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ジモトをつくる

学生から職人まで 「面白いもん作りたい」が集まる大阪の今 #ジモトをつくる

fabcrossでは日本各地でモノづくりにいそしむMakerやコミュニティを、これまで紹介してきました。各地のMakerコミュニティの今を、その地域に住むMakerがレポートする連載企画「ジモトをつくる」をスタートします。

第1回は大阪府。日本屈指の製造業集積地であり、現在も新しいチャレンジに意欲的なMakerが集うエリアです。大阪のMakerコミュニティの今をプロダクトデザイナー安岡裕介さんがレポートします。(担当編集:越智岳人 )

「こんなんどうですかね?面白いと思うんですけど」が口癖の安岡裕介と申します。大阪を拠点に 、プロダクトデザインで独立起業したばかりのものづくりフリーランスであります。アイデアを現実のものにするための手段と材料と人を探して、工場や素材屋を行ったり来たりしております。

早速ではありますが、私、安岡の超個人的視点からの、大阪でのものづくり現場をご紹介させていただければと思います。

大阪のファブ施設

ファブ施設は大阪でも近年数を著しく増やしており、個人のものづくりだけでなく、ビジネスとしての小規模生産にも欠かせない空間になっています。今回はファブ系の機器に力を入れている2つのコワーキングスペースを紹介させてください。

初心者からプロまでサポートする 天満橋「Co-Box」

私が大阪で初めてお世話になったファブ施設が大阪天満橋の「Co-Box」です。2014年に“レーザーカッターで作れる3Dプリンター”を思いつき、Co-Boxのめちゃくちゃ使いやすいレーザーカッターを使って無事完成させることができました。

めちゃくちゃ使いやすいレーザーカッター「VLS6.60」 めちゃくちゃ使いやすいレーザーカッター「VLS6.60」

Co-Boxが設置しているユニバーサルレーザシステムズの「VLS6.60」は加工エリアが813×457mmととても広く、ユーザーインターフェースがとても快適です。この2つの条件はレーザー使いにとって結構効きます。最近レーザー発振器を30Wから60Wに交換したそうで、より高精度・高速に加工できるようになっています。めちゃくちゃいいですね。

代表の本庄克宏さん。ファブ系の機器を駆使してギターをカスタマイズしている。 代表の本庄克宏さん。ファブ系の機器を駆使してギターをカスタマイズしている。

Co-Boxは代表の本庄克宏さんが自身のものづくりのためにレーザーカッターを購入しようと考え、それならコワーキングスペースを作ってみんなにも使ってもらおうと2014年から営業開始した大阪のものづくりコワーキングスペースの草分けです。

近頃UVプリンターやガルバノレーザーマーカーを新規導入。ファブ機器の組み合わせのレパートリーがさらに増えました。

ものづくりの楽しさを知るための広い入り口作りとしてマニュアル作りや加工手段のアイデア提示などに力を入れており、ものづくり初心者からビジネスとして成り立つ製品を作る人まで、総合的に応援してくれる大阪ではパイオニア的な存在のファブ施設です。

利用者の要望に応えているうちに3Dプリンターは4台に増えた。 利用者の要望に応えているうちに3Dプリンターは4台に増えた。
UVプリンターを使ったオリジナル製品を作る利用者も多い。 UVプリンターを使ったオリジナル製品を作る利用者も多い。

チャレンジを後押ししてくれる堺筋本町「The DECK」

堺筋本町駅徒歩1分、雨に濡れずにたどり着くことができる「The DECK」。広いコワーキングスペースが心地よく、多くのクリエイターや会社員、学生が作業や仕事の場として活用しています。1階がコワーキングスペースとデジタルファブリケーションスペース、2階がシェアオフィスになっています。

天井が高く開放感のあるコワーキングスペース。 天井が高く開放感のあるコワーキングスペース。

施設奥に防音バッチリのデジタルファブリケーションスペースがあり、3Dプリンター、レーザーカッター、布地にも印刷できる大判プリンターなどファブ設備が充実。特徴的な設備の1つにCNC切削機 Roland「MODELA PRO II MDX-540A」があります。個人利用が可能な高精度CNCをいち早く導入しており、使い方が分かればさまざまな形状を自由自在に切削できます。私は最近、「CNC切削機で作れるCNC切削機」をこのCNC切削機で作らせていただきました。

CNC切削機Roland「MODELA PRO II MDX-540A」オートツールチェンジャー付き! CNC切削機Roland「MODELA PRO II MDX-540A」オートツールチェンジャー付き!

