メイカースペースの作り方
どんなメイカースペースを作る?——理想に近い場所を自ら使うことから始めよう
メイカースペースの作り方を紹介する当連載。第2回は目的によって異なるメイカースペースのファシリティと機能について紹介したい。その上で目的にフィットしたメイカースペースを作るための近道についても触れる。
メイカースペースといっても、事業者によって目的も規模も大きく異なる。
立ち上がり始めた2011年から2012年ごろはコワーキングスペースと工房が一体化したようなメイカースペースや、機材を手軽に利用できることを目的にした施設が多かったが、最近では特定の用途や目的に特化したメイカースペースが増える傾向にある。個性的なスペースが多いが、あえて分類するとすれば現時点では以下のようになる。
規模別分類
地域密着志向小規模メイカースペース
店舗用のテナントを利用するケースが多く、運営者も個人ないしは中小企業がメイン。およそ30~100平方メートルのスペースに3Dプリンター、レーザーカッター、ミシン、はんだごてや工具などのハンドツールが用意されていることが多い。日本国内のメイカースペースの大半は、こうした小規模なメイカースペースで、補助金などを活用することにより立ち上げ費用を比較的安価に抑えることが可能だ。
しかし、運用面では苦労する事業者が少なくない。一人ないしは少人数で運営している施設がほとんどで、日々の運営にリソースの大半を取られ、外部へのアプローチや集客につながる活動ができないという問題がある。
小ロット生産までカバーする大規模メイカースペース
デジタル工作機械から旋盤やボール盤、木工、金属加工、塗装に至るまで、さまざまな工作機械をそろえ、幅広いニーズに対応している。国内ではDMM.make AKIBAやTechShop Tokyo、Makers’ Baseが該当し、ワークショップやセミナーなどのイベントや、制作したものをビジネスに展開する際のサポートサービスまでカバーしている。立ち上げ、運営ともにコストがかかることもあり、工房利用料以外でのビジネスで収益を確保する必要がある。また、運営会社も大手企業ないしは自治体など行政機関であることが多い。
運営形態別分類
独立事業型メイカースペース
メイカースペースが登場し始めた最初の2、3年は、企業や個人が新しい事業として立ち上げるケースが多く、現在も多くのメイカースペースが工作機械付きのコワーキングスペースのようなビジネスモデルで運営されている。しかし、機材利用や会員費だけでは黒字化が難しいことから、次に説明するモデルでのメイカースペースが増えている。
本業ビジネス連動型メイカースペース
企業の新規事業ないしは既存事業の機能拡張として運営されるメイカースペースが近年増えている。業種もさまざまで靴メーカーや木材商社、IT企業やクリエイティブエージェンシーなど、自社の事業と連動したサービスの提供やイベントを開催しているケースが多い。芸能事務所が服飾に特化したメイカースペースを運営するユニークなケースもある。利用者を中心としたコミュニティや、そこで生まれるアイデアやノウハウを活用するケースも多く、今後もこうしたメイカースペースは増えていくと思われる。
非営利型メイカースペース
企業内メイカースペースや学校内メイカースペースなど、特定のユーザーに向けた工房で、こちらも徐々に増えている。採算を追及する必要がなく、学生のスキル向上や社員のアイデア創出など目的にフォーカスした運営がしやすいメリットがある一方、事業ではないため収支ではなく利用状況やアウトプットを成果として見られるケースが多い。
共同出資メイカースペース
会員全員で運用費をまかなうメイカースペースも存在する。自由度が高い分、利用者自身の自主性や運営に対する主体性もある程度求められる場合が多い。この形態で運営されている「ハッカースペース」と呼ばれる施設の実態や事例については、高須正和さんの著書『世界ハッカースペースガイド』に詳しく紹介されている。
メイカースペースはビジネスという側面から見ると収益力は低く、非営利で行うにしても機材の導入費用やランニングコストの面から気軽に始められるものではない。そういう意味では3番目の新規事業を開発するためのメイカースペースや、学校内/企業内メイカースペースのような図書館的な立ち位置で運用できるメイカースペースという形態が今後はメインになっていくのではないかと筆者は考えている。