アジアのMakers by 高須正和
世界のお茶カルチャーを変える 台湾のお茶屋さん出身スタートアップTEAMOSA
台湾でお茶屋を営む一家に生まれ、アメリカで化学を学んだアーヴァインは、システムエンジニアリングを学んだ姉とエレクトロニクスを学んだ義兄と一緒に、ハードウェアスタートアップTEAMOSAを起業した。「西洋人に、おいしいお茶の飲み方を伝えたい」と語るアーヴァインのプロダクトは、Makerムーブメントらしさに満ちている。
TEAMOSAは2017年夏にハードウェアアクセラレータHAXの10期を終了したばかりの、できたてほやほやのスタートアップだ。僕は2017年6月16日に深センで行われたHAX Asia Demo Dayではじめて彼らのデモとプレゼンを見た。
「西洋人はお茶の飲み方を知らない。紅茶はアールグレイなど、収穫後に香りをつけているものが多いし、ミルクや砂糖をたくさん入れて飲んでいる。お茶は甘みも香りも充分ある飲み物で、良い茶葉をおいしく入れればミルクも砂糖もなしで満足できる。そのほうがヘルシーだし、よいお茶を提供するビジネスは西洋でも成功するはずだ」から始まり、茶葉に超音波を当ててお茶を抽出する製品TEAMOSAを紹介するプレゼンは印象的で、別の日にインタビューした。
一家は台湾でお茶屋さんを経営
アーヴァイン:僕の両親は台湾で34年もお茶屋さんを経営していて。台湾の南投県に自分の茶農場を持っている。台湾人はいろんなお茶を楽しむが、僕の家ではウーロン茶しか扱っていない。中国でしか作っていないプーアル茶や、紅茶は扱っていない、伝統的なお茶屋さんだ。僕は3歳の時から実家のお茶を飲んでいた。
アーヴァイン:僕と姉は台北に生まれ、大学卒業後アメリカの大学院に留学した。TEAMOSAは家族経営のテクノロジースタートアップで、CEOの僕はアメリカで化学の修士、姉のカザリンはシステムエンジニアリングのPh.D、彼女の夫のKenはエレクトロニクスのPh.Dを取得している。 2016年に、アメリカ生活10年目の僕はアイデアを思いついた。スターバックスがTeavanaというお茶のチェーン店を買収し、スターバックスでお茶を展開し始めたとき、僕も行ってみた。そこにあったのはお茶の香りじゃない。アールグレイとか、オレンジピールとか、ぜんぶ後付けの香料の香りばかりだった。
「なぜ、アメリカ人はお茶の香りじゃなくて、後付けの香りを喜ぶんだろう?」というのがそのときに浮かんだ僕のアイデアだ。
アメリカ人はティーバッグでお茶を飲む。高級ホテルやレストランでも、お茶を頼むとティーバッグで持ってくる。ティーバッグは通常、お茶を作る作業のときに箱の下に残っていた粉みたいな、質の悪いお茶で作る。高級なティーバッグでも、同じブランドで茶葉のまま売っているものよりはだいぶ質が落ちる。最近人気のネスプレッソみたいなカプセルコーヒーには、ミルクティーなどのお茶もあるが、それもあまりクオリティが高くない。後付けの香料やミルクを楽しむようなものだ。
今のアメリカではお茶は健康志向の人たちにとてもメジャーになっていて、シリコンバレーのエンジニアの間でペットボトルのお茶がよく飲まれている。混ぜ物なしのナチュラルな「ホンモノのお茶」はもっと人気になる可能性がある。もちろん、アジアではさらに可能性がある。
ホンモノのお茶とは
お茶には6つの種類があるが、すべてお茶の木からから作られる。高品質なお茶は、まず茶葉が高品質でなければならない。
そのために最も大事なのは茶葉が育つ茶畑の環境だ。気温が高くなくて、かつ水が充分にあるところがいい。台湾だと2000mぐらいの高山で冬に育ち、春に収穫するお茶が最高だ。日照が強すぎると苦くなる。
次に大事なのは収穫してからのプロセスだ。収穫してから茶葉を揉み、蒸し、発酵させる。その発酵や蒸しの違いで、白茶や紅茶といった違うお茶になる。その意味では「いい茶葉」は良し悪しなのだけど、白茶か紅茶かウーロン茶かというのは、飲み手の好き好きということなのかもしれない。
白茶:台湾ではあまり作らない。茶葉の表面に白毛が芽吹いているときに収穫する
緑茶:台湾でも作る。発酵なし。日本の緑茶は蒸すが、台湾では蒸さないことが多い
黄茶:弱い発酵茶
ウーロン茶:半発酵茶。台湾で消費されるお茶の90%はウーロン茶
