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イベントレポート

社会に求められるファブ施設とは——ものづくりから始まるコミュニティの在り方

もしもJKがものづくりを始めたら

教育のセッションのモデレーターをつとめた渡辺ゆうか氏。 教育のセッションのモデレーターをつとめた渡辺ゆうか氏。

2020年のプログラミング必修化と併せて注目されているのがSTEM教育だ。ものづくりと密接に関わるSTEM教育はファブラボとの親和性が高い。一方でSTEM教育に関心を寄せているのは教育に熱心な一部の保護者層や教育関係者に留まっている。モデレーターをつとめた渡辺ゆうか氏は地域と行政に継続して働きかけながら、草の根とトップダウンの両面からアプローチしていくことが重要だと説明した。その事例として、福岡雙葉高等学校(以下、雙葉高)の生徒たちが登壇し、ファブラボを活用した校外活動を紹介した。

雙葉高は福岡市にある女子校で、デザイン思考やデジタルファブリケーションを積極的に取り込み、文部科学省から「スーパーグローバルハイスクール」として指定を受けている。生徒たちは1年をかけて米ボストンにあるMITメディアラボの視察やファブラボ国際会議への参加、ファブラボ鎌倉での研修を受けた。その後も、さまざまな形でデジタルファブリケーションを活用した校外活動を継続している。

「台湾の高校では自分より年下の15歳の男子が、流ちょうな英語と慣れた手つきでプログラミングを教えてもらっていることに焦りを感じた」と語る一方で、プログラミング初心者向けのアプリを活用することで「文系だったとしても、プログラミングは誰でもできる」「世界とつながるためには、ものづくりのスキルを身に付けることが必要」と感じたという。

雙葉高の生徒は「FabLearn Asia 2015」への参加だけでなく、ファブラボ鎌倉でも講習を受けるなど、学校外で学ぶ機会があった(資料提供:渡辺ゆうか氏) 雙葉高の生徒は「FabLearn Asia 2015」への参加だけでなく、ファブラボ鎌倉でも講習を受けるなど、学校外で学ぶ機会があった(資料提供:渡辺ゆうか氏)

渡辺氏によれば「FabLearn Asia 2015」の開催を経て、参加者にさまざまな影響があったという。そのひとつとして雙葉高の事例を紹介したが、こうしたイベント後の参加者の変化や、研修プログラムを受けた学生の変化をつぶさに把握しないと主催者側の自己満足で終わってしまい、継続的な取り組みにつながらないと会場に訴えた。

研究者とファブの親和性

研究セッションのパネルディスカッションでモデレーターを務めた九州大学芸術工学研究院の城一裕准教授。多摩美術大学の久保田晃弘教授、慶應義塾大学の修士2年の淺野義弘氏、伊藤慎一郎氏、宮城教育大学の門田和雄准教授らファブリサーチに携わる研究者がビデオ会議で参加した。 研究セッションのパネルディスカッションでモデレーターを務めた九州大学芸術工学研究院の城一裕准教授。多摩美術大学の久保田晃弘教授、慶應義塾大学の修士2年の淺野義弘氏、伊藤慎一郎氏、宮城教育大学の門田和雄准教授らファブリサーチに携わる研究者がビデオ会議で参加した。

世界規模で広がっているファブラボのネットワークの中で、ファブリサーチと呼ばれる日本独自の取り組みがある。これはデジタルファブリケーションに関わる研究を行う大学内の研究者が中心となり、アカデミックな立場からファブラボの活動を支援するものだ。研究のセッションでは各大学の事例や、大学におけるファブリサーチの在り方について議論が行われた。

慶應義塾大SFCキャンパスでは、「Fab Nurse」という、看護にデジタルファブリケーションを活用するプロジェクトがあり、3Dプリンターで看護学生用の教材や患者の自助具を開発している。また、大学内にファブラボを立ち上げ、既存の手法にとらわれない形での研究を支援する多摩美術大学や九州大学のようなアプローチがある。また、宮城教育大ではSTEM教育の文脈を意識し、デジタルファブリケーションの活用や教材開発を行いながら、台湾など海外の学校内ファブラボを視察するなど、ファブラボのものづくりと教育との融合について研究するケースなどが紹介された。

ファブリサーチの枠組みではないが、キャンパス内にファブラボを開設する大学は徐々に増えており、文系・理系に関係なく、デジタルファブリケーションを活用して学びや研究の幅を拡張していくのは世界共通の流れだ。今後、大学内ラボの普及やデジタル工作機械の導入が進めば、こうしたファブリサーチの事例も、多様なものになっていくと思われる。

世界で活躍する日本のファブラボ人材

ファブラボ・ボホールの外観(ファブラボジャパンのWebサイトより) ファブラボ・ボホールの外観(ファブラボジャパンのWebサイトより)

国際交流のセッションでは、ビデオ会議で参加した国内外のファブラボの運営者から各ラボの事例が紹介された。

フィリピンのボホール州ではファブラボ・ボホールとは別に15カ所にミニファブラボがあり、ものを作りたくても材料費が捻出できない貧困層にものづくりを体験できる仕組みを提供している。ファブラボ・ボホールの徳島泰氏によれば、こうした活動は市民の技術力向上を通じて、生活に必要なものを自分自身で製作できるようにするだけでなく、地域の新たな産業創出も視野に入れているという。

アフリカのガーナ第三の都市タコラディにあるファブラボ・ガーナは工業高校の中に開設されている。現地で運営に携わる青木翔平氏によれば、地元では工業高校を卒業しても、製造業とは無縁の分野に就職する学生が少なくない。そこでファブラボを通じて、新たなビジネスを創出できるようなハードウェアの開発を進めている。直近ではガーナの主食であるフフ(すりつぶした芋を練ったもの)の製造機や精米機を開発、Arduinoなどの廉価なオープンソースハードウェアを活用することで低コストでの製造を目指している。

停電時に自動点灯するライト。

一方、日本国内のファブラボも海外との交流がきっかけとなって、ラボの新たな収益源につながっている事例が紹介された。ファブラボ浜松ではMITのニール・ガーシェンフェルド教授によるオンライン講義「FabAcademy」を受講できるようにしたことで、ラボの新しい収益源になりつつあるという。

MAKERS & FABBERS 2017 in KITAKYUSHUではファブ施設が存続していくためのモデルの議論も下地にあるが、MIT発祥の教育プログラムをネットワークで提供するモデルは、ファブラボにしかできない事例だといえよう。

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