3Dでハードコアな超高速ものづくり《最新事例》
技術が産む美しさ——ソマルタ廣川玉枝が紡ぐテクノロジーと伝統の系譜
デザイナー 廣川玉枝氏に聞くテクノロジーとものづくり
——3Dデジタル技術へはどのあたりに興味を感じていますか?
昨年、MAD Museum(The Museum of Arts and Design)で開催している[Out Of Hand]という展覧会に参加するためニューヨークを訪問しました。 [Out Of Hand]は、近年開発された3Dプリンティングや新しい造形技術によって生み出されたアートやプロダクト等のデジタルファブリケーションをテーマにした展覧会です。SOMARTAは、デジタルプログラミングの高密度ボディウェア【Skin Series】と、その考えを家具に転換した【Skin+Bone Chair】を展示しました。
新たな製法や素材、技術は、ものづくりの可能性を広げてくれます。[Out Of Hand]の展覧会でさまざまな造形美を見たときから、3Dデジタル技術にとても興味がありました。この技術において、自分はどのような表現ができるのか、機会があれば実際に挑戦してみたかったのです。
「身体の系譜」展(2014年10月に西武渋谷店で開催)のために、3Dプリンタを使用した大型のマスクを初めて作りました。
——実際に3D技術で作品を作ってみてどのような可能性を感じましたか?
データ作成過程で、プログラマー兼彫刻家でもある職人と、綿密な立体感のイメージを何度も打ち合せし、調整しながら具現に近づけていきます。データも3Dの立体でできているが故に、情報量が多く繊細に表現できるというところにも可能性と魅力を感じます。最終的に職人の彫刻センスや、デジタル技術での作り込みによってディティールは高精細に整えられ、出力の技術も組み合わさっていままでになかった表現ができました。
日本には、こだわりを持ち手間ひまを惜しまずデザインを具現化に繋げて下さるすばらしい職人がたくさん存在します。これらすべてが組み合わさったものづくりが、最大の強みになるのではないでしょうか。使う道具は変われども、ものづくりに欠かせないものは、いつの時代でも人々の心意気です。
——新しい技術に出会ったとき、どのようなアプローチでクリエーションに落とし込んでいきますか?
機械や道具、システムの技能を把握した上で、最終的にものづくりを大きく左右するのは、それを扱う人の能力です。技術は、機械や道具、システム性能のことではなく、それを扱う人に宿っているからです。それは、最先端の技術でも太古からある技術でも同様です。
また、ものづくりにおいてはその技術をどのように活用し、最終的に何を表現したいのかというところが重要なポイントになってきます。
私の生業である「デザイナー」における表現の主軸には、いつも必ず「デザイン」という名の拘束具をまとっているような感覚があります。それは、ものづくりはもとより歴史や時代性、環境や社会的な意義、価格や仕様、見せ方や売り方などまで総合的に考えた上で設計しなければならず、デザインとはそうあるべきだと思うからです。デザインは、環境に脈を張り確立されるものなので、根無し草ではなりません。
——現在はどのようなことに取り組んでいますか?
2013年から新時代の和装をテーマにデザインに取り組んでおり、デジタル技術と手加工による友禅箔/刺繍を融合させた「ハイブリッド友禅染め」をはじめ、伝統的な「型友禅」、「手染めグラデーション」のクチュールドレスや、和紙や箔、漆を織り込み鈍い金属光沢をだす「西陣織テキスタイル」を用いたジャケットなど、新時代の和装を提案しています。「Kimono-Couture(キモノクチュール)」コレクションでは、伝統技術と最先端テクノロジーの相克を融合へと進化させ、新しい可能性を示唆することと、技術の伝承と継承、進化へ繋げる試みに取り組んでいます。
我々の仕事は、日本本来の美を引き継げるものづくりと美意識を提案し、未来につなげていくことです。伝統という名の壁は厚いですが、これらのコレクションが、何かを考えるきっかけになり、産業を支えていくことに少しでも貢献できたらと思います。
「Asura」Mask/2014/Nylon
【3Dプリント】八十島プロシード株式会社
【3Dモデリング】株式会社ケイズデザインラボ