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電子工作でネコの健康を守る

手作り飲水計で愛猫の飲み水チェック

今や国内で900万頭に迫る勢いの飼育ネコ。室内飼いのネコが増え、かつては15歳を越えることが難しかったネコの平均寿命も徐々に上がり、20歳近い高齢ネコも増えてきた。獣医学の進歩もあってさまざまな病気が克服されてきたが、それでも死因の第1位は昔から変わらず腎臓病だ。愛猫を腎臓病から守るべく、飲水計を作ったnecobitさんに話を聞いた。

飲み水はネコのヘルスポイント

音楽と電子回路をテーマにMakerとしても活動しているnecobit(ねこびっと)さんは、愛猫の健康にも人一倍気を使っている。一緒に暮らす「ぽち」ちゃんは14歳とすでに高齢ネコの領域に入っているからだ。以前飼っていたネコを腎臓病で亡くした経験をもっているため、飲み水の量とおしっこの回数を気にかけていた。

necobit:腎臓は体内から老廃物を排出するための重要な器官です。その機能が衰えてくると、ネコは老廃物の濃度を下げ、少しでも腎臓の負担を減らそうと、たくさん水を飲みます。多量の水を摂取すれば、尿も多くなります。多飲多尿は腎臓病の兆候なのです。腎臓が悪くなるほどこの傾向は強まっていきます。

「ねこIoTLT」というオンラインのトークイベントのネタで飲水計を作ったnecobitさんが「多尿」という点に着目してスマートネコトイレを作ったことは以前も取り上げた。

そして今回、以前のものより精度を高めるべく、再度飲水計作りに挑戦した。

以前作った飲水計。 以前作った飲水計。

necobit:以前作った飲水計はあくまでイベントのためだったので、改良の余地をかなり残していました。それでも荷重を電気信号に変換するロードセルを扱った経験が、スマートネコトイレにつながったのは前にお話しした通りです。重量測定という点では、トイレも飲水計も変わりませんが、スケールが異なります。トイレでは測定上限8kgのロードセルを4つ(計32kg)使いましたが、飲水計では10kgのものを1つにしました。

測定上限10kgのロードセル。 測定上限10kgのロードセル。

配置の方式も違う。トイレでは広い範囲を測定するため、四隅を測る4点式を採用したが、飲み水の容器はトイレより小さいので、中央の1点で測定する方式のものを使った。

necobit:ロードセルを2枚のディスクではさむ形にしました。上部のディスクをロードセルの一方の端に、下部を反対の端に、それぞれアダプターのためのパーツをはさんで、取り付けます。

水を入れた容器を上部ディスクに載せるとロードセルの中央がわずかにひずむので、それを重量変化として測定しています。装置としてはディスクとロードセルの固定がキーポイントになります。

ディスクにはアクリルを使いました。台はMDFです。底部はアーチ型でここにコードを通して配線しやすいようにしています。設計自体はCADで行い、レーザーカッターで切り出しました。容器を固定する黄色いパーツは3Dプリンターで作りました。

飲水計のCADデータ。 飲水計のCADデータ。
完成した手作り飲水計。 完成した手作り飲水計。

プログラムで変化量をモニター

測定したデータは、スマートトイレのときと同じく、M5Stack用重さユニットで駆動し、データをATOM Liteに送りこんだ。配線にはんだ付けはない。処理したデータはIFTTTのWebhookからLINE Notify に飛ばし、外出先でもわかるようにした。

necobit:データを処理するATOM Liteのプログラムですが、基本的にトイレのときと同じく閾値を調整して基準点をずらしています。ただし、トイレのときと違い、1cc(=1g)単位で変異を見たいのでより細かくしました。

具体的にはマイナス変異が一定時間以上連続してあれば、「水を1回飲んだ」と判定して、LINE Notify に通知するようになっています。

水は常に蒸発して減っていきますが、そこは飲み水と違って短時間で大きく変化するところではないので無視しました。

画面では1回の飲み水の量と1日の回数、トータルな量がわかるようにしました。

回数は0時から23時59分まで記録し、0時を境にリセットするようにしています。1日が終わったとき、その日の飲水量がわかるので、多飲の傾向が出てくればそうだと判断できます。

LINE Notifyの通知画面 LINE Notifyの通知画面

朝、容器に水を定量入れ、1日の終わりに測って、通知されたデータと比べてみました。蒸発量を勘案しても、ほぼ一致したので、精度はそれなりに出ていると思います。

今後は1日分のデータをGoogleスプレッドシートに飛ばし、グラフにして変化を見ることも考えています。

飲水計のさらなる改良について語るnecobitさん。 飲水計のさらなる改良について語るnecobitさん。

手作り飲水計を前に語るnecobitさん。スマートネコトイレに続き、愛猫のヘルスケアはより充実してきた。

腎臓病を心配する高齢ネコのオーナーさんは多い。necobitさんはデータを下記GitHubで公開しているので、気になる方は飲水計作りにトライしてみたらいかがだろうか?
https://github.com/necobit/Smart_Water_Scale_for_M5AtomLite

かくいう筆者もやってみた

筆者もネコ飼いで、現在13歳の高齢ネコを抱えている。この取材を契機にロードセル、M5Stack用重さユニット、ATOM Liteを入手して自分でも作ってみた。

プログラムはnecobitさんのものに、自宅Wi-FiのSSIDなど必要な訂正を加え、使用。

もっとも心配したのが2枚のディスク。CADやレーザーカッターを駆使してアクリルを加工するというのは少々荷が重い。necobitさんに相談すると「厚めの板材を手作業で切り出しても、ある程度いけると思いますよ」とアドバイスされた。

15mmの板材を切り出し、ロードセルをはさんでネジで固定してみた。板材とロードセルの間はワッシャーを何枚かはさみながら高さ調整。少々不安を抱きながら、ともかくも使ってみることに。

筆者の作った飲水計。 筆者の作った飲水計。

ネコの行動を注意深く観察してみた。容器に口を付けるたびにきちんと通知が来る。1日が終われば、回数と飲水量もわかった。どうやら安定して動いているようだ。

飲水計に載せた容器から水を飲む我が家のネコ。 飲水計に載せた容器から水を飲む我が家のネコ。
無事、LINE Notifyに通知が来た。 無事、LINE Notifyに通知が来た。

手作りの装置で毎日の回数と飲水量がわかるのは将来の腎臓病に備えるという点で非常にありがたい。これからも使っていきたい。

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