このコワーキングスペースのストロングポイントは、代表である森澤友和さんのつなげる力にあると感じております。森澤さんは2016年に運営が開始されたThe DECKの立ち上げから運営に携わり、2018年8月から新しいコンセプト「Make It Happen!」“(困難を伴うことを)実現する。” を掲げてCEOとしてThe DECKを率いています。

The DECK 代表の森澤友和さん。チャレンジ精神の塊。先日、一緒にイノシシをさばきました。 The DECK 代表の森澤友和さん。チャレンジ精神の塊。先日、一緒にイノシシをさばきました。

The DECKでは森澤さんをはじめとするスタッフの方々がとても話しやすく、おそらくそれは私だけが感じていることではないはずです。そういった雰囲気にあふれたThe DECKという空間で、人と人とのアイデアや技術、人脈が小気味よくつながる現場を見ることができます。最新技術に対するアンテナが敏感で、ニューデバイスやコンセプチュアルな作品の展示なども積極的に行っています。リモートワークの需要に対応して個室ブースを2区画設置するなど、前向きな変化を常に感じることができるコワーキングスペースです。

Made in The DECK としてオリジナル製品制作ワークショップを企画中。 Made in The DECK としてオリジナル製品制作ワークショップを企画中。

大阪のものづくりプロフェッショナルたちも、何やらやっている

ものづくりというものは個人で完結するものもたくさんありますが、人と人、技術と技術がつながると、とんでもなく面白く新しいものが生まれることもやはりたくさんあります。大阪でものづくりをとことんやろうとした時に、ものづくりのプロフェッショナルの世界に飛び込むことになります。そしてその世界ではプロフェッショナル同士が切磋琢磨し、ものづくりの力を高め合っている様子を静かな高揚感とともに体験することができます。

大阪市生野区の町工場から始まった「ものづくりセッション」

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大阪市生野区は、大阪市の中でも最も製造業事業所の多いエリアです。その生野区で工務店を営む木村工務店の木村貴一社長と、町工場の方々が信頼を寄せている武田雅幸さんが、実際に工場でものづくりをしている人たちだけでなく、デザイナー、建築家、コンサルタント、大学教授など、ものづくりに関わるさまざまな人々が同じ空間に集う「場」を作ろうと始めたのが「ものづくりセッション」です。

2019年1月から2カ月に1回のペースで開催しており、生野区「まちのえんがわ」にて毎回3人ほどのクリエイターや工場の方々が皆の前でプレゼンし、「こんなんやってます。なんかできませんか?」と投げかけ、それに対して「面白い」「すごい」「ウチのこの技術合わせたらこんなんできる」というような前のめりな「議論」ないしは「セッション」と呼ぶにふさわしいやりとりが繰り広げられています。

発起人の木村貴一さんは「BtoBは技術と技術の結びつきだけではなく、人と人との好意的な結びつきがなにより大切だ」と、このコミュニティを通して確信したそうです。

ものづくりのプロフェッショナル同士だからこそ、皆興味津々。 ものづくりのプロフェッショナル同士だからこそ、皆興味津々。

私が参加させていただいた際にも、いろいろな立ち位置からの、ものづくりに対する真摯な姿勢を体験することができました。武田雅幸さんいわく、「商売になればいいという思いはあるが、仲良くものづくりの気概を高め合うことこそが重要」とのこと。現在はコロナ禍により休止中ではありますが、生野区の町工場から誰も想像し得なかった製品や技術が生まれ出る湧水源がここにあると感じております。

クリエイティビティの不老を体現するヘラ絞り工場「吉持製作所」

左が代表の吉持剛志さん。右が弟の道雄さん。 左が代表の吉持剛志さん。右が弟の道雄さん。

「ものづくりセッション」で知り合えた町工場の職人さんの1人、吉持剛志さんが経営する、大阪市生野区で50年以上続くヘラ絞り工場が吉持製作所です。ヘラ絞りとは、ステンレス、アルミ、真鍮、銅などの一枚板を回転させながら金型に“ヘラ”で押しつけて、さまざまな形状に加工する技術です。

1枚の薄板がここまで形状を変化させる。 1枚の薄板がここまで形状を変化させる。

吉持製作所は手絞りにこだわっています。人の手の力がてこによって何倍にもなりながらも繊細にヘラ先に伝わり、1枚の金属板がみるみるうちにさまざまな形状に変形していく様子は、まさに圧巻です。ヘラで金属を絞ると、高圧でもって金属内の不純物が絞り出されて表面に黒い“あく”のようなものが染み出してくるのが面白く、さらに元の板より金属の強度が高まります。このヘラ絞りの技術がランプシェードやバケツ、産業機器、工芸品などさまざまな製品に活用されています。

