イベントレポート
納期はたったの1週間! Rhizomatiks Researchの迅速な開発を支えるデジタルツール
ハードな要求にこたえる工夫の数々
ハードウェアエンジニアの柳澤知明氏が紹介したのは、2011年に山口県の山口情報芸術センター(YCAM)で公開された「particles」だ。
300個のインタラクティブなLEDボールがレール上を転がり、空間に立体的なビジョンを作り出す。かなり大規模な作品だが、全体の仕様が決まってから展示開始まで1カ月というタイトなスケジュールのなか製作されたという。
本来であれば専用の外装を設計して造形するところだが、時間と予算の制限から断念。悩んだ結果、ガシャポンのボールを大量に発注し、レーザーカットしたABSで基板を固定するための冶具を作って接着する方法が採用された。充電のための開口部などはホットナイフで開けたという。機転を利かせたアイデアと地道な作業の積み重ねが、大掛かりなプロジェクトを支えていた。
日本精工の100周年記念展覧会で展示された「Oscillation」は、ひとの動きに合わせてボールねじが上下し、間に結ばれたゴムひもが波を描く作品だ。「クリエイションの可能性をハードウェアで狭めない」という信念のもと、設営前日に最終形が決まるという不確定な状況の中で、最大限の自由度が持たせられるようなモジュールを設計した。
プロダクトデザインを担当した西本氏は、CADソフトとして「Autodesk Inventor」を利用。量産を外部の工場に依頼する際、パーツごとの図面を素早く制作できる機能が役立ったという。ハーネス(電子部品同士をつなぐケーブル)を自動で処理してくれることにも助けられた。
「最近では機械の構成部品のCADデータがWebで公開されていることも多く、製作スピードの向上に役立っています。汎用的なネジやメジャーなメーカーの部品だけではなく、少し複雑なタイヤ等のデータも増えると良いなと思っています」(西本氏)
オムニホイールを採用したこちらのモビールは、VRヘッドマウントディスプレイを装着して体験するダンスパフォーマンス「border」内の白いボックスに用いられている。アルミフレームは「Fusion 360」で設計されており、板金屋へ加工を依頼する際の図面はそこから直接引き出したものだ。形のデザインだけでなくその後の加工までつながる環境をフル活用することで、デジタルと既存工法の利点を両方いかしたものづくりが可能になっていた。
試行錯誤の高速化がクリエイティブの質を高める
最後の質疑応答では、望月氏が「冶具100連発」と称して多くのプロダクトに利用された大小さまざまな冶具を披露。制作の環境や要件がめまぐるしく変わるプロジェクトに対応したモデルの数々に、会場からは驚きの声があがった。
Rhizomatiks Researchの華やかなクリエイティブの裏側には、常に多くの厳しい制約があった。そのなかでも高いパフォーマンスを実現するのは「何を振られてもノーとは言わない(石井氏)」メンバーの経験に裏打ちされたスキルと、内製/外製を問わずものづくりを高速化するデジタルツールの存在であった。