分かち合っても何の意味もないので、成功事例を生み出すことに徹底してこだわることを今回は強く意識して、社内で議論を積み重ねて形にしてきました。結果的には昨年よりも充実した体制でスタートアップの方たちと並走できたのではないかと思います」(今林氏)

今回のデモデイに揃ったプロトタイプから成功事例が生まれるかどうかは今後に委ねられるが、現時点では手応えを感じているという。今回のデモデイに参加した二期生は継続してオムロンのサポートを受けながら製品のブラッシュアップを経て事業化を目指していく。また第3期の準備も始めているとの事なので、アイデアをオムロンのテクノロジーを通じて製品化したいMakerは応募してみてはいかがだろうか。

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