長年大手メーカーの下請けを続けてきた中、近所のヘラ絞り工場がどんどん減っていく状況を見た吉持さんは、大阪市で中小・ベンチャー企業支援を行っている「大阪産業創造館」のITセミナーに通い、WEBページを作成して世界に向けて自分たちの仕事の広報と営業に打って出ました。その結果、下請けだけでなく小さな仕事や思ってもみなかった製作依頼などをつかみ取りました。検索エンジンで「大阪 ヘラ絞り」をキーワードに検索するとトップに表示されるヘラ絞り工場として、現在もヘラ絞り機を毎日回せているとのこと。

硬い金属は熱をかけて曲げやすくし、酸化した箇所を磨いて仕上げる。 硬い金属は熱をかけて曲げやすくし、酸化した箇所を磨いて仕上げる。

吉持さんは70歳を超えた今も、持っている情報・技術を若い世代に伝える取り組みを続けています。一方、新しい技術・新しい時代の流れを取り入れることを怠っておらず、未来に目を向けている姿勢がとても魅力的です。

「工場の中にずっといても新しい仕事は生まれないよ」
「なんか作りたいもんあったら言ってね。僕も面白いもん作りたいから」

キラキラした瞳でそう話す吉持さんからは、クリエイティビティの不老性を確信することができます。

創業以来、故障知らずのヘラ絞り機。鉄なのになぜかみずみずしく輝いている。 創業以来、故障知らずのヘラ絞り機。鉄なのになぜかみずみずしく輝いている。

ものづくりのハードルを撤去する作業

デジタルなものづくりをもくもくと「大阪デジもく会」

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「大阪デジもく会(デジタル工作もくもく会)」は、日本デジタル工作推進機構が主催するコミュニティです。 電子工作やプログラミングをするときの孤独な時間を共有したり、情報交換やRaspberry PiやArduinoなどを使ってこれから電子工作を始めようとしている人たちをサポートしています。

大阪デジもく会の橋口和矢さん(左)と長者原亨さん(右) 大阪デジもく会の橋口和矢さん(左)と長者原亨さん(右)

はんだ付けや組み立て作業などのフィジカルな工程がより電子工作を楽しくさせるとして、「プログラミングと実際の工作が織り交ぜられるもの」を「デジタル工作」と呼び、推進しています。大阪各所のコワーキングスペースを会場に月1回以上のペースで、オフラインとオンラインを同時に開催しています。会の雰囲気は非常に和やかで、特に講義や催しがあるわけではなく、あくまで皆好き好きに「デジタル工作」を楽しんでいます。誰も頑張って喋ろうとしていないのがとても居心地良いですね。とんでもなくレベルの高い技術者同士がのんびり情報を交換しているうちに、現代の先の先を行くような技術や情報が生まれることがあると参加者の方が話していたのが印象的でありました。
大阪周辺で「デジタル工作」に興味がある人はぜひチェックしてみてください。

発声の振動に合わせて光るマスク。可能性のタネのようなアイデア。 発声の振動に合わせて光るマスク。可能性のタネのようなアイデア。
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ものづくりのタネを撒いてみる。

私個人として、最近一人の若者をものづくりの世界引き込んでいる最中です。先述のThe DECKでCNC加工をしている最中に見学に現れた梅田一輝くんは、「歯車を作ってみたい」という理由でものづくりコワーキングスペースを探してやってきたとのこと。なぜ歯車を作ってみたいのかを聞いてみると、「週刊少年ジャンプでやっている科学をテーマにした漫画(「Doctor Stone」ですね!毎週読んでいます)で、よく分からない形の歯車機構が出てきたのだが構造を実物で作ってみたくなってしまった」とのこと。めちゃくちゃいい動機ですよね。

私がすぐさまレーザー・CNC・3Dプリントの3択を提示し、どれで作るかいろいろと話しているうちに、なぜか3Dプリンターを作ってみることになりました。めちゃくちゃ遠い道のりだと念を押しましたが、梅田くんはやってみるとのこと。そそりますよね。なので、今一緒に作り始めています。

3Dプリンターの構造を説明する筆者(右)と梅田くん(左) 会場:The DECK 3Dプリンターの構造を説明する筆者(右)と梅田くん(左) 会場:The DECK

私は35歳ですが、彼は社会人1年目。この時点からものづくりの世界の扉を開くということは、私と同じ歳になる頃には今の私のはるか上の世界のものづくりができるようになっているはずです。そう思うと、とてもワクワクする自分に気付かされます。
ものづくりを楽しむために必要なものは、技術や知識だけでは限界があり、やはり人と人とのつながりだと痛感させられる毎日です。この時代にもしっかりとつながりを持ち、ものづくりの世界をさらに拡げていきたいと思う次第であります。

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