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「フィラメント」はどこから来てどこへ行くの?——3Dプリント用プラスチックの歴史と付き合い方

ABSと付き合うコツ

取材中も研究用の3Dプリンターが動き続けていた。 取材中も研究用の3Dプリンターが動き続けていた。

当たり前に使っていたフィラメントの意外な背景を知り、一人のものづくり愛好者として興奮してきました。さて、ここからはABSフィラメントについて、より実践的なことを聞いていきたいと思います。

 

淺野「フィラメントはどうやって保存すれば良いですか?」

フィラメントが入ったアルミ製パッケージ フィラメントが入ったアルミ製パッケージ

湯浅「ABSは水分を吸着する性質があります。フィラメントに水分が含まれてしまうと、3Dプリンターのノズル先端で加熱されたときに蒸発して気泡が生まれ、造形が乱れてしまうおそれがあります。そのため、できるだけ水分と触れさせないことが理想です。キョーラクの販売する製品であれば、出荷時にフィラメントが入っているアルミ製のパッケージが水分を通さない素材なので、捨てずにそのまま利用して下さい。市販の密閉できる袋に乾燥剤と一緒に保管しておくのも効果的です」

 

淺野「出力中に反らせないためのコツを教えてください」

湯浅「とにかく、温度低下による収縮を起こさせないことが一番です。ヒートベッドのある機種で適切な温度設定をすることが第一ですが、造形物が大きくなってくるとヒートベッドから離れた部分で収縮が始まってしまうことがあります。ベッドの持つ熱が造形エリア全体に保たれるように、プリンターの外側に覆いを作ってみると良いかもしれませんね」

有孔ボードにくいこんだ素材 有孔ボードにくいこんだ素材

湯浅「また、ベッドとの接着がしっかりしているほど反りの力に対抗することができます。ベッドプレートに有孔ボードが用いられているものや、特殊なテクスチャを持った3Dプリント用のシート(BuildTakなど)を使うとしっかり接着させることができます。一層目だけフィラメントの吐出量を増やすのも効果的ですね。あとは、のりにも接着を良くする働きがあります。なかでもオススメなのが『シワなしPIT』。薄く均質に塗れるし、水で洗えるのも魅力的なので、最近はこれ一択です(笑)」

湯浅さんイチオシの「シワなしPIT」 湯浅さんイチオシの「シワなしPIT」

淺野「出力が終わった後の表面処理について教えてください」

湯浅「まず、ABSは摩擦熱程度では溶けないので、少しのやすりがけでも表面を綺麗にすることができます。塗装については実は厄介で、多くの塗料によって「色自体は付く」のですが、塗料に含まれている溶剤がABSの表面を溶かしながら浸透し、その後気化することによって「微小なヒビ」を形成してしまいます。それがABS部品の強度を低下させ、破損を引き起こします。このことから私は基本的には塗装はしない方向で考えていますが、もし塗装を行う場合には、タミヤが販売している『ナイロン/PP用プライマー』(プライマー:塗装前の下地)を用いることで、溶剤のABSへの浸透を防いで強度低下を起こしにくくなるようです」

取材後、「ナイロン/PP用プライマー」と「タミヤカラー」を準備して実験してみました。 取材後、「ナイロン/PP用プライマー」と「タミヤカラー」を準備して実験してみました。
プライマーを吹きつけたモデル(左)とプライマーなしのモデル(右)に同じ「タミヤカラー」で塗装。プライマーなしだとやや照りがあり、触れた時に少しだけペタペタするように感じました。 プライマーを吹きつけたモデル(左)とプライマーなしのモデル(右)に同じ「タミヤカラー」で塗装。プライマーなしだとやや照りがあり、触れた時に少しだけペタペタするように感じました。

湯浅「また、よくABSの表面を滑らかにするためにアセトンを使用する方法が紹介されていますが、個人的にはお勧めできません。アセトンは引火性があるので、火気や火花が出る可能性がある場所での使用は非常に危険です。電気によって高温を発生させる装置である3Dプリンターの近くでは、なるべくアセトンの利用を避けることを推奨したいです」

 

淺野「ABS同士の接着には何を使えば良いですか?」

湯浅「『アクリサンデ-』がお薦めです。溶剤でABS自体を溶かしているので、しっかりと強く接着させることができます。ただし粘度が非常に低く、積層痕に浸透して接着したい面以外の部分にも入り込んでしまう可能性もあるので、扱いが難しいです。使用方法としては、あらかじめ合わせた部品同士の合わせ目にアクリサンデ-を流し込む感じですね」

写真では付属のスポイトを利用していますが、別途注射器のようなものを用いるとより確実に接着できます。 写真では付属のスポイトを利用していますが、別途注射器のようなものを用いるとより確実に接着できます。

湯浅「接着強度はアクリサンデ-には及びませんが、セメダインなどから出ているABS用の接着剤もあります。こちらは適度な粘度があって、はけで接着面に塗ってから、部品を合わせればOKなので簡単です。ABS自体を溶かしているわけではないのが、接着強度が低い理由です。用途によって、使い分けてみてください」

セメダインのABS用接着剤。瓶のフタにはけが付いているので便利! セメダインのABS用接着剤。瓶のフタにはけが付いているので便利!
3Dプリントペンがあれば、同じABSを使って継ぎ目をなぞるのも効果的。 3Dプリントペンがあれば、同じABSを使って継ぎ目をなぞるのも効果的。

素材を通じて「使いやすさ」と「新たな用途」を提供する

フィラメントの性質から後加工まで、日々素材と触れ合う湯浅さんならではの幅広い内容を伺うことができました。最後に、今後のフィラメント開発にかける意気込みについて聞いてみました。

湯浅「目指していることは2つあります。まずは『使いやすさ』の追求です。今は3Dプリンターが詰まったときに、中の構造まで知らないと対処できません。専門的な知識がないと気軽に利用できないような状態では、これ以上多くのユーザーが利用するのは難しいと思います。誰もが簡単に、当たり前に3Dプリントに取り組めるように、トラブルのない使いやすい素材を提供していきたいと考えています。

もうひとつは『新しい特性をもつ素材』の開発です。利用できる素材が限られていると、作れるものの幅もその範囲に収まってしまいますよね。いまは形状記憶できるフィラメントや、カーボンファイバーを含んだ丈夫なフィラメントなどを販売していますが、さらに新しい特性を持つ素材を増やすことで、作れるものの幅をどんどん広げていきたいです」

硬さと柔らかさを兼ね備えた素材のサンプル。 硬さと柔らかさを兼ね備えた素材のサンプル。
3Dプリントの弱点である層と層の間の折れやすさを解消し、力を均質に分散させる試み。 3Dプリントの弱点である層と層の間の折れやすさを解消し、力を均質に分散させる試み。

キョーラクの目指す「使いやすさ」と「新しい特性」を持った素材は、より豊かで快適な3Dプリントライフを支えてくれるはず。新しいフィラメントの登場に、期待が膨らむ思いがしました。湯浅さん、ありがとうございました!

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