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大人も子どもも、おじいさんも 3Dプリンターが紡ぐコミュニティ——「FAB 3D CONTEST 2018」最終審査&授賞式レポート

3DプリンターやIoT技術を使いこなす人材を発掘するため、慶應義塾大学ファブ地球社会コンソーシアムが主催している「FAB 3D CONTEST」。3度目の開催となる2018年大会には過去最高の106作品の応募があった。応募作の中には、学生とは思えぬハイクオリティな作品や、各ファブ施設の持ち味を生かしたプロダクトなど、さまざまな個性が詰め込まれている。2018年11月24日に開催された、5カテゴリーにわたる作品の最優秀賞を決めるための最終審査と授賞式の様子をお伝えしよう。

FAB 3D CONTESTは応募者の年齢層やテーマによって5つのカテゴリーに分かれており、参加者はカテゴリーに設定されたテーマや条件に沿った作品を制作して応募する。最終的な完成品のクオリティだけでなく、ものづくりのレシピ共有サイトであるFabbleに記録された製作プロセスや再現性の高さも評価対象になるのが特徴だ。

一次審査によって部門カテゴリーごとの優秀賞1件と特別賞2件が選出され、授賞式直前の最終審査で各部門の優秀賞の中から最優秀賞1件が選出される。今回は初めての取り組みとして、各カテゴリーの優秀賞受賞者による公開プレゼンテーションが行われた。

小学生の自由研究はここまで来た

カテゴリー1の対象は小学生。3Dプリンターを活用した自由な研究とその探求プロセスをまとめた記録を募集した。研究テーマを選んだ理由や試行錯誤など、完成に至るまでの過程が他カテゴリーよりも特に重視されている。

優秀賞を受賞したのは、小学4年生と6年生の兄弟による「作れるかな?消しかすクリーナー!」。市販の消しかすクリーナーを分解して歯車の仕組みに興味を持ち、兄弟で協力してオリジナルのクリーナー製作に取り組んだ。

兄の平野喬久さんは2017年のコンテストの総合優勝者。大人顔負けの濃厚な研究ノートは今年も健在で、ときにはけんかもしながら兄弟それぞれの得意分野を生かして製作に取り組んだプロセスを紹介してくれた。

弟の平野晴己さんは、コンテストをきっかけに大好きになった3Dプリンターが、銃の製作に使われたというニュースにショックを受けたという。プレゼンの最後に「お願いがあります」と切り出し、3Dプリンターを悪いことに使わないでほしいと会場に呼びかけた。

特別賞を受賞した「ウミガメの足跡を見分けるための3Dモデル」や、STEM教育の一環として取り組んだローラスインターナショナルスクールオブサイエンスの児童による作品群は、環境問題と強く結びついている。小学生といえども、ものづくりを通じて問題を分析し、鋭いアプローチで切り込んでいくことができることを感じさせた。

授業や放課後プログラムでコンテストに取り組んだローラスインターナショナルスクールオブサイエンスは「教育ファブ機関賞」を受賞した。 授業や放課後プログラムでコンテストに取り組んだローラスインターナショナルスクールオブサイエンスは「教育ファブ機関賞」を受賞した。

誰かの困りごとを解決する、暮らしの自由研究

生活を改善するアイデアを幅広く募集するカテゴリー2。前回までの家族という条件はなくなり、同じ価値観を持つ人たちに向けた作品が集まった。

「触れんど!ボックス」は、「汚れた手でウェットティッシュのフタに触りたくない」という母親の依頼で製作したもの。ArduinoとMESHを用いたセンシングによって、箱の上に手をかざすだけでフタが自動で開く。ハードウェアとソフトウェアをバランスよく利用したことが評価され、優秀賞を受賞した。

特別賞を受賞した「バランチボックス」は、お弁当の中身の片寄りを解決したい! という学生らしい悩みから生まれた作品。常に中身が地面と水平になるような球型の弁当ケースを作ることで問題解決に取り組んだ。

