ものづくりの人が知っておくべき権利
プロダクトデザインとしての意匠権とオープン化という新しい流れ
今回は、「意匠権」に関してご紹介したいと思います。意匠も、著作権や特許などと同様にものづくりをする上で重要な権利となっています。ソフトウェアやサービスなどの創作性は著作権として保護されますが、物質の形状や模様、色彩のデザインに関して新規性や創作性があるプロダクトは、創作性の観点から権利を保持することができます。こちらは、意匠法という法律のもとに定められ、産業財産権として特許と同じく特許庁に申請し登録されることで権利を有することができ、権利保持期間は国内の場合は意匠権登録から20年と規定されています。
新規性と創作性があるプロダクトデザインを保護する意匠権
意匠権が認められるための審査項目として、量産可能で工業上利用することができる意匠であるという工業上利用性、新規性がある意匠であること、既に知られた形状や模様、色彩ではなく、またそれらの寄せ集めや構成比率を変更しただけでは容易に意匠の創作ができない創作非容易性、公序良俗違反ではないもの、などが要件として挙げられます。また、機能確保のための形状などは、意匠権では保護されないなどの要件があります。
オープン化するプロダクトデザイン
意匠権は、ハードウェアの分野においては、AppleとSamsungのスマートフォンの形状における「パクリ問題」としてニュースなどで報道されており、目にする機会もあるかと思います。企業間競争において、特許と同じように意匠権も争点とされ、プロダクトデザインを事業の重要な柱に位置づけている企業にとっては大きな意味をもっているといえます。
しかし、意匠権の出願には費用がかかり、また意匠権を保持していることでのメリットは大量生産するプロダクトを販売する大企業以外では享受しにくく、個人のものづくりではなかなか活用が難しいのが実情です。意匠として認められる分野も、家電やPC、クルマのデザイン、スマートフォンなどの携帯端末、おもちゃなどといった、広く多くの人たちが手に取りつつ、デザイン性や創作されたプロダクトの経済的価値を模倣などから保護して権利の活用や流通を促すために認められるものが多いのが現状です。
プロダクトデザインがなにをもって新規性や創作性があるか、というのも判断が難しいポイントであり、審査官によって判断が揺れる、といったことも指摘されているようです。量産品のプロダクトデザインは原則として著作権が発生せず、意匠権を特許庁にお金を払って登録しないことにはプロダクトデザインは保護されないことが日本の法制度では前提となっており、権利保護が弱い分野と言えます。しかし、逆の見方をすればフリーカルチャーなどによる新しいクリエイティブが生まれやすい土壌でもあるとも言えます。ファッションにおける模倣と経済規模を考えるとわかりやすいかもしれません。最近ではオープンイノベーションという考えのもと、オープンな考えのもとにものづくり文化を育てていくほうが文化的にも経済的にも可能性があるのでは、といった考えが世界的にも広まってきています。もちろん、その背景にはインターネットの登場やクリエイティブ・コモンズという考え方、3Dプリンタなどの開発環境の変化がそういった文化を醸成する動きを加速させています。
そうした時代の流れをうけて、プロダクトデザインの分野を対象に、弁護士の水野氏も訳者として参加している書籍『オープンデザイン 参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』には、「オープンデザイン」という新しいデザインの考え方についてさまざまな筆者による論考や事例が紹介・解説されています。
デザインの共有、改良、制作が容易となった現代において、デザインという行為やデザイナーのこれからのあるべき形などを考えるものとして、世界の潮流や事例、日本の事例などが掲載されています。日本における代表的なものとして、建築家の吉村靖孝氏が建てた建築物の住宅図面にクリエイティブ・コモンズを付与した「CCハウス 」や、アパレルブランド「Theatre Products」が服の型紙と作り方をオープン化した 「Theatre, yours」 という取り組みなどが紹介されています(いずれも取材させていただいた水野氏も関わっているとのこと)。
意匠権のあり方も、広く多くの人たちに対してオープンにしていくオープンデザインといった考え方がでてくるなど、従来の権利保護とは違ったあり方の模索や議論がまさに現在進行形で行われています。著作権の分野でクリエイティブ・コモンズという考え方がでてきたように、意匠権も新たな考え方のもとで知財を運用していく時代がくるかもしれません。
【取材協力】シティライツ法律事務所 水野祐弁護士
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