黒茶:紅茶など。完全に発酵していて黒い
プーアル茶:特殊なカビをつけて発酵させたもの。台湾人も飲むが、製造は中国のみ
ウーロン茶は「半発酵茶」と言われるが、半の範囲は広い。有名な「東方美人茶」は花のような香りがするが、あれは蒸さないお茶を80%ぐらい発酵させたもので、あとから香料を追加しなくてもあの香りがする。同じ50%発酵のウーロン茶でも蒸すか蒸さないかで全然違う。ワインもいろいろな種類があるけど、白ワインと赤ワインはブドウそのものが違う。お茶は同じ茶葉からまったく違う種類が生まれるんだ。
台湾ではウーロン茶が90%とよく飲まれている。若い世代は別なもの、紅茶のミルクティーなどを好むが、それはスタイルの問題なので、新しいウーロン茶でもいいはずだ。人気のタピオカミルクティーは、一日中同じ茶葉で入れているので、夜になると茶葉が劣化している。あまりコストをかけずもっとおいしいお茶が入れられると思う。西洋では80%が紅茶だが、ビタミンCや抗酸化成分が多い緑茶が最近人気になっている。ウーロン茶もその長所を備えている。
プロダクトとしてのTEAMOSAとビジネスモデル
アーヴァイン:HAXには2016年10月に応募して、2カ月ぐらいかけて選考された。最初に提案したのはホテルや喫茶店に置くような業務用の給茶機だった。HAXとのインタビューの結果、まずはクチコミで売れそうなホームユースのものを作ることにした。Kickstarterで大成功すればプロ用モデルにも近づく。
コーヒーは高温高圧で抽出することができるが、お茶でそれをすると茶の細胞が壊れてしまう。お茶を入れるプロセスは化学反応で、個体の茶葉に触れた液体の水がお茶に変わる。お茶の種類によって最適な温度は違う。高級な日本茶の玉露だと60度ほど、緑茶は80度、ウーロン茶は90~95度というように最適な温度がある。さらにTEAMOSAは超音波をかけることで、味を保ちつつ抽出を早くする工夫をしている。超音波によって抽出が早くなり、しかも身体にいい抗酸化成分をより多く抽出することができる。
ビジネスとしては、TEAMOSAのマシンのほかに、1~3ドルでお茶のカプセルを売ろうと考えている。カプセルの中身は僕の両親の店で扱っているホンモノのお茶そのもので、まったく加工もしていない。カプセルは必ず必要なのではなくて、手持ちの茶葉をTEAMOSAに入れて抽出することもできる。カプセルはあくまで近場にお茶屋がないアメリカなどに向けたものだ。TEAMOSAはいいお茶を飲んでもらうために作るのだから、茶葉が手に入らない人のためには茶も手軽なカプセルにして提供する。実家で扱っていないプーアル茶もパートナーを見つけて提供していきたい。
マシンのデザインも中国で伝統的な茶具に近づけ、茶海(お茶を貯めて濃度を一定にする茶器)も付けている。あまり良いお茶を体験していない、アメリカやヨーロッパ向けにまず提供したいので、Kickstarterのクラウドファンディングを進めている。
クラウドファンディングで大成功
TEAMOSAは2017年9月13日にKickstarterキャンペーンを開始し、最終的に27万3457ドルを集める大成功となった。その後Indiegogoで予約注文を開始し、こちらも27万ドルのバックオーダーを受けつけ、今もキャンペーン中である。
TEAMOSAは過去になかったハードウェアであり、「ブランドロゴを貼るだけから共通パーツの製造まで 「世界の工場」に見る、製造業のグラデーション」で紹介したような、公板や公模といった深センの中間成果物を使って製造できるようなものではない。それだけ製造難易度は高い。また、会社としてのTEAMOSAがハードウェアを製造するのははじめてなので、Kickstarterプロジェクトが成功してからも、2018年9月の出荷までに無事に製造できるかは、まだいくつも山がありそうだ。さらに、クラウドファンディングで成功したからといって、その後の会社の成長がうまくいくとは限らない。
それでも、お茶屋さんが自らハードウェア製品を作って直接アーリーアダプターに届けるのは、Makerムーブメントの一つの典型例と言えそうだ。筆者も支援して、updateのメールを楽しみにしている。TEAMOSAの今後に注目したい。