fabcross Meetingレポート
【fabcross Meeting】3Dプリンタをブームで終わらせないために
2014年3月23日、fabcrossによる初の主催イベント「fabcross Meeting vol.01」が開催された。当日はエンジニアを中心とした約100名が参加。ものづくりの現状や、未来でのありかたについて考えを深めた。本記事では、第三部「3Dプリンタの可能性と多様性」に登壇した、3Dデータを活用する会理事長の相馬達也氏、RepRap Community Japan代表の加藤大直氏、ビークル執行役員の片岡豪太氏によるトークセッションをレポートする。
3Dプリンタは、あるだけではただの箱
セッションが始まるやいなや、3Dデータを活用する会理事長の相馬達也氏が、昨今のハード先行の3Dプリンタブームに苦言を呈した。
「3Dプリンタとは何十年も付き合っていますが、昨年のブームで思うのは、3Dモデリングができない人が興味を持っても仕方ないということです。結局は“プリンタ”であり、出力する機械であるため、出力元(データ)がないとなにも動かないのです」(相馬氏)
相馬氏は、3Dデータを活用する会を通じて、3Dプリンタブームをもっと地に足のついたものにしたいと、普段からセミナーや親子向けのパソコン教室を通して、モデリングや出力を教える活動を行っている。
3Dプリンタの盛り上がりで見えてきたことは「日本人がものづくりに対していかに理解が少ないかということだ」と語る相馬氏。3Dプリンタのハードウェア面ばかりがとりあげられる昨今のものづくり関連の記事や報道について、強い違和感を示した。
一方、相馬氏と同じ危機感を持って別のアプローチを行っているのが、ビークル執行役員の片岡豪太氏だ。
ビークルでは、「Crew3D」という、3Dプリンタと出力元のデータをマッチングさせるサービスを運営している。3Dプリンタを持っている個人や企業は、Crew3Dに3Dプリンタ所有者として登録し、プリンタを持っていない人は、Crew3Dの3Dプリンタ所有者データベースを参照して、なにか出力したいデータがあるときに所有者にコンタクトが取れる仕組みだ。
「3Dプリンタは、置いてあるだけではただの箱」だと指摘する片岡氏。3Dプリンタが価値を発揮するには、データと人のアイデアが必要であり、それらをつなげ形にするロジスティクスの流れが重要だという。
元ソニー取締役で現在多摩大学ロジスティクス経営・戦略研究所所長の水嶋康雅氏が唱えた「ロジスティクスの本質的役割は『モノ』の価値発現だ」という言葉を引用し、「Crew3Dも単なるマッチングにとどまらず、よりものづくりを意識した一連の流れを提供したい」と片岡氏は話した。
3Dプリンタが一般に浸透する時代となるために
3人目の登壇者が、RepRap Community Japan 代表を務める加藤大直氏だ。
加藤氏は、ニューヨークでプロダクトデザイナーとして仕事をしていたときに、3Dプリンタと3DプリンタデータのオープンソースプロジェクトであるRepRap Communityの魅力に惹かれ、活動に参加した。
帰国後2010年を過ぎても、日本ではいまだ3Dプリンタが注目されないことに対して何かアクションを起こしたいと考え、RepRap Community Japanを立ち上げたという。
「RepRap Community内では、日々3Dプリンタでなにができるのかということを議論し、みんなで試行錯誤を繰り返しています。木の3Dプリント、電子回路のプリント、スニーカーづくり等々。いろんなことに利用しながら、3Dプリンタをいかにクリエイティブに役立てるかを探っています」(加藤氏)
加藤氏は、一般の人にも生活の中に3Dプリンタの存在をイメージできるようになってきたのではという。加藤氏が開催するワークショップには、花屋、教育関係者、パティシエ、デザイナーなどさまざまな職業の方が参加し、3Dプリンタについて学んでいるという。
また、ここ数年はイベントなどで受ける質問も変わってきたそうだ。
「3Dプリンタを見せたとき、おおすごい! という反応だったのが、そもそも『これ(出力物)をどういうふうに作るんですか?』という質問を受けるようになりました。3Dプリンタだけあってもしょうがない、3Dデータはどうやってつくるのか、という方向に一般の方の目線も変わってきたように感じています」
一方、片岡氏も普及活動の一環として中学生へのモデリングの講習も行っている。モデリングは難しいが、PCを触ることに対して抵抗感のない若い世代に接していると今後の可能性をひしひしと実感するという。
日ごろ造形などが身近なパティシエやデザイナー、デジタルネイティブと呼ばれる世代にまで3Dプリンタの活用が広がるにつれて、3Dプリンタに対する考え方も変わってくるかもしれない。しかし現状はまだそれには程遠いと、3人は口をそろえる。
実用的な3Dプリンタの普及が課題
3Dプリンタのさらなる普及のために、具体的にどんなことが提案できるのか。相馬氏は企業の立場に立ったアプローチを提案する。
「これから売れる3Dプリンタに求められるのは、課長クラスの権限で買える値段であることです。そして簡単に壊れなかったり詰まらなかったりすること。組み立てるのにわざわざセミナーに行く必要がないもの。こういう条件を満たすことが、業務用には求められてきます。安定性を確保することで、安心して企業の設計部に配置されるようになる。そうしないと、いつまでたっても試作部以外に使われる機会はありません。3Dプリンタを普及させるためにこれから求められるべきは、そうしたビジネスセンスを3Dプリンタメーカーが持つことです」(相馬氏)
片岡氏は「イノベーションとはなにかを考えたとき、社会の役に立たなかったら変革とは言えないのではないか」と訴えた。そうした考えから、ビークルではCrew3Dの運営に加え、相馬氏のいう現場向けの品質基準を満たした3Dプリンタの代理店業務も行っているという。3Dプリンタメーカーに対する啓発活動や新製品開発のための活動がこれから盛り上がってくるのではと話し、今後のメーカーの動きに期待したいと片岡氏はいう。
「ものづくり」の本質を再考すること
3Dプリンタを一過性のブームに終わらせないためには、ものづくりに何を求めるのか、本質はなにか、ということを考えないといけないと3人は指摘する。
最後に、片岡氏が現状の3Dプリンタ事情に則した「ものづくり」の現状について語った。
「ここ数年、『3Dプリンタ(によるものづくり)で職人さんがいなくなるのでは』という言説がありますが、それは違います。仕事の成果を確認するのも、アイデアを出すのも最終的には人間です。職人が不要になることはありません。3Dプリンタはツールであり、それがすべてを網羅することはありえないのです。ものづくりの本質がなんなのかを議論することが、これからますます求められてくるのではないでしょうか」(片岡氏)
使うユーザーがいてこそ、3Dプリンタは価値を生みだす。目的と手段を間違えることなく、ものづくりのあり方を考え、効率的・効果的に ツールを取捨選択することが大切だとまとめて、セッションは終了した。