アジアのMakers by 高須正和
手を動かし、組み合わせながら考えることがクリエイター、メイカーへの入り口になるTinkering Studio
2016年1月、シンガポールサイエンスセンターに、Tinkering Studioという施設が新しくできた。Tinkとはカン!っていう擬音で、Tinkering(ティンカリング)とはカンカン音を立てて物理的な工作、図工っぽいことをやることを指す。Tinkering Studioは今、Makerになるための入り口としてとても注目されている。
世界の科学館の草分けがアジアに
世界中のいろんな国に科学館がある。近代の科学館の大本は、サンフランシスコにあるExploratoriumだ。それ以前にも科学の博物館はあったけど、Exploratoriumは訪れた人に「自分で科学を体験し、発見してもらう」ことを目指していることに特徴がある。Explorerというのは、探検しに行く、探しに行くという意味だ。
Exploratoriumは、原爆の開発計画を主導したアメリカの科学者ロバート・オッペンハイマーの弟で、自身も物理学者だったフランク・オッペンハイマーが、物理学が爆弾にしか使われないことを悲しみ、体験として科学を理解する人を増やすことを目指して設立された。
大人から子どもまで楽しめるサンフランシスコの著名スポットになっただけではなく、取り組みの様子を書籍にして公開し、やりかたを広めるようにした。お台場の日本科学未来館のような体験型の科学館は、どこもExploratoriumの影響を受けている。
そのExploratoriumに、2015年にTinkering Studioとして、木工や紙工作といった物理的な工作を楽しむ施設が作られた。2016年にそのTinkering Studioのアジア版として、シンガポールのサイエンスセンターにTinkering Studioがやってきた。
Tinkeringってなんだろう?
Tinkとはカン!っていう擬音で、Tinkering(ティンカリング)とはカンカン音を立てて物理的な工作、図工っぽいことをやることを指す。おそらくブリキのTinからも来ているだろう、昔のオモチャはだいたいブリキでつくられていて、オズの魔法使いのブリキ男はTin manだ。Tinkeringという単語だけで英和辞書を引くと鋳掛け屋と出てくるけど、そちらではなくて、オモチャっぽい物理的な工作をする場所という意味だ。
なので、特に大げさな設備や秘密はない。図工に使える紙や木材、ハサミなどが置いてあるだけのスペースだ。日本のどの小中学校にも、設備の違いはあれど、図工室としてこういうスペースはあるだろう。設備と言うより考え方が違う。Tinkeringには「いじり回す」という意味合いもあり、目的に一直線に進むと言うよりは、なんとなく触ってみる、しっかり考えるより触りたいという感覚や手を優先させるニュアンスがある。「設計図をシェアしてものづくりを効率化する」的な考えとは、また別のスキルになる。いいTinkerがすぐれたエンジニアになるとは限らないが、優れたエンジニアの多くがTinkerとしての考え方を持っている。大人になってもおもちゃ箱のような部屋を作っている様子が思い浮かぶだろう。
とりあえず釘を打ってみる、のりで紙を貼り付けてみるといった初歩的な工作から、上に向かって風が吹き出して上昇気流を生む装置があって、どういう形を作ればより浮かぶかを、紙コップを切りながら試すなどの遊びをしていく。重たい素材でも形を工夫すれば浮かぶとか、薄い金属はバネにもなるとか、そういうことを体得していく。