今週行ってみたいイベント
人間の卓越した技にテクノロジーが加わるとき——シルクロード特別企画展「素心伝心—クローン文化財失われた刻の再生」(上野)
文化財の記憶をより広く、より長く後世に継承していくために東京藝術大学が長年行ってきた文化財の復元/複製プロジェクトを紹介したシルクロード特別企画展「素心伝心—クローン文化財失われた刻の再生」が、2017年10月26日まで上野の東京藝術大学大学美術館で開催されている。
伝統的なアナログ技術と先端技術で文化財を複製
fabcrossで文化財? 仏像? と思われる方もいるかもしれないが、今回紹介する展示は仏像にフォーカスしているわけではなくその制作プロセスがfabcross読者の興味をそそるのではないかと思い紹介している。クローン文化財とは、プリンター、スキャナー、3Dプリンターなどを駆使して失われつつある国内外の文化遺産を復元/複製していくものである。
現存している法隆寺の釈迦三尊像は制作当時の姿を完璧には残しておらず、欠損している部分や、現在左右に設置されている脇侍は当時と逆側に設置されているのではないかと言われている。
本展で展示しているクローン釈迦三尊像は、東京藝術大学が蓄積してきたノウハウや古い資料から当時の姿を蘇らせたものだ。現物を3Dスキャンし、欠損した部分を3Dモデリングして3Dプリンターで原寸大に出力し、それをもとに鋳物で鋳造し再現しているのだが、テクノロジーだけでは解決できない部分が多分にある。文化財は移動や触ることが基本的にはできないため仏像の裏側などスキャンできない部分が多くあるので、資料や模刻師の知識を生かして形を生み出したそうだ。また新しく作るとキンキラの真鋳色になってしまうので、古さを再現するために着色し経年変化を再現している。人が見たときに違和感を覚えないものに仕上げることが重要だという。これらの作業は人の知識や技に依存しなくてはならないので、テクノロジーと人間の匠の技があってこそなしえたものだ。
何が本物か? 復元の概念を持つ日本から、世界へ
最近では平等院鳳凰堂や日光東照宮など復元が完了し建立当時の姿が蘇っている。実はこの文化財の復元という概念は日本を始めとしてアジア特有の考え方で、ヨーロッパなどは復元したらオリジナルではないと考えが強い。建物を石で作っていた文化か木で作っていた文化かで考え方が随分違うのだろう。だがこの文化財復元の考え方は徐々に世界に広まろうとしていて、本展示ではシルクロードの文化財を中心に世界の文化財復元/複製プロジェクトの歩みを見ることができる。
文化財は風化や自然災害によってなくなるものもあれば、2001年に起きたバーミヤン東大仏爆破のように人的要因で失われることもある。現存する文化財を守る大切さはもちろん、ものづくりには先端技術の発展と伝統的なアナログ技術の継承はどちらも等しく重要であり、上手くお互いを補うことで未来のものづくりが発展していくことを感じることができる展示になっている。本物ではないが本物に極限まで近いクローン文化財実物を見てどう感じるか、ぜひ会場で確認してほしい。
シルクロード特別企画展「素心伝心—クローン文化財失われた刻の再生」
会期:2017年9月23日(土)~10月26日(木)10:00~17:00(金曜のみ20時まで)
会場:東京藝術大学大学美術館(東京都台東区上野公園12-8)
入場料:一般1000円、大学高校生800円、中学生以下無料
オフィシャルサイト:http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2017/sosin/sosin_ja.htm
主催:東京藝術大学、東京藝術大学シルクロード特別企画展実行委員会、山陰中央新報社、公益財団法人しまね文化振興財団