Fabbleの使い方
ものづくり教育の現場でFabbleを使う——慶應義塾大学SFC「オープンデザイン実践」での取り組み
Fabbleの用い方とその役割
次に、この講義でのFabbleの活用について述べたいと思います。
・プロジェクトの立ち上げとFabble
マウスを分解するのとほぼ同じタイミングで、学生たちはFabbleにそれぞれのプロジェクトページを作りました。まだアイデアが明確ではないタイミングですが、新しい制作日誌を用意するように、プロジェクトに向き合います。講義を受講するメンバーが、他のメンバーのページを容易に検索できるように、ページにタグをつけて管理するようにしました。
・進捗管理としてのFabble
そして、分解、コンセプトメイキング、実装にかけて、プロジェクトで取り組んだこと考えたことを、断片的でも良いのでとにかくFabbleにメモとして残すことにしました。うまくいったことだけではなく、失敗や何の役に立つのかわからない妄想も含めてです。講義の中での定期的なプレゼンテーションでは、その背景にあるさまざまな試行錯誤は隠されてしまいがちです。しかし、特に立ち上げ段階においては本人が面白くないと思った、もしくは失敗だと思った事象こそが他の人にとっては面白いなど、試行錯誤の共有はさまざまなヒントを与えてくれます。
・カジュアルなコミュニケーションツールとしてのFabble
Fabbleはデジタルな制作日誌としての期待が大きかったのですが、講義での利用を通して他の価値にも気がつきました。その一つはSNSとしての利用です。大学の講義となると、教室の中にいる人は全員顔見知りということもなく、研究室やゼミのようにある専門性/興味/レベルに特化した人が密度濃く集う空間とも異なります。時にその中でのものづくりは、知り合い同士で固まってしまったり、孤独な状況で行われることも多いものです。また、講義内でのプレゼンテーションに対するフィードバック等に割ける時間も個人あたりにすると限られており、うまくプロジェクトを導くには教員側の観点からも時間の不足や、言葉の不足を感じることがしばしばあります。
当時のFabbleの実装でも、それぞれのプロジェクトページに対してFacebookアカウントを用いてコメントを記入できるようになっていました。アイデアに関連する既存のプロジェクトのURLを書き込んだり、プレゼンテーションの際のコメントをフォローするコメントをここに書き込むということをよく行いました。学生同士も感想やアイデアをコメントとしてシェアしてくれました。講義で発言するほどでもないが伝えたい、といったようなコメントをさっと伝えるのにとても適しています。また、Likeをはじめ、誰かの感想が得られることは、モチベーションの向上にもつながります。
・ポートフォリオとしてのFabble
最近のKickstarter等のクラウドファンディングサイトで提案されるデバイスの動画を見ると、製品そのものの紹介もさることながら、メイキング映像を兼ねたものが多く公開されていることに気がつきます。ハードウェアの魅力を判断する材料の一つとして、どんな人がどんな思いで、どんな工程を経てその商品の実現につながったのか(あるいはこれから実現していこうとしているのか)という「ものがたり」が必要とされています。
Fabbleはまさに、完成と同時に、そのプロジェクトサイトがポートフォリオとして機能します。最終的にどんなものが出来て、どういう風に作るのかというレシピに加えて、いかに作られてきたかという過程がそこに記されることになります。実践形式の講義を経た学生は、そこで作ったプロジェクトを学生時代の成果として得ることになります。