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アジアのMakers by 高須正和

まだIoTを作ったことがない97%のために マレーシア+タイ+シンガポールのIoTベンチャーESPert

人のネットワークが可能にした、早いビジネス展開

「IoTのABC、つまりApplication、Board、Cloudのすべてを、簡単に体験できるような製品を、手軽な価格で売り出すことがやりたかった」とウィリアムは語る。

ESPertの創業は2015年の9月、ESPressoのハードウェアバージョンが3つめとなって販売を始めたのは翌2016年の3月。半年足らずでローンチにこぎ着けたのは、ウィリアムのネットワークと、ここ1、2年で急に盛り上がり始めた東南アジアのMakeブームが背景にある。

クラウドとアプリについては、共同創業者である、タイのチェンマイでソフトウェア企業を経営するジミーが開発している。ジミーはチェンマイメイカークラブというファブ施設を主催し、2015年から毎年チェンマイメイカーパーティーというイベントを開いている。イベントには50以上のMakersが、タイを中心に東南アジア各地から集まる。

ESPressoのデモを見て、チェンマイのカフェチェーン店のオーナーが、顧客の家にコーヒー注文専用のボタンを配るために、大量発注の問い合わせが来たこともあったという。

「カフェのオーナーでも、発注ボタンというIoTデバイスのアイデアを思いついた、それはESPressoがやりたかったこと」とウィリアムは語る。

チェンマイメイカーパーティーで来場者に挨拶するジミー。 チェンマイメイカーパーティーで来場者に挨拶するジミー。

製造と、世界各地での販売は、世界に販売網を持つ製造企業のCytron Technologiesが行っている。Cytronはマレーシアが本拠地で、マレーシア出身のウィリアムとは関係の深い企業だ。

ESPresso Liteの生産は、Cytronはじめとして各国で製造業者と提携しており、ESPertでは行っていない、いわゆるファブレスとしての体制を維持している。

Cytron TechnologiesのWebサイト。PCBのオンライン受注から、さまざまなMakeキットの販売も行う。 Cytron TechnologiesのWebサイト。PCBのオンライン受注から、さまざまなMakeキットの販売も行う。

「できれば、なるべく製品のことだけを考えていたい」とウィリアムは語る。Cytronが製造することで、Cytronと提携している日本のファインのECサイトで、ESPresso Liteが購入できるようになっている。

もちろん、まだ東南アジアのMake市場、IoT市場は始まったばかりである。この新聞記事によると、2015年時点で、タイのMaker向けツールキット市場は、全体で売上300万バーツ(約950万円)だという。普通の飲食店や雑貨屋よりも小さい市場だ。ただし、今後拡大することは間違いないし、ブルーオーシャンでもある。

Makerとは何か。自分は、「今日できないことが、明日にはできるようになる」と信じることだと思う。そう思う人たちとビジネスをしていきたい。ウィリアムはプレゼンでいつも、「Makerとは何か」に触れる。

インターネットやLCCその他の力で、ただでさえ距離的に近い東南アジアの国境は、ますます簡単に超えられるものになりつつある。

告知

この記事で登場したシンガポールの事例など、アジアのMakerメイカー事情を、井内育生/きゅんくん/江渡浩一郎らとまとめた「メイカーズのエコシステム」(インプレスR&D刊)が出版されました。日本と深圳で自らベンチャーを行う小笠原治/藤岡淳一も寄稿し、山形浩生さんがイノベーションが生まれる構造について解説しています。5月末まで、Kindle版のセールで899円で販売されている模様。

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