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アジアのMakers by 高須正和

世界で最もアジャイルな街の、アジャイルなMaker Faire Shenzhen 2016

日本からたくさんの出展者が招待された理由

僕は2015年からMaker Faire Shenzhenの運営に協力している。2012年からニコニコ学会βの実行委員をやっていたのと同じ、ボランティアでの活動である。

2015年、2016年と、Maker Faire Shenzhenは多くの日本人出展者を招いている。 Maker Faire TokyoがベイエリアのMaker Faireから、メントス×コークショー(2015年)、 Nerdy Derby(2016年)を招いているのと同じである。TokyoのMaker Faireがなにを期待して海外から出展者を招いているのか分からないが、Maker Faire Shenzhenでは「よりMakeの世界を広げる、深センにないもの」を期待している。

大人気だった、こさんくんのロボットバンド。

これまで招待された人たち、明和電機、デイリーポータルZ、ヒゲキタ3Dプラネタリウム、こさんくんのロボットバンド、AkiPartyなどを見ていると、スタートアップや研究者というよりもカルチャー寄りの人たちで、それでいて言語やコンテクストに寄らずに理解できる人たちが選ばれている。欧米から招待されているMake Fashionや地面に砂でポエムを描くロボットなどにもそれは共通している。

オランダのGijs van BonによるSandwriter Robot。砂で地面にポエムを描いていく。今回は台風でホテルに閉じ込められている間に、漢字で書くように調整していた。「日本でもやりたいので、招待をお待ちしている」とのこと。(撮影:伊藤亜聖) オランダのGijs van BonによるSandwriter Robot。砂で地面にポエムを描いていく。今回は台風でホテルに閉じ込められている間に、漢字で書くように調整していた。「日本でもやりたいので、招待をお待ちしている」とのこと。(撮影:伊藤亜聖)

深センはMakerムーブメントに対して政府が大きなサポートを行っていて、200を超えるスタートアップアクセラレーターがあると聞く。その方向性での世界の最先端は、深センではあたりまえのことで、招待したいのは別の方向なんだろう。

そういうカルチャー的なものは、人によって答えが違う。エリック・パンほかMaker Faire Shenzhenのメンバーは、Seeedとして世界中のMake Faireにブースを出している。Maker Faire Tokyoにも毎回出展していて、各ブースを回っている。2016年のMaker Faire Tokyoでも彼ら/彼女たちからMaker Faire Shenzhenの招待状、ポストカードみたいなものをもらった出展者は多いだろう。

その後で「呼びたい候補リスト」を作り、メンバーでは一番日本語が堪能な僕が、メールとかで聞いたり直接会ったりして条件を整理する。順番がつけられるものではないから、リストは単なる表で順番は付いてない。検討した結果招待が決まったら、飛行機の便とか、空港からホテルまでとか、細かい具体的なやりとりをする。

デイリーポータルZのBigFaceは大人気で、終了後に運営チームがこんな記念写真を撮っていた。(提供:Anby Wen) デイリーポータルZのBigFaceは大人気で、終了後に運営チームがこんな記念写真を撮っていた。(提供:Anby Wen)

今回の招待Maker、MakeFasion(カナダ)、砂でポエム描くロボ(オランダ)、デイリーポータルZ、ヒゲキタ3D、Trybots(近藤那央さんのプレゼンのみ)、ロボットバンド、AkiParty(デイリーポータルZ以降すべて日本)は多くの人に囲まれていて、現地の報道でも多く扱われていたので、運営のもくろみは成功したといえるだろう。

Maker Faire Shenzhenのアフターパーティーになるはずが、日程変更で中日になってしまったMakerによるMakerのためのダンスパーティー、AkiParty後の一枚。中央の女性Anbyは機材確保の責任者で、台風で機材が遅れて憔悴してフラフラするほど走り回っていた。それでもパーティー後にこの笑顔でいるのを見て涙がこぼれた。(提供:Anby Wen) Maker Faire Shenzhenのアフターパーティーになるはずが、日程変更で中日になってしまったMakerによるMakerのためのダンスパーティー、AkiParty後の一枚。中央の女性Anbyは機材確保の責任者で、台風で機材が遅れて憔悴してフラフラするほど走り回っていた。それでもパーティー後にこの笑顔でいるのを見て涙がこぼれた。(提供:Anby Wen)

僕は、ニコニコ技術部で深センのMakerエコシステムを見学しに行く、ニコ技深セン観察会というイベントを主催している。過去の参加者、社会人研究者の湯村翼氏が、深センの街をこう表現していた。

海外に出ると改めて日本のことがわかるものですが、深センは街全体が「ルールを犯してでも儲かることをやる」「儲かるところにはリソースをつっこむ」「無駄なことはやらない」というスタートアップっぽさに溢れてる感じがしました。そういうところを見学してきたからというのもあるのでしょうが。そしてあらためて日本を振り返ってみると、「競争原理が作用しない」「動きが遅い」「非合理なことを人力でがんばる」という、国全体にいわゆる日本企業っぽさが溢れてるなと思いました。

今回の台風とMaker Faire Shenzhenにみる深センの人たちの対応を見ると、この表現がしっくりくる気がする。多くの混乱は起こったし、結果として不快になった人もものすごくいると思う。でも、結果として得られたプラスのほうが、バタバタして失ったマイナスよりはるかに多いと思うのだ。

深センの運営チーム、Chaihuo Maker Spaceは、その手腕を評価されて、中国の他の地域のMaker Faireの運営を頼まれている。12月3~4日は、四川省の成都(Chengdu)で行われる Chengdu Mini Maker Faireの運営を、彼らがサポートする。僕も何組かの日本人出展者とともに成都に行くので、今から楽しみである。申し込みはまだ募集しているので、みなさんと成都で会えるのをお待ちしている。

SeeedのデザイナーでMaker Faire ShenzhenのクルーでもあるKawi が描いたドローイング。みんなにとって忘れられないMaker Faireになった。 SeeedのデザイナーでMaker Faire ShenzhenのクルーでもあるKawi が描いたドローイング。みんなにとって忘れられないMaker Faireになった。

告知

今回の記事の中心になっているSeeedや深センの街がどういう会社や文化なのかについては、メイカーズのエコシステムという書籍にまとまっています。

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