【2018年版】日本のファブ施設調査——成長期から成熟期へ移行d
2015年から定点調査を続けている日本のファブ施設数調査、2018年度のデータと動向についてまとめました。
増加ペースは鈍化、全国に191カ所
fabcrossが独自に調査した結果、2018年比で17施設が新たに加わり、191カ所のファブ施設が日本に存在することが分かりました。施設数は、2016、2017年と前年比約1.5倍ペースで増加していましたが、今年は1.1倍(174カ所から191カ所)と、増加ペースが鈍化しています。
また地域別で見ると北海道、中国、九州で施設数が前年比で減少するという、2015年の調査開始から初めての傾向を確認しています。
こうした鈍化の背景には2つの理由が考えられます。
まずひとつは黒字化のハードルの高さです。
これまでに多くのファブ施設を取材しましたが、多くの施設運営者が集客とマネタイズを課題に掲げていました。3年以上運営を続けているファブ施設でも固定会員からの会費による収益は半分以下、極端な例では1割というケースもありました。機材を置いただけのファブ施設では他の施設との差別化が難しいだけでなく、そもそも一般消費者の利用が多く見込めません。こうしたことからワークショップなどのイベントや受託業務などを組み合わせて収益を確保する必要があります。
また、特定の業界・用途に特化したり、他の事業で利益を上げたりすることでファブ施設をマーケティング活動の一環として利用する動きも顕著です。
2つ目は学校や企業内のファブ施設が増加していることが挙げられます。
これらは学生や社員及び関係者のみが利用できるクローズドな運営形態をとっているため、fabcrossの調査からは除外していますが、その数は着実に増えていることを取材活動の中から確認しています。
それらのクローズドなファブ施設は新しいアイデア創出の促進やオープンイノベーション活動を推進する目的で設けられ、単体での採算は考えなくていいという特徴があります。
しかし、利用を促進する仕掛け作りや、放課後や就業時間後の利用をどの程度許容するかといったルール作りの課題もあり、一般開放しているファブ施設同様に運営者側の積極的な働きかけが求められています。
こうした流れを受けて運営ノウハウを持つファブ施設運営者・事業会社だけでなく、大企業のイノベーション促進をサポートする目的でコンサルティング会社が施設の立ち上げを請け負うようになり、今後はクローズドなファブ施設が中心になっていく可能性もあります。
ただし、その際に必要不可欠なのは場とコミュニティを円滑に回し、利用者やコミュニティーのポテンシャルを最大限に引き出せる人材です。この点は既存のファブ施設運営者やスタッフの知見やネットワークが生きる点であり、オープンなファブ施設は積極的に地域の法人やコミュニティに向けたアプローチが不可欠になっていくでしょう。
地域から支持されるファブ施設とは
2018年の調査結果を踏まえて、日本で最初に誕生したファブラボであるファブラボ鎌倉の渡辺ゆうかさんに、地域で支持されるファブ施設のあり方について伺いました。
あわせてご覧ください。
調査概要
2018年ファブ施設調査は、2017年11月1日から2018年10月31日にかけて、主にこれまでの取材記録やインターネット検索、Eメール及び電話での取材を基にしたものです。学生・教職員しか利用できない大学内施設や、社員限定の施設など、一般利用不可の施設は対象外としています。
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