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アジアのMakers by 高須正和

世界の工場深センに見る、「製品化」を助けるサプライチェーン——HWTrekのAsia Innovation Tour 世界のサプライチェーンレポート

HWTrekが深センのサプライチェーンをスタートアップに紹介するツアー。前回紹介したインキュベーション/試作から、今回はアイデアを実際に量産/製品化するうえで関わってくる製造業者を紹介する。大量生産のためには金型が必要になることはよく知られているが、プロトタイプと製品の間には検査や認証、箱詰めや検品/発送といった多くのサプライチェーンが必要になる。深センにはそのサプライチェーンが至近距離にすべてそろっている。

HWTrekのAsia Innovation Tour

HWTrekは年に2回、自分たちの製造業者ネットワークをスタートアップに紹介する、Asia Innovation Tourを行っている。2016年は深セン+京都+大阪で行っており、世界各国から20チームのスタートアップ、30人近くが深センに現地集合した。僕はMaker Faire深センの運営をしていたり、ハードウェア製造を取り巻くメイカーズのエコシステムという著書を書いたりしたことでHWTrekと縁があり、いつも見ているDIYに近いところより大規模な工場も見てみたくて、ツアーに参加した。

20社、30人ぐらいのスタートアップがバスで深センを巡る。製造業者の多くは香港の反対側、深センの宝安区や東莞市などに位置している。 20社、30人ぐらいのスタートアップがバスで深センを巡る。製造業者の多くは香港の反対側、深センの宝安区や東莞市などに位置している。

訪問先全リストは以下だ。同じ会社でも複数の工場を回ることも多く、連日8時台の集合から21時頃の解散までびっしりのスケジュール。この表を見てわかるとおり、試しに何個か作ってみるのに向いたCNC切削加工や小ロットPCB製造/組み立てから、大量生産に向いた金型を使う射出成形、製品として売るのに必要な検査や箱詰めまで、プロトタイプからプロダクトまでのサプライチェーンがすべて含まれていて、さらに資金調達やインキュベーションまで網羅している。

1日目
SkyPrototype CNC切削加工会社
ChinaPCBOne PCB基板製造、PCB組立アッセンブリ
EMTECH 電波法などの検査や認証
Shenzhen valley ventures インキュベータ+Makerスペース
2日目
Invox/Sun On 射出成形
teamGiant バッテリー
Ryder EMS(設計/組み立て)
3日目
Stephen Gould パッケージやマニュアル印刷/箱詰め
ミートアップ 参加ベンチャー20社が、
協力会社や投資家に向けてプレゼン

 

「量産」の代名詞:射出成型のInvox/Sun On

金属の金型を用いてプラスチックの外装を大量に作る射出成型は大量生産の代名詞だ。金型は資産になるぐらい高価で貴重なもの、という認識はfabcrossの読者の多くが持っているだろう。東莞市のSun On Groupはその射出成型の工場だ。1997年に創業、現在は1000人の従業員を数え、4500万ドルを売り上げている。月に150~200プロジェクトの金型作成と出力を行い、うち30%は海外企業がクライアントだ。

一帯すべてSun On Groupの工場。さまざまな射出成型の工程が並ぶ。 一帯すべてSun On Groupの工場。さまざまな射出成型の工程が並ぶ。
Sun On Groupの会社紹介

射出成型で難しいのは、一度作ってしまうと修正が利かないことだ。Sun On Groupは製造工程すべてを熟知したエンジニアを用意することと、金型を起こす前のプロトタイピングを繰り返すことによる提案力を売りにしている。たとえばウォーターディスペンサの射出成型を請け負ったときは、大きなものが出力できる3Dプリンタを使ってプロトタイプを出力し、「この形できちんと使用できて、水が流れるか」までを検証する。その3D CADデータはクライアントと共有され、郵便で試作物を送ることももちろんできる。「何に使う、どういう要求仕様のどういうもの」という最初のやり取りのときに試作費まで含めた見積もりが提示され、途中のやりとりは最終の出力代に含まれる。

コンサルティング/提案の例。携帯電話の外装 コンサルティング/提案の例。携帯電話の外装

上の写真の携帯電話の外装、黒い部分は射出成型のプラスチックでできている。いくつかの部品をねじ止めするのだが、プラスチックにネジ山を切るのは強度の面で不安になる。Sun Onは、ネジ山が切ってある金属製のナットをはめ込む構造を提案し、強度・コスト・製造しやすさどの面からも「うまくいく」ようにした。これは内側なので質感や色が異なることも問題にならない。Sun Onでは射出成型だけでなく、アルミの鋳造やプレスを含めたあらゆるモールディングのラインがある。

2つの異なる素材を組み合わせる射出成型。
アルミ素材の鋳造。
塗装工程。射出成型後の塗装や磨きなども行う。
金型と旋盤が並ぶ。職人はみんな若い。深センの金型エンジニアは18歳から働き始めることが多く、7~8年のキャリアを持った二十代中盤のエンジニアが多く働いている。 金型と旋盤が並ぶ。職人はみんな若い。深センの金型エンジニアは18歳から働き始めることが多く、7~8年のキャリアを持った二十代中盤のエンジニアが多く働いている。
ツアーに参加した、ウェアラブル機器を使っているスタートアップが「このパーツを出力したらいくらかかる?」と聞いたところ、材質や塗装の話を2、3交わした後、「3万人民元ぐらいかな?(約45万円)」と即座に費用の目安が帰ってきた。 ツアーに参加した、ウェアラブル機器を使っているスタートアップが「このパーツを出力したらいくらかかる?」と聞いたところ、材質や塗装の話を2、3交わした後、「3万人民元ぐらいかな?(約45万円)」と即座に費用の目安が帰ってきた。

「1回の注文は、まず一晩のライン稼働で終わる。お客さんを待たせることはほとんどない」とのことだ。外装のCADデータが持ち込まれてから、どういう素材でどう出力するかのすりあわせが一番時間のかかるところで、だいたい1カ月半ほどで一つのプロジェクトが終わるとのこと。Sun Onの工場には小さな組み立てラインもあり、他から基板と電子回路パーツを持ち込んで、ここで完成品にするといった仕事を請け負うこともあるそうだ。さまざまな工場のノウハウが蓄積されている深センらしい業態だと感じる。

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