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「バラしてみたらオドろいた」家電分解ジャーニー

自分の声を録音! オリジナル基板作りにチャレンジしてみた

多くの家電製品にはプリント基板が使われています。プリント基板がなければインターネットもできないし、おいしいお米を炊くこともできず、カセットテープでスクラッチ*も不可能です。

プリント基板はプロの技術がなければ製作するのは難しい印象がありますが、最近では無料の基板設計用CADや個人でも注文できるプリント基板業者が増えてきているので、Makerでも作りやすい環境になっています。今回は初心者Makerの私がプリント基板を製作してカセットテーププレーヤーに録音機能を追加したことを例に、初心者でもお手軽にできるプリント基板の製作方法をお伝えします。

スクラッチ:一般的にはアナログレコードをこするようにして前後に回転させて効果音を出すDJテクニックのこと。大江戸テクニカさんはカセットテープでスクラッチをしています(編集部)

私がこれまで作ってきたカセットテーププレーヤーは再生機能のみでしたが、市販品には録音機能のあるカセットテープレコーダーという製品も存在します。昔の機材を見ているうちに、自分のマシンにも録音機能を追加したいと思うようになりました。しかし、私の回路設計の知識はアンプやエフェクターをユニバーサル基板などで組み立てたり、キットを自作したりするレベル。ゼロからの自作は、技術の習得のための学習にかなりの時間がかかりそうです。

途方に暮れていたときにふと分解したラジカセの基板を見ていると、アンプの部分に「BA3308」というICが使われていることが分かりました。BA3308は、ロームが販売していたラジカセ専用のアンプ機能ICです。すでに生産は終了していますが、一部の電子部品の通販サイトや海外サイトなどではまだ販売しています(2020年5月現在)。

ラジカセから取り出したBA3308 ラジカセから取り出したBA3308

データシートを調べてみると、録音の応用回路の記載もあり、この通りに作れば録音回路が作れそうです。ブレッドボードやユニバーサル基板で最初に試作する方法もありますが、今回はデータシートの応用回路通りに基板を作ってみたかったので、CADを使って基板データを作り、業者に発注してオリジナルのプリント基板の組み立てにチャレンジしてみました。

無料のプリント基板CADを使ってみる

プリント基板を業者に発注するには、基板設計用のCADを使って基板製造用のデータを用意する必要があります。Quadcept CommunityというCADは、商用利用でなければ機能無制限で使用できるので、これを使用してデータの作成してみました。マニュアルなどをよく読んで操作方法を覚え、下記のような流れでデータを作成しました。

基板データ作成の流れ 基板データ作成の流れ

回路図作成

回路図は、部品などの接続を記号や線で示す設計図です。電子工作をやったことがある人なら一度は見たことがあると思います。多くの基板CADには回路図エディタなどが付いていて、プリント基板CADと連携して使用することができます。回路図エディタでは「シンボル」と呼ばれる部品の情報に対して、結線情報を設定します。

Quadceptの場合は、回路図エディタ上で部品の形状を示す「フットプリント」の情報を割り当てることができ、後述のプリント基板CADの作業時にその情報を反映できます。シンボルやフットプリントは、CADのライブラリなどで標準のものが用意されていることもありますが、今回のような特殊なICなどでは自分で作成することになります。ちょっとめんどくさいですが、最初にいくつか作っておけばCADの操作も覚えられますし、同じようなものを設計する際に流用できます。

回路図エディタのイメージ 回路図エディタのイメージ

また、シンボルやフットプリントで作成したピンアサインや部品の形状の情報は、使用する部品のデータシートと見比べて間違いがないか確認しておきましょう。ここで間違った情報のまま進めると後から気付いたときにやり直しが大変になります。

基板データ作成の準備

次にDRC(Design Rule Check)の設定を行います。DRCは基板CAD上でレイアウト確認(未結線やクリアランスの確認など)を行う機能です。最初に設定しておけば作業中もミスに気づける可能性が高くなります。また、部品表を作成して、使用する部品の確認をしておきましょう。

基板データ作成

回路図データのチェックが終わったら、基板CADにそのデータを渡します。Quadceptの場合は、PCB転送という機能で、ワンクリックで基板CADとの連携ができました。接続情報は「ネット」と呼ばれ、割り当てたフットプリントの情報と共に白いラインで表示されます。その他、Quadceptの場合は「ネットリスト」と呼ばれる、接続情報を記載したテキストファイルを出力することができ、「EAGLE」など他の基板CADでもネットの情報を読み込むことができます。

PCB転送後 PCB転送後

このままだと部品が回路図に合わせて適当に配置されている状態なので、基板の形状情報を表す外形線を入力して部品データの配置を整えます。

外形線作成 外形線作成

その後、配線パターンをイメージしながら部品を配置し、ネットの線を頼りに配線パターンを書いていきます。今回は2層基板の作成なのでTOP層とBOTTOM層に配線パターンを作成しました。

配線パターン 配線パターン

配線パターン作成後、ベタパターンを作成します。ベタパターンは、動作を安定させたり、GNDや電源の配線を太くすることで電流を流れやすくしたりする効果があります。今回は配線パターンの余白部分にGNDのベタパターンを設けました。

ベタパターン ベタパターン

ガーバーデータ出力

基板のデザインができあがったら、製造業者に注文する時に提出する「ガーバーデータ」を出力します。今回のような単純な2層基板を作る場合であれば、基板の外形を表す「基板外形データ」、配線などの銅箔パターンを表す「パターンデータ」、銅箔を露出したくない所をレジストと呼ばれる絶縁膜で保護する「ソルダレジストデータ」、シルク文字や図形を表す「シルクデータ」、基板に穴を開けるための「ドリルデータ」をそれぞれ出力しましょう。

出力したガーバーデータ 出力したガーバーデータ

今回は自分で組み立てるため作成しませんでしたが、部品実装も業者に依頼する場合は「部品リスト」「メタルマスク」「部品実装図」「マウントデータ」なども必要になります。

実際に作った基板

基板の通販サイトを使ってネット上で基板を注文しました。最近では海外基板メーカーにも手軽に注文できるようになりましたが、初心者にはサポートが充実しているP板.comもオススメです。では届いた基板を早速組み立てます。市販の電子工作キットを作る感覚なので楽しい作業です。

組み立てが終わったので使ってみます。作成した基板はカセットテープに録音できる機能も追加しています。基板の設計の都合上、再生と録音の切り替えには5個のスイッチを一度に切り替える必要がありました。ワンアクションで動作を切り替えられるように3Dプリンターで写真のような治具を作成しました。

新しく作った録音回路で録音した自分の声を使ってスクラッチしてみました。

ホビーユースのものでも、基板CADとネット通販を活用すれば個人でも家にいながら立派な基板を作ることができます。回路設計が得意でなくても、今回のように専用ICなどを探して、参考回路を基に基板のアートワークが起こせれば、プロ並みのプリント基板を作ることも夢ではありません。オリジナルの基板作りに、ぜひチャレンジしてみてください!

参考リンク:
ピーバンドットコム テクニカルガイドライン
Quadceptで学ぶ基板設計の基本ステップ

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