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イベントレポート

納期はたったの1週間! Rhizomatiks Researchの迅速な開発を支えるデジタルツール

世界トップレベルのメディアアートを手掛ける集団、ライゾマティクス(Rhizomatiks)。そのなかでも特に研究要素の強いプロジェクトに注力しているのがRhizomatiks Researchだ。数々の先進的なパフォーマンスを手掛ける彼らのクリエイティブは、どのような過程で生み出されているのだろうか。2018年6月7日にオートデスク主催で行われたトークイベント「Redshift Live」から、Rhizomatiks Researchの活動とその製作背景を紹介しよう。

エンジニア自らが語る製作秘話からは、短期間でクオリティの高いアウトプットを達成するために多くのデジタルツールが用いられていることが伝わってきた。

アートとデザインを行き来し、新たな表現に挑む

イベントは二部構成。前半はRhizomatiks Researchの代表であるメディアアーティスト真鍋大度氏による特別講演が行われた。

Rhizomatiksの法人化は2006年。そこから10年以上がたち、手掛けるテクノロジーの領域はグラフィックや動画、ドローンなどのハードウェア、データビジュアライゼーションや生体情報まで幅広い。私たちはこうした技術がパフォーマンスやアート作品として昇華された結果を見ることが多いが、目に見えない部分で多くの試作や研究に取り組んでいる。

真鍋氏「僕たちが自主的に手掛けるアートと、クライアントワークとしてのデザインの最終的なアウトプットはかなり似通っているので、見分けがつかないことも多いと思うのですが、それを作るときの環境や条件はかなり異なっています。

外部からお題を提示されるものは、予算はあっても締め切りがものすごくタイトだったりするので、そうした制約の中でいかにスマートに問題を解決してデザインとして落とし込むことかが要求されます。他方、自分たちで問題を作って進めるアートには予算こそつきませんが、自由な条件の中でかなりハードルの高いチャレンジをすることもできる。

アートプロジェクトで実験したものを、もう少し大きいエンターテインメントやデザインのプロジェクトに回し、そこでお金が入ってきた時に買った機材をまたアートプロジェクトに回すようなことをやっています」

アートとデザインを行き来するスタイルを重要視する真鍋氏。具体例のひとつとして紹介されたのが、2017年のSXSW等で多くの注目を集めたPerfumeのパフォーマンス演出だ。現実世界とCGの世界を行き来しながら視点が移動する「Seamless MR」と名付けられた表現の原型は、Rhizomatiksの開発スタジオで行われたVJパフォーマンスであった。こうした技術的なデモはYouTubeに積極的に公開されており、映像を見た企業からデザインワークを依頼されることも少なくないという。

アートプロジェクトではアイデアの面白さが最も重要となる。新しい表現を探るために真鍋氏が重視しているのが、「元祖」と言えるものまでさかのぼってリサーチすることだ。技術的なルーツだけでなく、美学的なルーツまでさかのぼり、資料を作成したうえでプロトタイピングに臨んでいる。その一方で時には研究機関に足を運んで共同研究を行うこともあるというから、その幅と深さには驚かされる。

歴史に根差したリサーチが驚きのある表現をアートとして結実させ、そこで培われた技術がデザインプロジェクトにもつながっていく。自ら貪欲に表現の可能性を開拓していくスタイルが、Rhizomatiks Researchのクリエイティブの根幹を支えていると感じられる講演内容だった。

「1週間」でドローンを作って制御する

左から望月俊孝氏、西本桃子氏、石井達哉氏(全員Rhizomatiks Researchのメンバー) 左から望月俊孝氏、西本桃子氏、石井達哉氏(全員Rhizomatiks Researchのメンバー)

イベントの後半は、Rhizomatiks Researchのメンバーが登場し、それぞれが実装を手掛けたプロジェクトを紹介。華やかな表現の裏側にあるリアルな現場の様子をたっぷりと語ってくれた。

2018年2月に行われた「Dolce & Gabbana Fall Winter 2018/19 Women’s Fashion Show」の冒頭では、モデルに代わってドローンがランウェイを行き来した。このドローンのフライトパスシミュレーションにはCGソフトの「Autodesk Maya」が用いられている。開発を担当した石井氏は実際の画面を披露しながら、「物語性を持った動きを実現するためにMayaを利用している」と語る。

Mayaによる動きのシミュレーション Mayaによる動きのシミュレーション

驚くべきことに、このプロジェクトは製作期間が1週間という超タイトなスケジュール。話が持ち込まれたその日のうちにチームは即席でドローンの発射台を作り、カバンを吊り下げることが可能かどうか検証を行ったという。また、ドローンのほとんどのパーツは3Dプリンターで製作されている。現場での不測の事態に備えて多くの予備パーツも出力していたが、本番前に全て使い切ってしまったそうだ。

望月氏によってモデリングされたドローン。 望月氏によってモデリングされたドローン。
トークイベントの会場ではドローンの実物が展示されていた。 トークイベントの会場ではドローンの実物が展示されていた。

ハードウェアを担当した西本氏は「過去にもドローンを用いた案件を手掛けていたため、抑えるべき技術的なポイントの勘所がつかめていた」と振り返る。1週間という過酷なスケジュールでも完成度の高いショーが実現したのは、Rhizomatiks Researchとしての積み重ねがあったからこそ。また、3Dプリンターによるラピッドプロトタイピングは、短期間でのハード作成や不測の事態に備えた準備にも大いに貢献していた。

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