2020年プログラミング必修化!「作る」ことで分かるSTEM教育
第3回 足りないのは人と時間。世界を取り巻くSTEM教育の現状と課題
21世紀の新しいリテラシー「STEM教育」の現状と未来を探る連載の3回目です。今回は世界と日本のSTEM教育について歴史と現状を紹介します。
欧米では10年前から
STEMの語源はアメリカにあるといいます。1990年代後半にNSF(米国立科学財団)で横断的に取り上げられる理系分野を総称する用語として使われたのが最初だといわれています。一般に普及したのはオバマ大統領が年頭の一般教書演説で使い出した2010年頃からです。2011年には技術革新の担い手を生み出すSTEM教育を重視するとして、STEM教育に従事する新たな教員10万人の準備、2013年度にはSTEM教育を強化する高校への支援など、演説等で触れています。
英国では2012年、それまでのICTカリキュラム(コンピューターの知識を学ぶだけのカリキュラム)を放棄し、プログラミングを必修として、科目「Computing」を作りました。K-12(5歳から16歳までの12学齢)における授業が開始されました。2015年には11歳と12歳(小5、小6)全員に小型のワンボードコンピューター「BBC MicroBit」(*1)を配布する事業が始まりました。
同じころ、北欧やフランス、イタリア、ドイツなどの公教育機関でプログラミングを核としたコンピューター関連の教育がスタートしています。アジアではシンガポールが大きく先行し、続くのが韓国といわれており、日本は遅れぎみ。これからどう追いついていくのかが課題とされています。
日本でのSTEM教育の課題
2020年からの小学校におけるプログラミング教育の必修化にはいくつも課題がありそうです。ひとつは授業時間の問題です。同じ2020年度には英語が必修化・教科化されることが決まっており、カリキュラムとしてはいっぱいいっぱい。そこで、文科省の有識者会議は、プログラミングそのものは既存の教科の中で扱うことを提言しています(*2)。プログラマーを養成することが目的ではなく、プログラミングを通して論理的な思考力を養う点を重要視しているからです。また、そもそも独立教科として扱うには無理がある、という意見もあります。
人材不足も指摘されています。プログラミングを教えられる教師の数が絶対的に足りません。無理に数を補おうとすれば質の問題が生じます。メソッドも不足しています。すでに諸外国を参考に学校現場ではさまざまな授業が試されていますが、決定的なものがあるわけではありません。まだまだ試行錯誤が必要とされています。教材に関しても同様です。公教育であることを考えると慎重に選定されなければならないところです。
いずれにしろ、先行する諸外国も、時間、人材、教材の不足には悩まされており、克服しつつあるものの課題としては残っています。
*1 イギリス政府がBBCの協力のもと導入した新しい教育用ワンボードコンピューター。イギリスは、かつてより国が主導して大胆に新しい教育を展開するという教育施策がとられており、コンピューターを活用した教育についても、1980年代にはBBC Micronというコンピューターを学校に一斉に導入して先進的な教育を進めていた。
*2 小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)