2020年プログラミング必修化!「作る」ことで分かるSTEM教育
第6回 STEM教育には欠かせないコミュニティの存在とマイコンボード「micro:bit」が目指すもの
主体的な学習者を作るSTEM教育といえども生徒とメンターだけで問題解決ができるとは限りません。時には、過去のFAQを参考にしたり、誰かに聞くことも必要です。ネット上にはプログラミング言語ごと、マイコンボードごと、ユーザー同士の情報交換などのコミュニティがあります。これらを活用して、参考意見を取得し、自分の解決法を見出す必要があります。コミュニティの重要性について考えてみたいと思います。
巨人の肩に乗って問題を解決する
ものづくりを通して、プログラミングを中心とするコンピュータやITの技術を主体的な学習者として体験する中で学んでいく。4領域にまたがる内容を統合しながら課題解決への道筋を見つけ、個人の問題解決能力を養う。これがSTEM教育的な教室展開の典型的な例です。
こういったSTEM教育的な授業では、しばしば問題解決の袋小路に行き当たります。思ったように動くはずのものが動かない。何度、試行錯誤しても成果が上がらない。自分ではどうしようもないとき、一番手っ取り早い方法は「誰かに聞く」ことです。授業ではほかの生徒もいますから、友だちや参加者に聞く、あるいは先生やメンターのアドバイスを受けることは非常に重要です。ただ、しばしば彼らさえも立ち往生する場面があります。メンターなどは時に意図的にそういった姿勢を見せることがあるかもしれません。そんなときに役立つのがコミュニティの存在です。
ネットやクラウド上には問題解決につながるさまざまな関連コミュニティがあります。
プログラミング言語、マイコンボード、教師、生徒、Maker等々、カテゴリーごとに多種多様なコミュニティがあり、基本的に善意で無償奉仕してくれる多くのサポーターがいます。そこでは過去にあった膨大な質問と答えがあり、現にある問題に関して活発な議論が行われています。その中で、自分の課題に合った適切なコミュニティを見つけ、コンタクトを取り、コミュニケーションする能力はSTEM教育上の基本的なリテラシーとして欠かせません。
例えば、Scratchの公式Webサイトにはユーザー同志が交流できるディスカッションフォーラムや専門家に直接質問できるページがあります。あるいはマーク・ザッカーバーグやビル・ゲイツなどの著名人から資金提供を受けたCode.orgというNPO団体がアメリカにあります。そこでは、コンピュータサイエンスを学ぶ学生のための無料のオンラインレッスンがあり、教師向けには多くの授業用カリキュラムが用意されています。こういったコミュニティを活用すれば、学習者もメンターも必要とする情報にすばやくアクセスできます。
科学史上の偉人ニュートンは自らの業績について次のように語っています。
「もし私がより遠くを見たとすれば、それは巨人たちの肩に乗ったからなのです」
先駆者たちの仕事があったからこそ万有引力の法則を発見したのであって、リンゴが落ちるのを眺めていたから思いついたわけではありません。ITを前提とした社会には、ネットワークで結ばれた知の遺産が眠っており、IT技術によって容易にアクセスすることができます。そのスキルを習得すれば問題解決能力は飛躍的に向上します。
2000年代に学校現場に取り入れられたICT教育の重要性は今も色あせたわけではありません。必要としている情報に素早くアクセスするスキルは依然として大切です。ただIT技術は加速度的に進んでおり、テクノロジーを追いかけ、スキルを学ぶだけでは間に合いません。1歩進んでコンピュータの思考そのものを知る、コンピュテーショナルシンキング(計算論的思考)を身に付けることが必要になります。STEM教育の授業には必須の項目です。
越えなければならない壁
コンピュータを前提としたコミュニティ活用スキルを身につけようとする際に、前提となる難問がひとつあります。英語です。
この連載の第3回で取りあげた、埼玉大学STEM教育研究センターの野村先生のインタビューにもある通り、コンピュータやネット環境の有無と同じように、英語ができるかできないかによって接触する情報の格差が生まれる、という現実は避けて通れません。
もちろん日本人による日本語のコミュニティを利用するあるいは翻訳アプリを駆使してコミュニケーションを図るだけで解決できる課題も多々あります。それでも、コミュニティに深く入って、その規模を余すことなく活用するには英語の能力は必要です。
最近では、英語でプログラミングを教える教室やワークショップ、あるいは海外で外国人と一緒にSTEM授業を受けるイベントなども現れました。
英語に、プログラミングに、と子どもたちを追い詰め、さらに重荷を背負わせていくように感じますが、評判はいいようです。子どもは、楽しければ主体的に動き、勝手にコミュニケーションをとります。世界共通の現象です。要はそういった環境をいかに整え、提供してあげるか。親や教師に課せられた課題です。