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アジアのMakers by 高須正和

失敗を恐れるシンガポール人気質を変えるSTEM教育

STEM.INCの成果とこれから

メンリム「これは2007年ごろから始まったプロジェクトで、数年かけて方向性を検討し、2014年に最初の中学校で実施した。いまは62の中学校で実施しているが、もっと多くの希望があり、新規参加をお断りしているような状態だ。

参加している学校に大臣が視察に来たり、航空宇宙学のスクールがアメリカやフランスと交換留学を始めたり、このプログラムは有名になった。なにより子どもが自信を持ったことが親に伝わり、親がなるべくSTEMのプログラムを行っている学校に子どもを通わせようとしつつある。STEM.Incは企業とのインターンを増やし、そこにはGoogleのようなグローバル企業も加わっている。実際の企業で知識と経験を身につけることはアントレプレナーシップの育成にも役立つ。

2017年は“Committee on the Future Economy”として、未来のシンガポールに向けて注力すべき7つの提言を、経済大臣を中心にしたグループがまとめた(全文PDF)。「実際的な深いスキルを持つこと」や、「デジタルを強く活用すること」は、すべてのシンガポール人が求められている。

Maker FaireもSTEM.INCも、シンガポールでは「あたりまえ」のものになる」

キアスーを超えていくシンガポール

メンリム館長のシンガポールサイエンスセンターは、Maker Faireシンガポールの運営主体でもある。STEM.Incの活動とMaker Faireは、教育プログラムとアウトプット先としてつながっているし、科学を楽しませるという目的を共有している。

好きが高じた発明品が、クラウドファンディングなどでファンの支持を得て、世間を変えるイノベーションを生み出すのは、「Makerムーブメント」と呼ばれるひとつのトレンドになってきている。Makerムーブメントの発信源となった雑誌『Make:』の編集長、マーク・フラウンフェルダーは、優れたMaker(作り手)についてこのように語っている。

彼らの秘密は、彼らが何か特別なものを持っているというよりは、むしろ何かを持っていないことにある。それは、失敗に対する恐怖感だ。ほとんどの人間は失敗を恐れる。そのため、自分の力量を超える技術を要することには手を出そうとはしない。
(『Made by Hand —ポンコツDIYで自分を取り戻す』 オライリー・ジャパン)

最初に触れた「キアスー」とは真逆のマインドセットといえる。そのシンガポール版を運営しているのもこのシンガポールサイエンスセンターである。シンガポールサイエンスセンターは、さらに巨大に生まれ変わるべく、2020年をターゲットに首相直轄のプロジェクトとして改善プランが練られている。

受験戦争がキアスー気質を生んだシンガポールは、さらに効果的な学習を行うことで、自らを超えていこうとしている。

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