アジアのMakers by 高須正和
世界のベンチャーに対して見せた、日本製造業の可能性 —HWTrekのAsia Innovation Tour 世界のサプライチェーンレポート—
京都試作ネット、MAKERS BOOT CAMPの取り組み
ここで紹介したHILLTOPほか訪問した多くの企業は、京都試作ネットのメンバーでもある。京都試作ネットは、京都近郊に多く存在する試作会社をリスティングし、「営業時間内の問い合わせは2時間以内に返信する」を旗印に、製作会社をネットワーク化している。サイトに公開している実績によると年間1000件以上の問い合わせを受け付け、うち50%以上は近畿地方以外からで、1%ほどは海外からの問い合わせもあるようだ。英語版のサイトも備え、京都試作ネットを知ったきっかけの47%は検索からだという。
製造業そのものは歴史のあるビジネスだが、新しい顧客とのタッチポイントの部分や商談の立ち上げの部分でインターネットをうまく使い、ネットワークの力を上げるのは21世紀に必要なことだ。前回までに紹介した深センの強さも「多くの会社が集まっていてすべてがそろう」というエコシステムのもたらすものだった。京都試作ネットの取り組みも、企業がまとまったことでHWTrekという別のネットワークとつながりやすくなっているし、効果が上がっているといえるだろう。
また、MAKERS BOOT CAMPとして、HWTrekのように製造業をアクセラレーションする試みも行っている。HAXやShenzhen Valley Venturesが投資、HWTrekが製造業からお金をもらってスタートアップを支援しているのと違い、MAKERS BOOT CAMPはスタートアップ自身がコンサルティングフィーを支払う形で、門前払いされることが少なそうだし、どのような段階からも相談をすることができる。ベテランの製造業と充分なネットワークが作れず、HAXのような専門のインキュベータに持ち込む前の段階で試行錯誤しているスタートアップにとってはありがたいキャンプだろう。
Makersとして急に始まった新しい形の製品開発と従来の経験ある製造業を繋げて進化させる仕組みは、日本からも始まっている。
日本の製造業は世界のエコシステムに組み込まれることができるか?
今回紹介した村田製作所やHILLTOP、クロスエフェクトといった企業たちは、前回までに紹介した深センの製造業と同じく、世界のMakerのエコシステムに組み込まれている。
深センではさまざまな工場で、欧米の大学出身者や、しょっちゅう欧米人と仕事をしているスタッフが説明に出てきた。彼らはスタートアップ社長からの問い合わせに、大まかでも即答し、そうでなくてもメールアドレスを交換してフォローアップしていた。説明時も、「どういうことをするといくらかかる」に対して具体的な金額が出ていた。全体のプロセスについて英語で作成された資料があり、同様のものはWebにも掲載されている。「どういう相談を誰にすればいいか」はかなり明確にわかるようになっている上で、「何でも相談してください」という形になっていた。
HILLTOPやクロスエフェクトは多国籍のメンバーでチームが構成されているが、チーム全体が日本人で、かつ日本でしか仕事してない人だけでは海外とのコミュニケーションの部分は難しいし、あいまいな相談をしたいスタートアップと仕事をするのは厳しそうだと感じた。日本企業も、「何でも相談してください」という点は変わらないが、企業によってはやりとりした際のレスポンスの具体的さ加減(特に金額)がだいぶ異なっていた。訪問した中には英語版の資料やWebサイトがない企業もあり、そうなると訪問で得た内容を社内でシェアすることも難しい。そもそも日本国内のスタートアップともまだ仕事をしていなくて、小ロットのビジネスを手探りで始めた段階の企業も多かったので、HWTrekのネットワークが、国内ではまだ立ち上げ期ということもあるのだろう。
一方で、中国が今から手がけようとしている海外やコストの場所への工場移転については、1980年代から続けてきた日本は一定のクオリティがある。訪問したとあるEMS企業は、製造をアジアに移転する際にクオリティを担保するために、社内に現地での製造ラインの元となるマザーセルを用意している。インドネシアの工場で同じオペレーションを行う際のひな形をそこで作り、かつインドネシア従業員のトレーニングも行う。そうしたやりかたそのものは生産管理の本を読めば書いてあるが、「実際にやってみる」のは言語化しづらい多くのノウハウが必要になる。生産の中心地が移動したとき、多くの中国企業は日本企業が積んできた経験を新しく積まなければならない。
HWTrekは世界からスタートアップや、スタートアップをサポートしたいspecialistや製造業者の情報を集めている。興味を持った人はぜひ。