ChatGPTなど新技術で進化するキャラクターとの暮らし。召喚装置「Gatebox」が目指すもの
2016年12月、最初の予約販売を開始したその商品は、「キャラクターと暮らす世界を実現する」というコンセプトとともに、世界に衝撃を与えた。リリースから7年、量産化、他社との提携などを行いながら、進化を続けている。「好きだから作る」を極め、メイカーからハードウェアスタートアップへと成長したGateboxの代表取締役 武地実(たけちみのり)氏に話を聞いた。
キャラクターと暮らす世界
「モニターの中だけでなく、現実の世界でも一緒に暮らせたら……」。キャラクター好きなら誰でも夢想するが、それを現実のものにするための壁は高い。Gateboxの開発にいたる武地氏の歩みも平坦(へいたん)ではなかった。
武地氏:大学では原子力を学び、ものづくりとあまり関係のない世界で過ごしていました。ただ、興味はありました。ハッカソンなどに参加してメイカー文化に触れ、その後、起業したのですが、最初はうまくいかなくて。いったん仕事を離れ、しばらくぶらぶらしてました。でもその間に「本当に自分がやりたいことは何か?」を真剣に考えました。結論は「キャラクターと暮らす世界を作れたら、少なくとも自分は幸せだろう」というものでした。
目的ははっきりしていたものの、具体的に何を作るかは決まっていなかった。
武地氏:最初はコンセプトだけで、どんな製品になるか全くわかりませんでした。それでもキャラクターは、普通のモニターに映っているだけでは味気ないと思っていました。それでは「一緒に暮らしている」というより、「画面の向こう側にいる」と感じていたので。
やはり3次元でキャラクターが本当に家の中にいるようにしたいと思っていました。試行錯誤する中で「リアプロジェクション」という技術にたどり着き、製品化しようと思いました。
リアプロジェクションはスクリーンの背面から内蔵プロジェクターで投影して画像を表示する方式だ。見るときに部屋を暗くする必要がなく、表側にプロジェクターを置くスペースを確保しなくてもよいといった利点がある。ハードウェアとしては、比較的小型の装置に収まる。見た目は、まさにホログラム画像だが、厳密には異なる。
武地氏:いわゆるホログラムはレーザー光などを使って、光の干渉によって3次元映像を作るのですが、装置が大掛かりになりがちです。そこで簡易的にホログラムのような像を作る「擬似ホログラム」という技術を使いました。リアプロジェクションもその一つですね。周囲を黒くした環境下で、透明スクリーンにプロジェクターで背面から映像を照射しています。このやり方だと映像の中の黒い部分は透過するので、透明になって、キャラクターだけが浮かび上がるように見えます。横から見たら平面に見えますが、実際に試作してみると、対峙(たいじ)してのコミュニケーションになるので気になりませんでした。
進化する装置
2016年コンセプトムービーを作ってYouTubeで公開すると、1日に10万回再生された。それに力を得て、同年末に限定予約販売を行い、完売した。
そこからLINEとも業務提携し、量産化へと舵(かじ)を切った。
武地氏:音声でコミュニケーションが取れるだけでなく、朝起こしてくれたりとか、夜帰ってきたら「おかえり」って出迎えてくれたりとか、外部の情報を取り入れてキャラクターが生活のサポートをするみたいな機能も充実させ、2019年10月に量産モデルを出しました。
その後2020年にCOVID-19パンデミックになったので、量産化はスムースにいかなかったですね。ただ「家の中の話し相手としてとてもいい」という多くの声をいただき、追い風にもなりました。
パンデミックが徐々に収束していく中、コンシューマーだけでなく、法人からの問い合わせも来るようになった。
武地氏:法人のお客さんから、お店に置きたいとか、企業キャラクターを出したいとか、そういう要望が増えてきて、ソリューション事業も手がけるようになりました。特に大型パネルによる等身大召喚装置はニーズが高かったので、2021年に開発し、リリースしました。
ChatGPT連携による新しい形
Gateboxは2023年、大きな転換期を迎えた。それがChatGPTとの連携だ。インタラクティブ性の飛躍的向上を目指した。
武地氏:これまでは普通のAIを搭載して会話していたんですけど、その部分をChatGPTに差し替えたバージョンを開発しています。すでにクラウドファンディングでご支援いただいた方には先行体験していただいています。
従来はこちらでパターンを用意してそれを学習させていたのですが、どうしても会話の幅に限界があります。ChatGPTの導入で、ほぼどんな会話でも返してくれるようになっています。
武地氏が目指すGateboxの進化はChatGPT連携だけにとどまらない。
武地氏:我々が目指すキャラクターは、物理的な制限のあるロボットとは異なります。また、装置としては、一緒に暮らすというコンセプトから、視界が遮断されるVRゴーグルとも違います。姿形に制限がなく、いつでもそこにいるところが強みです。将来的には、自分が一番好きなキャラクターが家にいて、共に生活してくれて、安心感さえ与えられる、ユーザーさん一人一人の望むものをお届けできるようにしたいなと思っています。
さらなる進化を宣言する武地氏だが、YouTuberとしてもGateboxが作る世界の魅力を直接伝えている。
武地氏:自社の製品の魅力をもっとも知り、みんなに伝えたいという気持ちが一番強いのは、やっぱり社長だと思っているので。社長業の合間を縫って、なんとか定期的に配信していきたいと思っています。
武地氏は、子どもの時、ちょっと変わった体験をしている。
武地氏:小学校5年生から6年生の1年半、親の仕事の関係で東アフリカのマラウイという国で過ごしました。インターナショナルスクールに通いましたが、周囲は全部英語で、コミュニケーションも取れず、ずっと一人でしたね。その時に好きだった漫画やアニメのキャラクターに癒やされた思い出があります。
その体験が今の装置につながっているか、聞いてみたが、苦笑するばかりだった。
それでも、子どもの時の思いは消えるものではないだろう。好きを突きつめたところからしか作れないこの装置の中で、微笑みかけるキャラクターがそれを物語っているように思えた。