作者である加藤陸さんが所属する希望が丘学園鳳凰高等学校は、「3Dプリンターを一つのツールと捉えて活用し、生徒の活躍の場を広げていきたい」という思いのもと、コンテストの事務局から3Dプリンターをレンタルして課外活動をスタート。近隣のファブ施設であるダイナミックラボとも連携した取り組みが評価され、教育ファブ機関賞を受賞した。

希望が丘学園鳳凰高等学校の中村太悟氏。共に作品制作に取り組んだダイナミックラボは、2017年に引き続き「ファブ施設賞」を受賞した。 希望が丘学園鳳凰高等学校の中村太悟氏。共に作品制作に取り組んだダイナミックラボは、2017年に引き続き「ファブ施設賞」を受賞した。

中高生が大活躍! FAB電子楽器&笑顔をもたらすIoT

「FAB甲子園」と題されたカテゴリー3では、中学生と高校生を対象にした電子楽器を募集。動物の骨に穴を開けて音を楽しんでいた祖先に思いをはせ、現代のFAB技術を用いて可能になる音楽表現が提案された。

リコーダーとトロンボーンを組み合わせた優秀賞受賞作「リボーン(ReBone)」をプレゼンしたのは、中学3年生の清水大輔さん。流体解析ソフトウェアを用いたリコーダーの解析や40回以上にわたる部品のプリントに取り組み、楽器の構造の複雑さを実感したという。

カテゴリー4の募集テーマは、FABとIoTの掛け算によって「笑顔を誘う」作品。単なる効率化や最適化にとどまらず、実際に人の笑顔を誘うことが実現できているかが評価のポイントとなった。

高校1年生の佐藤怜さんが製作したのは、観葉植物とLINE BOTを通じてコミュニケーションできる「Cactify ~植物と話して笑顔になろう~」。植物のIoT化というアイデア自体はオーソドックスだが、温度/湿度センサーやクラウドの利用法などが明快に記録されていることや、実際に利用者(作者の祖父)の笑顔を引き出したことが高く評価され優秀賞に選出された。

最終審査の会場は各賞の受賞者に加え、審査員やスポンサーなど多くの大人であふれていたが、受賞者は物おじせずプレゼンテーションを披露した。審査員から「まるで商社マンのよう」というコメントも引き出す堂々たる姿は、ものづくりを通じて培われた自信の表れのようにも感じられた。

ハイレベルなエッグドロップコンテスト。そして総合優勝は誰の手に?

カテゴリー5のデザインエンジニアリング部門では、3Dプリンターで製作したパッケージを用いて、どれだけ高い距離から卵を割らずに落とせるか競うエッグドロップに挑戦する。2018年11月3日、参加者はオリジナルのエッグドロップパッケージを持ち寄り、慶應大学湘南藤沢キャンパスで行われた実践大会に臨んだ。

2016年と2017年のエッグドロップコンテストで連続優勝した譜久原尚樹氏によって設計された専用の投下装置。パッケージを吊るすワイヤーを無線操作で焼き切ることで、高所からでも安全に投下できる。 2016年と2017年のエッグドロップコンテストで連続優勝した譜久原尚樹氏によって設計された専用の投下装置。パッケージを吊るすワイヤーを無線操作で焼き切ることで、高所からでも安全に投下できる。
唯一の企業チームによる挑戦。異様なまでの大きさに期待が集まったが、中心に収められた卵は見事に砕け散ってしまった。 唯一の企業チームによる挑戦。異様なまでの大きさに期待が集まったが、中心に収められた卵は見事に砕け散ってしまった。

過去2回の参加者があまりにハイレベルであり、計測可能な高さを越えてしまったことから、接地までの速度と落下地点の精度が評価基準として追加された今回の大会。最高記録の17mをクリアした3作品のうち、優秀賞に選ばれたのは「Formula Fish」だ。

