位置情報×IoTの最前線
物流パレットにGPSトラッカーを搭載して回収サービスを提供——日建リース工業
新モデルにはWi-Fi測位機能や距離センサーを追加
一方で、これまでサービスを提供してきた中で、見えてきた課題もある。最も大きな課題は、GPSによる位置情報の精度だ。
「GPSについて詳しく知らない人は、スマートフォンの地図アプリをイメージするのですが、現在のTranSeekerは建物の中に入ると測位できません。それを補うために、携帯電話の基地局測位機能を搭載したのですが、基地局による測位はかなり精度が低くなります。工場が建ち並んでいる場合だと、隣の建物の中に置いてあるように見えることも多く、それではお客さまに納得していただけないこともありました」(津村氏)
パレットは倉庫の中で使われることが多く、パレットがどの倉庫にあるのかを正確に把握したいというニーズは多い。そこで、同社は現在、この課題を解決したTranSeekerの新モデルを開発中だ。
「新しいTranSeekerには、スマートフォンと同じようにWi-Fi測位機能を搭載しようと考えています。さらに、防水も強化し、基板そのものに防水加工を施して、より厳しい環境でも故障しないようにする予定です。また、実際にサービスを提供して、6カ月間フルで使うお客さまはほとんどいないことがわかったので、バッテリー容量を半分にして小型化することにしました。小型化することで、パレットだけでなく人間が身に付けることも可能となります」(津村氏)
新型のTranSeekerは、センサー類も強化する。新たに湿度センサーを搭載するほか、パレットの上にものが載っているかどうかを判別するための距離センサーも搭載する予定だ。これによって在庫管理に役立てることもできる。このほか、GPSモジュールについても、2018年度から4機体制による運用がスタートする準天頂衛星「みちびき」に対応したものに変更し、より安定した測位が可能となる。
新型TranSeekerは現在開発中だが、それを搭載するパレットについては、10月から新しい製品をリリースする予定だ。従来はパレットの上からGPSを装着する設計となっていたが、新モデルは横から取り外しができるようになり、パレットの上に荷物が置いてあったり、パレットが積み重なったりしていてもTranSeekerの出し入れが可能となる。
IoTで得たビッグデータを基にトータルなソリューションを提案
今後はパレット以外にTranSeekerを搭載することも検討しており、すでに8月からは、金属製のカゴ車や六輪カートへの搭載も始まっている。日建リース工業は、加工野菜など青果物の大量配送に適した金属製の「メッシュボックスパレット」の提供をいち早く開始し、人気を集めているが、このメッシュボックスパレットへのGPS搭載も検討中だ。
「本格的にサービスを展開しようと考えたら、GPSトラッカーも、それを搭載するためのパレットも、大量に生産する必要があり、初期投資はかなりの額になります。また、GPSトラッカーに搭載するSIMは、貸し出されていない状態でも月々の基本料金がかかるため、維持費もかかります。ただ、どんなサービスでも最初にやろうとすればリスクは高くなるし、挑戦しない限り結果は出ません。物流業界は規模が大きく、なかなかイノベーションが起こりにくい業界ではありますが、その分、ターゲット企業が多いのでチャンスはあります」(津村氏)
まだ他社がほとんど取り組んでいない新たなサービスに積極的に取り組む同社に、位置情報とIoTを活用したビジネスについてどのように考えているのかを聞いた。
「我々としては、GPSによるトラッキングは『媒介』としてしか考えていません。IoT機器によって位置情報に加えて温度や加速度などさまざまなデータを取ることで、物流全体のビッグデータを取得し、最終的にはそれを活用してお客さまにどんなサービスを提供できるかを考えていきたいと思っています。たとえば荷物の在庫管理やトラックの配車管理などを分析すれば、もっと効率の良いやり方を提案することができるかもしれません。TranSeekerはその先駆けとなるサービスとして考えています」(津村氏)
日建リース工業は物流機器だけでなく、介護用品のレンタルサービスも提供しており、今後は物流だけでなく、高齢者用の電動カートにGPSトラッカーを搭載したり、徘徊対策にGPSトラッカーを利用したりすることも検討している。物流や介護の現場にGPSトラッカーを導入することでイノベーションを起こそうとしている日建リース工業。位置情報のトラッキングを活用して新たなビジネスを考えているスタートアップは、同社の取り組みを参考にしてみてはいかがだろうか。