メイカースペースの作り方
メイカースペースとは何か——これから始める人に伝えたいこと
なぜメイカースペースが増え続けているのか
メイカースペース自体は決して儲かるビジネスではない。別の言い方をすれば、日本でものづくりに興味がある人は、あなたが想像しているよりも圧倒的に少なく、会費や機材利用料で運営費を賄うことは非現実的だ。
技術/ものづくり系のメディアで、こんなことを書くのもおかしな話だが、メイカースペースを立ち上げて独立採算で黒字にしたいという人には、かなり棘が多く長いイバラの道が待っていることを最初に知ってほしい。
初期投資は行政からの補助金などを活用して、安く抑えることができたとしても、工房の家賃や光熱費、機材のメンテナンス費や人件費などランニングコストは補助金の対象とはならないので、何も考えずに立ち上げれば優遇措置はほぼ無いと言っていい。加えて、工房の利用費や機材利用料だけでは十分な売上を確保できない。そのため、多くの施設は販売やイベント、工房を活用した受託開発など、さまざまなサービスを展開するか、工房を独立した事業ではなく、既存の事業の一つに組み込んで赤字をカバーしている。
2017年11月にTechShopが破産した際、CEOのダン・ウッズは、メイカースペースは資金調達が難しい業態であり、質の高い機材と人材を維持しながら運営することは非常に難しいと語っている。
メイカースペースを立ち上げる動機
それでも、メイカースペースが増え続けるのはなぜだろうか。前述したクリス・アンダーソンの「MAKERS」の影響や、既にメイカースペースを運営している人から影響を受けてメイカースペースを立ち上げた人は驚くほど多い。
プロトタイピングに必要な機材の価格が下がり、さまざまな基板やパーツがECサイトで簡単に購入でき、自ら作ったものをWebに公開したり、Maker Faireのようなイベントに出展することで、さまざまな人と出会ったり仲間を募ったりするというMakersのカルチャーにおいて、メイカースペースは欠かせない場所だ。
また、モノの消費からコトの消費にという文脈の中で、ものづくりをサービスとして提供するケースや、既存の枠組では新たな事業を生み出せないという課題を抱えた企業や自治体が起爆剤としてメイカースペースを立ち上げるケースも少なくない。
前者の例としてはLOFTや無印良品が充実した加工サービスを一部店舗で提供しているケースやホームセンター内に工作機械ブースを展開するカインズが挙げられる。後者ではパナソニック、ソニー、オムロンといった大企業がメイカースペースを社員向けに運営するほか、地場企業の新規事業創出を目的にメイカースペースを立ち上げた豊田市など運営者の多様性は年々高まっている。
サステイナブルなメイカースペースのあり方
日本においてメイカースペースというビジネスモデルは、ここ数年で誕生したものだ。機材と場所を用意すればメイカースペースとしてすぐにでもオープンできるだろうが、それだけでは持続性に欠けることは既に指摘した通りだ。何十年後かには創生期として分類されるであろう現状において、どのようなメイカースペースがあり、どのような取り組みを通じて多くの人に必要とされる存在になろうとしているのか。
次回以降、現在あるメイカースペースを分類した上で、求められる要件や事例を紹介していくことで、メイカースペースという「サードプレース」を、世の中に欠かせないものにするためのヒントを探りたい。