アジアのMakers by 高須正和
コピーキングの異名を持つ中国の発明家「山寨王」の考える中華コピー対策
ハイエンド品とローエンド品 上海のChen Rexが考えるコピー対策
また別の友達、上海のChen Rex(以下チェン)はSTARYという電動スケートボードを開発し、Kickstarterで70万ドルを超える出資を集めた。
チェンさんはスタートアップなので、山寨王ウーさんのように手広くビジネスしているわけではなくSTARYに集中している。何度か中国のMakerイベントで会った彼が、「タカス、STARYをクラウドファンディングで支援してくれたBackerの中で、シンガポールに住んでるのは君だけなんだけど、今度シンガポールに行くので、シンガポールのMaker達に会わせてくれない?」というメールが来て、トークイベントを行った。
クラウドファンディングの開発元にメールして会いに行ったことは何度もあるが、プロジェクト主からアポイント依頼が来たのはチェンさんが初めてだ。彼のスケートボードはやっと出荷が始まった段階で、まだ僕のところには届いていないのだが、深センの電気街ではすでにコピー品が、オリジナルSTARYの899ドルに対し200ドルほどで売られている。トーク後に行われたQ&Aで、コピー品について聞かれたチェンさんはこう語ってくれた。
チェン:「STARYは電動スケートボードだけど、普通のスケートボードとまったく変わらない見た目にするために、専用のバッテリーやギア、金型など多くの手間とコストをかけている、899ドルの製品だ。Kickstarterで動画を公開してからしばらく、同じようなカラーリングの電動スケートボードを見かけるようになったけど、そういう200ドルほどのニセモノはそういうところにコストをかけていない。
コピー品を作る人たちは“安く、手早く作る”ことに注力し、初期投資がいる高級品は作ろうとしない。僕たちはハイクオリティなSTARYを作っていきたいし、STARYが欲しい人は200ドルの電気スケートボードを買う人たちとは別のカテゴリなんじゃないかと思っている。
もし例を挙げるなら、DJIのドローンはハイエンド品で価格も高いけど、見合ったクオリティがあり、他の製品では難しい性能があるからよく売れている。一方、アクションカメラはGoProも後追い品もクオリティがあまり変わらなくなってしまった。僕たちがDJIのように、価格に見合ったクオリティがあると思ってもらえれば続けられるし、これからもクオリティに投資を続けたい」
中国の発明家と「パクリ経済」
彼ら中国の発明家たちと話していると、「パクリ経済——コピーはイノベーションを刺激する」(カル・ラウスティアラ、クリストファー・スプリグマン著、みすず書房刊)という書籍を思い出す。
「知財保護がない世界でもイノベーションは止まっていない、たとえばフットボールのフォーメーションや服飾デザイン、レストランのレシピなどはアイデアを保護する仕組みはないが、にもかかわらずフットボールも服も食べ物もイノベーションは止まっておらず、服ではファッションショーで公開された、あまり日常的に着れるとは言いづらい服がだんだんとモディファイされて街中で見かけるようになるのが一般的な流れになっている」といった、知財のないカテゴリのアイデア保護とイノベーションについて述べた書籍だ。
コピーされるのがあたりまえの世界でも発明を続ける中国の発明家たちと話していると、Makerが世界にあふれ、発明することがありふれたことになりつつある今、それを取り巻く知財などの環境についても変わっていくのかもしれないと感じる。