パリの熱気を体験したTHE SHIFT tour ~VIVA LA FRANCE~
世界が注目するフランスのオープンイノベーションをツアーで体験——飛躍する熱気はどのように生まれているのか?
2019年5月16日から18日の3日間、フランスのパリに拠点を置く広告代理店グループPublicis Groupeが主催するフランス最大のテクノロジーとオープンイノベーションが集う展示会「VIVA TECHNOLOGY 2019」がフランス・パリで開催された。今回で4回目を迎え、過去最高となる125カ国からの来場者12万人以上、1万3000スタートアップが参加し、世界中から熱い視線を集めた。
日本からは、DMM.make AKIBA主催による、体験や出会いにフォーカスした「THE SHIFT tour ~ VIVA LA FRANCE~」が組まれ、筆者はこのビジネスツアーに同行した。VIVA TECHNOLOGYの魅力だけではない、充実のコーディネートやミートアップ等のツアー内容も合わせてご紹介したい。
フランス・パリの最先端情報を体験する
VIVA TECHNOLOGYに合わせて催行された本ツアーは、開催2日前の5月14日に始まった。ツアーは、現地での「体験」にフォーカスし、参加者が自らのさまざまな価値観を「シフト(変化)」させることを目的としている。フランスの大手企業からスタートアップやVCを訪問、世界最大のインキュベーション施設やパーティ等に参加する内容で実施された。
まず初日の午前中は、3D CADソフトウェア「CATIA」で世界的に有名なDassault Systemesを訪問。同社が展開するものづくりプラットフォーム「3DEXPERIENCE」を軸とした製品紹介や機能の説明、中でもユーザー同士がオープンに意見交換し、アイデアの共有や改善、開発プロセスが合理化されていたのが印象的だった。次にイノベーションラボのチームから取り組みや開発中のプロダクトを紹介してもらい、そのままランチを取りながらフランスの最新情報や日本でのビジネス展開について情報交換した。
最先端アートとスタートアップが共存する施設
続いて、パリの最先端アートを紹介するスペース104(サン・キャトル)を視察。104には、芸術保護やアートの作品展示が行われているだけでなく、オフィススペースにスタートアップも入居する。資金援助や開発を促進する場所として支援している。施設内を案内してもらいながら、2社のスタートアップと交流し、開発しているサービスを説明してもらった。共通して感じたのは、フランスのスタートアップは実証実験を非常に重要視し、開発のステップごとに街頭で意見を集めて、しっかりと製品にフィードバックしていることだ。
2日目の5月15日は、ハードウェア専門ベンチャーキャピタル(VC)のHardware Clubオフィス訪問からスタートした。Hardware Clubはハードウェアに特化したコミュニティベースのVCで、オープンイノベーションの活性化を目的としている。フランスのスタートアップの動向や大企業とスタートアップのオープンイノベーションに詳しい。フランスの事例やその背景について、フランスの政策と日本の政策による違いなど、じっくりとお話を伺うことができていた。
チャーターした専用車で移動して、超巨大インキュベーション施設Station F内のイタリアンレストランでランチタイム。Station Fは、シェアゾーンとクリエイトゾーン、レストランゾーンの3つに分かれ、スタートアップが入居するシェアゾーンとクリエイトゾーンは関係者しか入館できないが、レストラン「La Felicita」のあるレストランゾーンは誰でも入場可能だ。2018年にオープンしてからパリでも話題で、お昼時は各スタンドに長蛇の列ができる。筆者が並んだ時は、待ち時間10分程度で、料理は美味しく、ツアー参加者と一緒にランチを楽しむことができた。
フランス企業とスタートアップが双方の強みを活かす取り組み
