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SOLIDWORKS WORLD 2017レポート

単なる設計ソフトではなく、高度に拡張されイノベーションを生み出せる設計製造環境を目指すSOLIDWORKS

世界に500万人以上のユーザーを持つミドルレンジ商用3D CAD「SOLIDWORKS」は、ファブラボのスタート時からサポートし各ファブラボにライセンスを無償提供するなど、Makersとのつながりも深い。そのSOLIDWORKSユーザーやパートナー企業が年に一度世界中から集まるイベント「SOLIDWORKS WORLD 2017(SWW2017)」(主催:米Dassault Systemes Solidworks)が、2017年2月5日から8日まで米国カリフォルニア州ロサンゼルスのコンベンションセンターで開催された。2016年に続き取材する機会を得たSWW2017の模様を、fabcross視点で紹介する。

SOLIDWORKS WORLDは今回で19回目の開催となる。参加者は前回並みの5000人以上、基調講演や200以上のセッション、100社以上が出展する展示パビリオンを通じてSOLIDWORKSの最新知識や技術、応用事例、関連製品やソリューション、そして各国のDassault Systemes社員もここで初めて知るという、SOLIDWORKS次期バージョンに関する情報が得られる。SWW2017へは日本からも80人ほど参加、日本企業も構造計画研究所やソフトウェアクレイドル、ローランドDGなど8社がブースを出展した。

米Dassault Systemes SolidworksのCEOジャン・パオロ・バッシ氏 米Dassault Systemes SolidworksのCEOジャン・パオロ・バッシ氏

2月6日から3日間、毎朝約2時間たっぷりある基調講演には、米Dassault Systemes SolidworksのCEOジャン・パオロ・バッシ氏、親会社でハイエンド3D CAD「CATIA」を提供する仏Dassault SystemesのCEOベルナール・シャーレス氏をはじめとして、事業担当役員やユーザー、パートナー企業らが次々と登場する。本記事ではそれら基調講演の模様を中心にレポートする。

「THE NEW. THE NEXT. THE NEVER BEFORE」

Illusion Projects創業者のティム・クロシエ氏。 Illusion Projects創業者のティム・クロシエ氏。

「THE NEW. THE NEXT. THE NEVER BEFORE.」をテーマに掲げるSWW2017で、トップバッターとして基調講演に登場したバッシ氏が最初に紹介したゲストは、大掛かりなイリュージョンショーの大道具製作を手掛けるIllusion Projects創業者のティム・クロシエ氏だった。著名マジシャンのデビッド・カッパーフィールド氏からの依頼を含め、空間に30フィート(9メートル強)のヨットを突然出現させる仕掛けや短期間で制作しなければならない大きな機関車などの設計にSOLIDWORKSを利用してきた。マジシャンとエンジニアが緊密に連携することで、不可能と思われることが可能になるイリュージョンが出来上がるという。

基調講演では、26インチ(66センチ)回転ノコギリで人間(バッシ氏!)の首を切り落とそうとするイリュージョンが披露された。
上の動画で使われた電動ノコギリ台の設計データ。 上の動画で使われた電動ノコギリ台の設計データ。
中央の穴のように見える部分に、バッシ氏が首を挟まれていた。 中央の穴のように見える部分に、バッシ氏が首を挟まれていた。

さらにSOLIDWORKSによるTHE NEW. THE NEXT. THE NEVER BEFORE.の例として、NASAジェット推進研究所による、500kgの荷物を積んで最大35度の坂を時速10kmで移動できる惑星改造用ロボット、地球に衝突しそうな小惑星の軌道を変える目的で小惑星表面から15tの岩塊をつかみ上げることができるロボットアームグリップや、時速700マイル(時速1100km以上)で移動できる乗り物として計画されているSpace X Hyperloopの列車デザインを紹介した。バッシ氏は、こうしたイノベーションの設計ニーズをこれからも満たせるよう投資を続けていくと話した。

NASAジェット推進研究所が研究中の、小惑星表面の岩塊をつかむロボットアーム。画像で岩に手のひらを広ベル用に接触しているように見える白っぽいもの。 NASAジェット推進研究所が研究中の、小惑星表面の岩塊をつかむロボットアーム。画像で岩に手のひらを広ベル用に接触しているように見える白っぽいもの。
イタリアのスポーツカーメーカーEffeffe Berlinettaのデザイナーが、SOLIDWORKSで設計した車の外観デザインをMicrosoft HoloLensを使って検証しているところ。 イタリアのスポーツカーメーカーEffeffe Berlinettaのデザイナーが、SOLIDWORKSで設計した車の外観デザインをMicrosoft HoloLensを使って検証しているところ。

SWW2016で紹介された、設計者が条件を設定することでそれらを満たすデザインを自動生成し提案してくれる「Xdesign」機能については、さらに拡張し、安全要件や環境要件を入力すると条件に合った形状だけでなく最適化したデザインとして提案できるようにしていくという。CADとは「Computer Aided Design」(コンピュータの支援による設計)のことだが、これからは“Aided”では足りず、「Computer “Augmented” Design」(~拡張された/高められた設計)が必要だとしている。

