今週行ってみたいイベント
アール・デコとラジオの歴史をひもとく——「Electric Media ラジオの時代」(名古屋)
国際デザインセンターが所蔵しているコレクションの中から、1930年代アール・デコ期に製作されたラジオを中心に当時のプロダクトデザイナーや社会背景を紹介した「Electric Media ラジオの時代」が、2019年9月22日まで名古屋の国際デザインセンターデザインギャラリーで開催されている。
ラジオが社会を変え、社会がラジオを変えた。
fabcrossで初めて紹介する国際デザインセンターは、グラフィック作品から家具や食器などのプロダクト製品まで、ライフスタイル全般にわたるデザインに関わるもの2000点余りを収蔵している。コレクションシリーズ展は毎回テーマを設け当時の作品を紹介しており、本展では20世紀のデザイン史において日本の産業デザインにも大きな影響を与えた、1930年代アール・デコ期のアメリカのデザイン製品の中から、ラジオを中心としたプロダクトと、それに関連したデザイナーの仕事を紹介している。また製品とともにエンターテインメントビジネス急成長の礎となった映画、音楽などの関連資料により当時の社会背景を紹介したとても興味深い展示だ。まずはラジオとともに音楽の楽しさを普及させた製品たちを紹介しよう。
1940年代以降のジュークボックスは、戦後の景気回復や軍用に使われていた金属やプラスチックが使えるようになって装飾的なモデルが登場した。デザインを歴史的な観点で見ると、その時代の事情がデザインに大きく影響を与えているのがよく分かり、単に装飾的デザインとしてしか捉えていなかったものが、違う見え方になってくる。
1930年代中期にデザインされた蓄音機、当時の人も音楽をさまざまな場所で聞きたいという欲求があったのだろう、このプロダクトが世に出てから40数年後にウォークマンが登場すると思うと、人間の探求する力はすごいと感じる。
このピアノは舞台上で使われる用に作られたものだ。演奏時に、ピアノ演奏者が音楽に合わせて踊るダンサーを見るために、アップライトピアノにあるようなトップドアを省略した特別仕様。
ここからはラジオ業界の発展とともにさまざまなデザインが生まれたラジオ製品を、展示物の中から少し紹介したい。1929年、エドウィン・ハワード・アームストロングが雑音の少ないFMラジオを発明したことにより、AMラジオから音質が格段に向上し次第にコメディ、クイズ、ダンス、バンド、軽音楽など、娯楽色の強い内容が増加しました。1925年に10%足らずであったアメリカでのラジオの家庭普及率は、1930年代には85%にまで達したといわれている。目覚ましい技術の進歩の中で開発された新しい機能や素材がプロダクトデザイナーの手によって取り入れられ、次々と魅力的な製品が生み出された。
これら2つのラジオの共通のデザイン的特徴として、1930年代に大流行したコバルトブルーミラーが使われている点がある。未来をイメージさせる美しい素材だったが、軍事資源として使用が禁止され1940年代以降は製造されなくなった。
当時の新素材の中でも技術革新で精度を上げたクロームメッキは、ラジオなど新しい家電製品に多用された。またラジオチャンネルを変えるツマミにもアール・デコの特徴の一つでもある流線型を思わせるデザインにもなっている。
車のラジエーターグリルのデザインを全体のスタイリングに応用したデザイン。立体的なボリューム感とインパクトのあるデザインが人気を集めた。
ルーズベルト大統領の愛犬であるスコティッシュ・テリアの「ファラ」をモチーフにしたデザインで、1930~40年代にスコティッシュ・テリアのマークがついている商品がラジオだけでなく流行した。
デザインは時代を写す鏡のようなものだ、本展を見ていても流行、社会事情、技術革新など製品を通してさまざまな事物が見えてきて、とても興味深い。また現在は、主張が少なく生活に溶け込んで長く利用されるデザインが良いデザイン、という考え方もあるが、本展を見ていると、個性がひしひしと伝わるデザインのものが、身の回りに1つ2つはあっても楽しい生活ができるのではないかと感じた。アール・デコ期のラジオに絞った展示を見る機会もなかなかないと思うのでぜひ足を運んでみてほしい。
「Electric Media ラジオの時代」
会期:2019年8月24日(土)~9月22日(日)12:00~19:00
会場:デザインギャラリー(名古屋市中区栄3-18-1ナディアパーク・デザインセンタービル4F)
入場料:無料
休館日:火曜
オフィシャルサイト:http://www.idcn.jp/archives/custom_event/collection_24
主催:国際デザインセンター