アジアのMakers by 高須正和
世界のベンチャーに対して見せた、日本製造業の可能性 —HWTrekのAsia Innovation Tour 世界のサプライチェーンレポート—
前回(量産サポート)、前々回(プロトタイピング環境)と深センのサプライチェーンを紹介したが、HWTrekのツアーはその後京都/大阪と続いた。日本にも海外から発注を受ける製造業者が、さまざまなスケールで存在する。HWTrekは京都/大阪について、「深センとは違うクオリティの製造業がある」と紹介した。世界のスタートアップが日本で見た製造業のクオリティを紹介する。
世界一のデバイスとスタートアップが出会う:村田製作所
スタートアップたちのテンションが上がったのは、村田製作所を訪れた際、展示されていたこの積層コンデンサを見たときだ。グラスに10万個の積層コンデンサが入っている。一番左のものは肉眼ではグラスの底にわずかに粉が溜まっているようにしか見えない。このグラスの中に数百万個を入れることも可能だろう。
村田製作所はほかにも、世界最小や最も電力消費が少ないセンサなどのコンポーネントを開発している。今回プレゼンされたデバイスには開発途中のものも多くあったが、村田製作所の担当者も「なるべく早くDigiKey等のオンライン通販で扱えるようにしたい」と語っていた。そもそも今回の訪問も、Maker Movementによって駆け出しのスタートアップからも面白いプロダクトが出てきつつある状況を鑑み、村田製作所全体のオープンイノベーションへの取り組みの一環として位置づけられている。
プロトタイプから製品化まで:HILLTOP
HILLTOPは切削加工を中心にしたプロトタイプ製作の会社だ。最新の切削加工機械を備えたハイクオリティの工場を備えるが、さらに強みにしているのは提案力である。
2次元の設計図でもらったデータから3DのCADデータをHILLTOP側で作る、または持ち込まれたデータを元に修正する提案力について、HILLTOPは「専用のソフトウェアと過去のナレッジデータベースを基に、どのエンジニアでも短期間で満足のいく提案が出せるようにする」ことを目指している。もちろんそのソフトを使えば誰でもできるわけではなく、数年単位の経験は必要だ。ただ、このシステムを使うことで、数分の1の短期間で成長できるようになるという。
システムを作って全体で品質を担保するというのは、深センで見られているものより一歩進んだ考え方だ。実際のNC加工機による切削に入る前にコンピュータ上でもシミュレーションを行うことで、無駄な切削を省くことができる。こうしたよりきめ細かなコンサルティングがHILLTOPのひとつの特徴のようだ。
HILLTOPではこれまで紹介した「シミュレーションから切削」だけでなく、最終的にプロダクトとして完成するところまでの一連のコンサルティングを行っていて、いくつか製品も開発している。写真撮影はできなかったが、完成品として実際に販売している高精度の産業用機械が社内でデモされていた。そうした開発のために社内にFoo’s LabというMakerスペースを備え、Arduinoなどを使ったプロトタイプから最終的な製品に近い段階までの、広い範囲のプロトタイプが製作できる。
筆者が訪れたときFoo’s Labでは、モノを運ぶ台車をロボット化して、ライントレースの機能をつけたものが動いていた。台車の開発チームは欧米人の従業員であり、HILLTOPは深センで見た製造業や今回のツアーで訪ねてきたスタートアップと同様のグローバルなチームになっていて、当然のように世界中を仕事場にしている。
ツアーで訪問した会社のうちの一つ、レジン造形のクロスエフェクトにも、そのグローバルなチーム作りは共通していた。クロスエフェクトも、他の会社では難しいレジン造形のクオリティを求められる医療分野などを中心に世界の顧客を相手にしていて、クライアントと一緒になってプロダクトを開発したりしている。写真撮影が禁止だったため詳細なレポートは行えないが、高いクオリティと、そのクオリティが可能にするプロダクトを世界に対して発信することで、世界を相手に製造業を行っていくことは可能だと感じた。
※記事初出時、文中に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。