CES 2019レポート
CES 2019で勢力を見せつけたLa French Tech——国籍にとらわれない支援プログラムが実を結ぶ
毎年1月に米国のネバダ州ラスベガスで全米民生技術協会(CTA)が主催する世界最大の家電見本市「CES 2019(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」が、2019年1月8日から11日まで開催された。CESは業界向けに多くの電子機器の新製品が展示され、4500以上の出展と世界160カ国から18万人以上が来場した。2019年は、ハードウェアは中国企業が存在感を放ち、ソフトウェアはアメリカ企業が目立つ形で会場も大いに賑わった。
エウレカパークの6分の1を占めるフランスの期待
大手家電メーカーから中小企業までが出展する中で、スタートアップ企業が革新的なプロダクトを発表する展示エリアとして注目されるのが、Sands Expo会場の1階に広がる「Eureka Park(以下、エウレカパーク)」である。毎年規模を拡大しているエウレカパークの中は、国や地域、スマートホーム、音声アシスト、VR、モビリティなど、テーマごとのグループにまとまって展示していて、世界40カ国以上から1200社を超えるスタートアップ等が展示ブースを連ねている。その中でもひときわ目立っていたのが、フランスが国を挙げて支援しているプログラム「La French Tech」である。
CES 2019には、フランスから414のテクノロジー企業が出展し(2017年は275社、2018年365社)、世界中のスタートアップが集まるエウレカパークの6分の1程度のスペースを彼らのブースが占めていた。年々勢いを増すLa French Techの展示の周りには、たくさんの人だかりができていたが、プロダクトやサービスはどのようなものがあるのだろうか。フランス政府が期待するスタートアップの中から目に留まったプロダクトと、急成長を遂げるLa French Techの支援について詳しいDMM.make AKIBAコミュニティマネージャーの上村遥子氏に、最近の動向と魅力についてお話を伺ったので紹介したい。
新しいライフスタイルを提案するプロダクトやサービスが目立つ
エウレカパークに入場すると、正面に赤いニワトリのロゴを掲げた出展ブースが連なる。ここ2~3年、世界のスタートアップシーンから注目を集めているLa French Techが出展しているエリアである。
414社も出展しているLa French Techの展示エリアから、まずはonTracksの「onTracks」を紹介したい。onTracksは左右の腕に装着するデバイスで、GPS測位しながら目的地までの道案内をバイブレーションで知らせてくれる。
ハイキングやランニング、自転車に乗りながら消費カロリーや心拍数を計測し、ディスプレイを確認することなく、目的地にたどり着くことができる。注目したいのはバンドのデザインで、ランニングしながら腕を振っていても見やすいようにディスプレイ位置が工夫されている。予約販売価格は155ユーロ(約1万9500円)からだ。
こちらはSTERELA ROBOTICSの「TrolleyBOT」。高齢者や身体の不自由な人、重い荷物を運びたい人向けに荷物を運んでくれる配送サービスロボットだ。特定の人物を追いかける自律ナビゲーションと障害物回避モジュールを搭載する。150kgまでの荷物を積んで、最高時速12kmで移動することができる。
Notilo Plusの水中ドローン「iBubble」は自動追尾機能を搭載し、ダイビングや水中での体験を搭載したカメラで撮影できる。バッテリーの持ち時間は約1時間で水深60mまで潜ることが可能。別途オプションを購入することで、ROVモードに変更できる。ROVモードでは有線ケーブルを本体に接続し、陸上からスマートフォンアプリで操作することができる。
CESではITやIoTを用いて子育てを助ける分野のBaby Techも盛り上がっていた。注目製品の中から、Babeyesの赤ちゃん向けウェアラブルカメラ「Babeyes」を紹介したい。赤ちゃんの衣類に取り付けても違和感のないかわいいデザインが特徴で、赤ちゃんの視点で家族の姿をHD動画で記録し、思い出に残すことができる。電源をオンにすると自動的に20秒間の動画を撮影し、バッテリー駆動で最大2時間使用可能。USB接続で動画ファイルの取り出しとバッテリーの充電を行う。
Cube your lifeの「le Cube」はスマートフォンと接続し、専用アプリで遊ぶことができるスマートサイコロだ。専用のアプリ内に80以上のゲームがインストールされていて、選択したゲームのルールに合わせて楽しむことができる。Kickstarterで2万3562ユーロ(約296万円)の資金調達に成功し、Cubeの販売価格は24.99ユーロ(約3100円)で、専用アプリは無料で配信している。ライフスタイルを楽しむフランスらしいプロダクトだ。
都会における自転車/モーターバイク乗りは車との衝突事故だけでなく、空気中の汚染物質からも身を守らなくてはいけない。そんなニーズに応えたマスクがR-Purの「R-PUR Nano」である。10ミクロンから0.04ミクロンの大きさの微粒子と排気ガス、花粉やウイルス、バクテリアのような有害な大気汚染物質を取り除く。クラウドファンディングのIndeigogoで、23万2846ユーロ(約2900万円)の資金調達に成功している。CES 2019の展示ではLEDを内蔵し、方向指示に合わせてLEDを点滅させることも検討していると担当者は話していた。
「MyOeno」はワインが好きな方におすすめのプロダクトだ。スマートフォンアプリとBluetoothでつながるハードウェアスキャナーのセットで、スキャナーの長さ4センチほどのセンシング部分をワインに漬けると、専用アプリにワインのタンニン濃度や酸度、強度が表示される。そのワインを飲んだ時に好みの味か評価することで、好みを学習してプロファイルを設定する。
他にも数々のプロダクトやサービスが展示されていて、La French Techの展示をすべて紹介することは難しいが、共通していたのは新しい技術によって従来と違うものを作ろうというアイデア発想ではなく、ライフスタイルを背景にデザインを重視し、日常を楽しみながら便利にするものを作ろうという発想が特徴的だ。
La French Techに日本から応募できるのか?
La French Techがアメリカのシリコンバレーのような民間主導とは異なり、政府主導のプログラムとして急成長してきた理由を詳しく知るために、日本の国内外でスタートアップを支援するDMM.make AKIBAでLa French Techとのコラボレーションを担当する上村遥子氏にお話を伺った。
「La French Techでは国籍に関係なくスタートアップを支援するアクセラレータープログラムや製造環境を整えていて、外国籍のスタートアップを多く受け入れています。フランス政府はスタートアップを呼び込むために、海外の起業家を選抜してフランス国内で企業とパッケージで支援する「フレンチテック・チケット」やビザ取得を容易にする「フレンチテック・ビザ」などの政策を実施して手厚くサポートしています。
『フランスなら4日間で起業できる』と冗談で言われるくらい行政の対応も早く、フランスを拠点にしてユーロ圏でビジネスを広げていくこともできます。フランス語という壁を感じるかもしれませんが、資金調達額も年々増加傾向にあり、スタートアップにとって魅力的な市場だと思います」
日本のVCはスタートアップに海外資本が入っていると資金調達を断るケースがある。しかし、上村氏によればフランス政府やフランスのVCは外国籍のスタートアップや海外資本が入っていたとしても受け入れる姿勢や体制があるという。フランス政府主導で進めているアクセラレータープログラムに参加し、VCから資金調達した後にアメリカや中国などのフランス国外に活動拠点を移したとしても、とがめられたり、ペナルティを受けたりすることもない。日本からプログラムに参加する魅力やチャンスも十分にあるだろう。
La French Techのより詳しい情報についてはこちらの記事もぜひ読んでいただきたいのだが、この勢いに乗ってヨーロッパで活躍する日本のスタートアップがこれから生まれてくることを楽しみに待ちたい。