ランチ後は、Station Fの近隣にオフィスを構えるUSINE IOを訪れる。USINE IOはハードウェアスタートアップの支援を目的に設立された企業で、製品化に向けたコーチングやアクセラレーションプログラムを提供している。オフィスに到着すると、USINE IO創業者のベンジャミン・キャルル(Benjamin Carlu)氏からフランス企業とスタートアップの取り組みやアクセラレーションプログラムの紹介が始まった。フランスの事例は日本企業やスタートアップにもヒントとなるようなものが多く、ツアー参加者からもたくさんの質問が寄せられ、盛んに情報交換を行われていた。盛り上がっていたのは、フランスの大企業とUSINE IOが一緒にテーマを決め、スタートアップとコラボレーションする取り組み。大企業とスタートアップの強み弱みをフォローし合うことで、お互いに利益のある事例が生まれていた。
USINE IOのベンジャミン・キャルル氏とStation Fに移動し、シェアゾーンを視察しながら施設の説明を伺った。詳しい説明はここでは紹介しきれないが、施設には、選考をくぐり抜けたスタートアップが入居し、資金提供や活動の支援を受けている。政府系機関や大手IT企業、LVMH、L'Orealなどフランスを代表する企業も名を連ねる。スタートアップの活動が盛んで活気にあふれていた。イベントエリアでは、世界で話題のアフリカテックのイベントが開催され、最新情報もしっかりとキャッチアップしている印象がある。
Station Fで開催されたDMM.make AKIBAミートアップイベント
超巨大なStation Fのシェアゾーンからレストランゾーンに移動し、DMM.make AKIBAが日本で情報交換と交流を目的として現地パートナーと協力して開催しているものづくりミートアップイベントに参加した。異国の地にも関わらず、開始時間が近づくに連れぞろぞろと人が集まりはじめ、フランスや海外で活動するスタートアップ、ツアー参加者全員を含む、20人以上の参加者で交流を深めていた。
VC Nightで通りを貸し切り
夜は、市街地の通り沿いのお店を貸し切りにして開催されたVC Nightに参加。前に進むのが困難なほどのにぎわいだ。招待されたスタートアップやVIVA TECHNOLOGY関係者で通りは埋め尽くされ、ワイングラスを片手に持ちながら情報交換が盛んに行われていた。初めて知り合った同士がまた違う人を紹介し、VCやスタートアップが交流の輪を広げているのが印象的だ。通り沿いのバルーンが浮かんでいるお店はVCが貸し切りにしている証。VCによってお店が分かれ、VCの招待客だけが入店を許されている。
VIVA TECHNOLOGY本番
いよいよ、VIVA TECHNOLOGY当日。去年(2018年)よりスペースが拡張された会場には、フランスの大手企業を中心に、フランスのみならず世界のIT大手企業のGoogleやFacebook、Cisco Systems等が出展し、会場は大いに盛り上がりを見せていた。名だたる大手企業が大きなブースで目立っている中、現地グローバル企業のアクセラレーションプログラムで選抜されたスタートアップもコラボレーションし、プロダクトを展示して存在感を示していた。
VIVA TECHNOLOGYのメインステージには、IBMのCEOジニー・ロメッティ氏やカナダのジャスティン・トルドー首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、Alibabaのジャック・マー氏等、世界中のリーダーが集結し、世界からのフランスの注目度や存在感を大いにアピールしていた。
年々勢いを増すフレンチテック
先日、エストニアのスタートアップが日本からの視察が急増し、訪問をお断りしているというニュースが話題になったが、決してエストニアだけの話でもなく、パリも例外ではない。断わられたという話も聞こえる中、本ツアーを通して、企業間の信頼関係がなければ訪問できないような場所に参加し、現地大手企業やVC、スタートアップと交流することが大きなきっかけになると感じた。
世界中でその存在感を示し、年々勢いを増すフレンチテック。現地グローバル企業とスタートアップがオープンイノベーションで上手くコラボレーションしていたのが印象深い。大企業とスタートアップが強みと弱みを補うために、互いに協力し合っているエコシステムが今後もさらなる飛躍を予感させていた。
次回のVIVA TECHNOLOGYも新しい発表や体験に期待が膨らむ。来年はぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。