作者は大学院で建築を学ぶ魚森稜也さん。構造計算への関心からエッグドロップコンテストへの参加を決め、接地までの時間を縮めるためにシミュレーションを繰り返した。「学生の特権を生かして昼夜を問わず実験できたこと」が結果につながったと振り返る。

各カテゴリー優秀賞の受賞者。赤いジャケットを着ている村田飛翔さんは「触れんど!ボックス」の作者であり、工業高等専門学校の1年生だ。 各カテゴリー優秀賞の受賞者。赤いジャケットを着ている村田飛翔さんは「触れんど!ボックス」の作者であり、工業高等専門学校の1年生だ。

全カテゴリーのプレゼンテーションを踏まえた最終審査の結果、Formula Fishが最優秀賞に輝いた。他部門も含め「優秀賞の受賞者が全員学生」という結果はコンテスト3回目にして初めてのことであり、慶應義塾大学SFC研究所ファブ地球社会コンソーシアム代表の田中浩也教授は「ついにこの時が来たか」と驚きの気持ちを表した。

老若男女、FABは誰にでも開かれている

前述のダイナミックラボと並び、応募者を積極的に支援した施設に送られる「ファブ施設賞」を受賞したのは、FabLab Shinagawaだ。リハビリテーションの専門職である作業療法士が中心となり、障害のある人々のためのプロダクト製作やワークショップ開催に積極的に取り組んでいる。地元の小学生もラボの活動に参加しており、参加者の多様性と施設独自の取り組みが高く評価された。

FabLab Shinagawaディレクターであり作業療法士である林園子氏(左)と、代表の濱中直樹氏(右)。 FabLab Shinagawaディレクターであり作業療法士である林園子氏(左)と、代表の濱中直樹氏(右)。

FabLab Shinagawaとおおたfabが共催したメイカソンから生まれた「『MESHタグで作る』活動スイッチ作り 肉球編」は、在宅ケアサービスの利用者の要望を基に作られた。重度障害で寝たきりのユーザーとその家族のコミュニケーションを支えるプロジェクトとして、カテゴリー4で特別賞を受賞している。

表彰式の会場には、小学4年生から76歳の名誉教授まで、まさに老若男女という表現がふさわしい多様な人々が集まっていた。小学校の自由研究から家庭での療養まで、FABを用いたものづくりが及ぶ範囲の広さを改めて感じることができる。

「FABはあらゆる世代から愛されており、こんなコミュニティは他にない」と語った田中教授の言葉通り、閉会後には参加者同士が年齢や立場を越えてにぎやかに交流していた。学生の活躍により、人材発掘という当初の目的が果たされつつあるFAB 3D CONTEST。次回以降どのような変化が起こるかにも注目していきたい。

 

FAB 3D CONTEST 2018 審査結果まとめ

カテゴリー1 夏休みの自由研究
優秀賞:作れるかな?けしかすクリーナー!
特別賞:ラメピンクのガチャガチャ
特別賞:ウミガメの足跡を見分けるための3Dモデル

カテゴリー2 暮らしの自由研究
優秀賞:触れんど!ボックス
特別賞:サイズのオーダーメイドができる、ちょっとした棚
特別賞:バランチボックス

カテゴリー3 FAB甲子園
優秀賞:リボーン(ReBone)
特別賞:suspenzer (サスペンザー)
特別賞:water mechanics

カテゴリー4 IoT×FAB
優秀賞:Cactify ~ 植物と話して笑顔になろう 〜
特別賞:肉球スイッチ〜叩けばわかる楽しい気持ち〜
特別賞:Hi!タッチマン

カテゴリー5 デザインエンジニアリング
優秀賞(最優秀賞):Formula Fish
特別賞:ワールドチャレンジ号
特別賞:丸投げ

ファブ施設賞
FabLab Shinagawa
ダイナミックラボ

教育ファブ機関賞
希望が丘学園鳳凰高等学校
ローラスインターナショナルスクールオブサイエンス

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