Xdesign機能のデモンストレーション。2016年に見せたものよりかなり進歩している様子が分かる。 Xdesign機能のデモンストレーション。2016年に見せたものよりかなり進歩している様子が分かる。

バッシ氏は日本プレス向けのインタビューで「SOLIDWORKSの最優先事項はイノベーションです。顧客は設計における効率化よりもイノベーションを重視するようになったためです。そのため(どうすれば顧客に)イノベーションを提供できるかに注力しています」と話しており、Xdesignのような新しい取り組みを一層進めていく計画だ。

Dassault Systemes Solidworksでは、SOLIDWORKSを使うエンジニアが、紙の設計図/指示書や別のソフトを使うことなくSOLIDWORKS環境だけで設計から製造まで行える作業環境「スマートマニュファクチャリング」を目指しており、すでに設計した3DモデルはSOLIDWORKSから直接3Dプリント出力できるようになっている。これに加えて今回の基調講演では、CNCなどから出力するためのCAMソフトウェア「SOLIDWORKS CAM」を全てのSOLIDWORKSに無償で提供する予定であることが発表された。SOLIDWORKS CAMはSOLIDWORKSのアドインソフトとしてCAMWorksが提供している「CAMWorks」の技術を搭載したものだ。

「Paul Reed Smith」のギターもSOLIDWORKSで設計されている。3Dモデルを見ながら顧客の注文に合わせて納得してもらえるまで設計変更し、すぐに製造に移れるのがポイントという。 「Paul Reed Smith」のギターもSOLIDWORKSで設計されている。3Dモデルを見ながら顧客の注文に合わせて納得してもらえるまで設計変更し、すぐに製造に移れるのがポイントという。

またSWW2016で初紹介された、4~12歳の子ども向けのものづくりWebアプリ「SOLIDWORKS Apps for Kids」についてもアップデートがあった。1年前はまだリリースされていなかったが、予定していた6つのアプリ「Capture It」「Shape It」「Style It」「Mech It」「Show It」「Print It」がそろい、ベータ版として提供が始まっている。アプリは英語版だが、日本からもサインアップして利用できる。現在は1300人以上のアクティブユーザーが利用しているとのことだ。

6つのアプリ全てをベータテスト中。Webアプリなのでタブレットなどでも簡単に操作できる。 6つのアプリ全てをベータテスト中。Webアプリなのでタブレットなどでも簡単に操作できる。
すでにApps for Kidsによって作られた3Dモデルは5000を超えるなど、活発に利用されている。 すでにApps for Kidsによって作られた3Dモデルは5000を超えるなど、活発に利用されている。

それから、ベルナール・シャーレス氏からは、スタートアップ支援についての発表もあった。 Dassault Systemesはフランス本社で、スタートアップを支援するアントレプレナープロジェクトとして、オープンイノベーションラボとスタートアップアクセラレーションプログラムからなる「3DEXPERIENCE Lab」 を2015年11月に始めている。3DEXPERIENCE LabではDassault Systemesの社員全員が、見込みがあると思うスタートアップに対してプロジェクトが成功するようにメンターとして支援を行っている。3DEXPERIENCE Labに参加したいスタートアップはWebサイトを通じて応募でき、これまでの約1年間に250件の応募があり、そこから10件ほどのプロジェクトが採用された。1月に米ネバダ州ラスベガスで開催されたCESには、Dassault Systemesがブースを出展してスタートアッププロジェクトのプロモーションをしたという。

仏Dassault SystemesのCEOベルナール・シャーレス氏 仏Dassault SystemesのCEOベルナール・シャーレス氏

SWW2017では、その3DEXPERIENCE Labの北米への展開として、2017年5月に米Dassault Systemes Solidworksの本社があるマサチューセッツ州ボストンに新たにオープンすることが明らかにされた。北米全域のスタートアップをはじめとした学生やMakersなどを対象としてプロジェクトを募集し、審査ののち採用されれば1年または2年の支援が受けられる。支援内容は、3DEXPERIENCEプラットフォーム(CATIAほか)や、スキルの支援、メンターによる指導、Dassault Systemesが持つグローバルなエコシステムなどが利用でき、より迅速な製品化が可能になる。この北米版3DEXPERIENCE Labには、MITのCenter for Bits and Atomsの協力を得てファブラボも併設予定で、最先端のコンピュータ制御ツールやプロセスを利用して、試作や製品化のアイデア作りが可能としている。

シャーレス氏によると、3DEXPERIENCE Labは北米に続いてアジア地区(上海または東京)にも開設する計画とのことだ。時期は未定だが、開設に当たっては物理的なスペース以上にパートナーとの協力関係が重要としており、東京にオープンする可能性も十分あるだろう。

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