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アジアのMakers by 高須正和

コピーキングの異名を持つ中国の発明家「山寨王」の考える中華コピー対策

クラウドファンディングと中華コピー

山寨王のコピー対策を紹介する前に、クラウドファンディングと中華コピーについて少し補足しておこう。

クラウドファンディングにプロジェクトを出すと、そのアイデアが製品として世に出る前に、中国で既にコピー品が売られている、ということはよくある。写真や動画を見ただけでどういうものか分かる、シンプルなオモチャやガジェットは、特にそういうコピー品が多く、オリジナルのプロジェクトがまだ出荷されていないのに、コピー品は10分の1の値段で売られている、ということすらある。

FIDGET CUBE, FIGMENT, PRESSY.(赤字の価格は筆者) FIDGET CUBEFIGMENTPRESSY(赤字の価格は筆者)

上の画像で示した3つのプロジェクトは、それぞれ最初にクラウドファンディングで発表されたものだ。

「FIDGET CUBE」はひところはやった「無限プチプチ」のようなオモチャで、立方体の6つの面それぞれにダイヤルキーやクリック感のあるスイッチなどが付いていて、何かが操作できるわけではないが、無限にカチカチして手持ちぶさたな時間を使うことができる。
「FIGMENT」はスマートフォンでVRを見るときのメガネを、スマホケースと一体化させてしまったもの。
「PRESSY」は、Android端末のイヤホンジャックに差し込むと、別の機能を持つボタンになるものだ。どれも実際に使わなくてもどういうものか分かる、シンプルなアイデアの面白いガジェットだと思う。

中国の通販サイトで見つかる山寨製品(赤字の価格は筆者) 中国の通販サイトで見つかる山寨製品(赤字の価格は筆者)

これらのガジェットはそれぞれ、上記のような値段で中国の通販サイトでコピー品が売られている。FIGMENTはまだ出荷できていないプレオーダー中の状態だが、中国製のコピー品のいくつかはすでに日本のAmazonでも買うことができる。FIDGET CUBEやPRESSYも、後追いの山寨製品のほうが出荷ははるかに早かった。

クラウドファンディングでプロジェクトを立ち上げる人にとって量産は難しい仕事で、多くのプロジェクト主はそもそも経験がなくて試行錯誤で進めていることが多い。中国の特に深センまわりには、高速で量産することにたけた会社が多い。深センの公板/公模 700円の粗悪アクションカメラに見るイノベーションのレポートで前に紹介したように、さらにその開発速度を高める周辺業者も多く、量産するためのエコシステムがうまく備わっているため、深センのまわりにいるだけでアドバンテージがある状態といえる。たとえば優れたフランス料理のシェフになるならフランスに、メジャーリーガーになるならアメリカに行くほうが早道なように、エコシステムが備わっているほうが、効果的にクオリティを上げられる。

「コピー品をさらにコピーする」ことはそうしたエコシステムでさらに簡単に行えるため、一度コピー品がヒットするとさらに安いコピー品が作られる。やがてどう作ってもほとんど利益が出なくなる状態を、中国では山寨死と呼ぶ。

山寨王の語るコピー対策

ウー:「Intel版のiPad(ウー氏は自分のiPadをこう呼ぶ)は、『タッチパネルの性能が上がって価格も安くなってきているので、全面タッチパネルでキーボードのないラップトップ、つまりはタブレット端末が来る』という感覚が僕の中にあり、関係する部品メーカーとiPadの発売前からやりとりをしていた。Appleの発表を見て60日で販売できたのは、そういう準備があるからだ。60日は早いけど、人間は誰でも似たようなことを考えるし、同じような部品や技術を使って製品を作るので、たいていの製品は90日もたてばコピーは出てくるものだ。アレンジされてだんだん安くなり、普及していくことはどの世界でもある。日本の大メーカー同士でもあるだろう?

そうやって先進国で発明された高額なMP3プレーヤーやスマートフォン、タブレット端末などが安くなり、世界のみんなが使えるようになることは悪いことじゃない。Intel版のiPadについては、AppleのiPadをほしい人がアレを買ったとはあまり思わないが、安いタブレット端末が欲しい人にとってはいい製品だったと思う。ニセのAppleロゴマークをつけて、だまして売るようなことは僕はやる気がない。すぐニセモノ同士の争いになるし、それよりはオリジナルの価値をつけた別製品を作りたい。僕が作ったのはAppleが作っていない、Intel版のiPadだ。iPadのニセモノではない。

写真や動画を見るだけで簡単に作れるような製品をクラウドファンディングで先に公開するのは、あまりよくないと思う。アイデアだけが勝負の製品は、最初の90日だけが自分が決めて値段を付けられ、後は多くのコピー業者と利幅を削り合う戦いになる。自分は競争が嫌いなので、イケると思ったら最初になるべく大量生産して90日で勝負をつけ、新しい製品作りに取り組むようにしている。小さく始めるのは、誰も追いかけてこないような、もっと冒険的なことをやるときだ」

Maker Faire深センで自らの活動を語るウーさん。こういう登壇者が出てくるのもMaker Faire深センの魅力だ。 Maker Faire深センで自らの活動を語るウーさん。こういう登壇者が出てくるのもMaker Faire深センの魅力だ。

競争が嫌いなので新しいところに行く、新しいことをやるというのは彼の他のビジネスにも共通している。自分のビジネス戦略的なポジションについて、ウー氏はこう語る。

ウー:「自分がしている製造は、日本製などのハイエンド部品を組み立てて製品にするビジネスだ。高品質な部品、カメラのセンサーなどを作るのはソニーなどの日本メーカーや、中国ではHuaweiなどの国の支援を受けたビッグプレーヤーのビジネスで、自分の会社がそこまで行くとは思えない。僕らのような、深センでの組み立て製造業はすごい競争になってきていて、生き残るのに必死だ。

最終的にはベトナムなりアフリカなり、コストの安い国が同じようなクオリティを出せるようになり、中国でやるのは難しくなるだろう。あとどのぐらい続けられるのかはベトナムやアフリカ、追いかけてくる方の都合で決まる。自分が決められるわけではない。自分は競争するよりもライバルが少ないところで勝負する方が好きなので、新しい製品を作ったり、他の人たちより先にアフリカでビジネスをしようとしている。発明し続けるのは競争しないための一つの方法だと思う」

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