企業もはじめるFab&Hack
「まるでアイドル育てゲー」コスプレからハッカソンまで、東芝の新しいチャレンジが詰まったFlashAirの歴史
東芝が開発、販売している無線LAN搭載SDHCメモリカード「FlashAir」は、SDHCメモリカードに保存された画像やデータを無線LAN経由でスマートフォンなどに転送できる製品だ。デジタルカメラにFlashAirを挿せば、撮影した画像をスマートフォンを使ってFacebookやTwitterに簡単に投稿できる。
女優の有村架純さんが旅先での写真をスマートフォンに転送するTVCMから一般消費者向けの製品かと思いきや、実は2度のバージョンアップを経てGPIO(汎用入出力)を搭載し、汎用スクリプト言語「Lua」を使ったプログラム処理が可能という、IoT社会を見越した機能が実装されている。
また2014年にはMaker Faire Tokyoに出展して同人誌を配布し、2015年にはGUGENとの共催で大規模なハッカソンを開催するなど開発者向けの活動を展開してきた。
TVCMなど一般消費者向けのプロモーションと並行して、地道な活動をベースにユーザーからの生の声を聞き、製品改良を続けてきた東芝FlashAirチームに、これまでのいきさつなどお話を伺った。(撮影:加藤甫)
なんてこった、何もできねぇじゃん
2013年のある日、FlashAirにも搭載されているメモリの技術者である児玉さんの同僚と当時の上司がFlashAirを前に話をしていた。
「『これを使って面白いこと考えてくれない?』と僕の隣で話をしていて、『何ですか、それ』ってFlashAirを見せてもらって、これはRaspberry Piに使えるなってすぐ思いました」(児玉さん)
キーボードとマウスで埋まってしまうRaspberry Pi(Model B)の2つのUSBポートを使わずに、SDカードスロット経由で無線通信ができれば世界中で使われるようになると見込んだ児玉さんは、早速資料を作成して提出。すぐさま本社に来るよう声がかかり、そこでFlashAirの担当者、高田さんと初めて会うことになる。
「話してみたら、FlashAirの無線LAN機能でインターネットに接続することはまだできなかったんですね。デジカメに挿せば写真はスマートフォンに転送できますが、無線LANカードのようには使えない。『なんてこった、何もできねぇじゃん』と頭を抱えました」(児玉さん)
その後、Raspberry Piのユーザーだった児玉さんの知人を集めて意見交換会を開いたときも、GPIOに対応して、なおかつプログラムもFlashAir上で動かないと魅力がないという話になり、児玉さんの構想は早くも暗礁に乗り上げた。
「GPIOに対応するにはカードの端に穴を開ければいいんですけど、そんなことしたら怒られる(SDカード規格から外れるため)って言われて。ただ、当時からAPIは公開していたので、アプリ開発を促進する活動をしたらどうかというアイデアをもらい、オープンソースカンファレンス(以下、OSC)に出ることにしたんです」(児玉さん)