アジアのMakers by 高須正和
大量生産でもDIYでもない、仲間内で頒布される「同人」ハードウェアが起こすイノベーション
Indie Design/同人ハードウェア
この講演で強調されたのが「Indie Design」だ。これまで、大きい組織から出てこなかったようなイノベーションが、趣味/情熱で駆動されるような人々の間から出てくることについて語っている。大きい組織が必要とする、「売れる見込み」や「すでにできあがっているマーケットシェア」とは別のところ、プロジェクトを進めているグループと、買い手/使い手の距離がきわめて近いコミュニティから生み出されるイノベーションだ。
例としてAppleとMakerBotが挙げられた。
- どちらも、コミュニティの中の小さいチームから始まった(AppleはHomebrew Computer Clubという自作PCマニアのハードコアなコミュニティから、MakerBotはNYCRegisterというニューヨークのハッカースペースから生まれた)。
- チームメンバーそれぞれの役割も、どこまでメンバーなのかもあいまいだった。
- それまでプロだけが使えるものだった、コンピュータや3Dプリンタを個人が使えるようにした。
上記の類似点が語られ、相違点として「Appleにはウォズニアックという天才がいて、ジョブズもテクノロジーにすごく詳しい人だったけど、MakerBotのチームは学校の先生とWeb開発者とソフト開発者のプロジェクトだった」として、一人もハードウェアのプロがいない状態で始まったプロジェクトであること、それぐらいAppleの黎明期(1976年頃)に比べると、現在はモノを作るための知識やサポートが得やすい環境になっていることについて触れた。
ここからエリックは、MakerBotだけでなく、今の時代に趣味ベースで駆動する小さい集団から注目のプロジェクトが続々と生まれてきていることを、Indie Designと定義する。
そして、Indie Designが成り立っている要素として、以下のように整理した。
——作り手/供給側の変化
- Seeedのような会社によって部品の調達や製造がオンラインでできることで、手軽になったこと
- テクノロジーの多くがオープンになっていて、簡単に調べられ、使えること
- 自分たちのプロジェクトを一緒に試してくれるMakerのコミュニティがあること
- 少量でも継ぎ足すように製造できるようになり、生産がフレキシブルになったこと
- 無料の開発ツールの普及
——買い手/需要側の変化
- 人がもともと持っている、とても多様な要求
- クラウドファンディングによる資本調達、リスクの分散
- 面白いものなら、宣伝費を使わずに広まるSNS
どれも、Maker Movementと呼ばれている大きな変化を構成する要素で、これにより「せいぜい数百個だが生産されていて、熱心なファンが使ってフィードバックを与えている」という、過去にはなかったものづくりができるようになってきている。そのときの最初の数百人のユーザーはすごく大事で、単なるカスタマーを超えた存在であり、「どういうものが良いものか」という需要まで、一緒になって考えるチェーンを作る存在だと、エリックは考えている。この考え方は同人誌などの「同人」という考え方に非常に近い。コミックマーケットに並ぶ同人誌は、同じ興味をもった人たちが交流するもので、少ない部数だが一見シェアが見当たらないような多様な要求に応えている。それは、日本から多様なマンガが生まれる基盤にもなっている。
Do It Yourself、個人が何かを作るDIYという行為は、どんどん「同人」の行為になりつつある。