企業もはじめるFab&Hack
「まるでアイドル育てゲー」コスプレからハッカソンまで、東芝の新しいチャレンジが詰まったFlashAirの歴史
OSCでは先行して発売されていた他社の無線LAN通信対応SDメモリカードとどう違うのかといった、耳が痛くなる質問もあったが、BtoBのイベントにはない熱気に高田さんは衝撃を受けた。
「学園祭のノリなんですよね。会社も個人も入り混じって出展していて、いままで仕事で出ていた展示会とは全然違い、カルチャーショックを受けました」(高田さん)
OSCではFlashAirのブース目当てに来た人や、FlashAirのAPIを使ったアプリを作ろうとしていた人と直接話すことができて、大いに刺激を受けたという。
マスコットキャラクター誕生
その後、2回目に出展したとき、OSC協賛各社によるマスコットキャラクターのコスプレ大会が企画されたが、FlashAirにマスコットキャラクターはいなかった。
「イラストが描ける社員に相談して『閃(ひらめき)ソラ』っていう電子工作好きの23歳のキャビンアテンダントという設定のキャラを作ったんです。キャビンアテンダントにしたのは、過去に青山でFlashAirお披露目のイベントを行った際にモデルさんが着ていた衣装を使いまわすためのつじつま合わせなんです」(児玉さん)
こうして誕生したキャラクター「閃ソラ」は、現在でもFlashAirのプロモーションに度々登場している。
同人サークルに相談したら、東芝の社員だった
2013年7月に念願のGPIOをサポートした第2世代のFlashAirをリリース。それから1年後にIntelがGPIOを搭載した超小型マイコンボード「Edison」を発表している。
バージョンアップの追い風もあって、オープンソースハードウェア関連での活動も増える。名古屋(2014年7月)や京都(同年8月)のOSCにも出展。FlashAirを使ったサンプルやアイデアコンテストを開催し、局地的にファンを開拓していった。
「市販されているおもちゃを改造したら『他社の製品を勝手に改造して展示ってどういうことですか!』って知財部門からすぐに怒られて、慌てて製造元のメーカーさんに相談したり」(高田さん)
「おもちゃのクレーンゲームを改造していた時に、専用の基板を設計していた同僚が『基板の中に閃ソラを埋め込んでみたい』って提案して、基板の中に女の子の絵を埋め込んでいる同人サークルがあることを教えてくれたんです」(児玉さん)
その基板を開発した同人ハードウェアサークル「れすぽん」の余熱さん(ハンドルネーム)は、東芝にエンジニアとして在籍している米澤さんだった。
「閃ソラのTwitterアカウントを前からフォローしていたんですけど、ある日『基板を配りたいからアドバイスが欲しい』という連絡が来て、メールでやりとりしたら東芝のアドレスだったので、僕も社内の人間ですって返事を(笑)」(米澤さん)
こうして閃ソラのイラストが入った基板が完成。GPIOを活用した基板製作例として2014年10月のOSCから試験配布を開始し、ユーザーからLチカ(LEDを点滅させること)などの製作レポートがTwitterに投稿されるようになった。
この基板製作と並行して進めていたのが2014年11月のMaker Faire Tokyo 2014(以下、MFT2014)への出展準備だった。ここでも米澤さんのアイデアで、これまでのいきさつやArduinoやRaspberry PiをFlashAirで動作させるためのチュートリアルをまとめた同人誌を制作することになる。
ちょうどこの頃、第3世代FlashAirを2015年に出すことが決まり、汎用スクリプト言語「Lua」を使ったプログラム処理が可能になったことで、用途の幅もより広がると見込まれていた。
「デジカメのSDメモリカードとしての知名度に比べると、それ以外の機能の知名度はあまり高くなかった印象があり、イベントに出ても1人の人と長く話すことはなかなかできないので、冊子という形でうまく伝えられたらと思って提案しました」(米澤さん)
休日など業務外の時間を使って急ピッチで制作して臨んだMFT2014では、用意していた1000部があっという間に無くなり、基板とセットで販売したFlashAirも初日に45分で完売した。
「デベロッパーサイトのリーフレットもあっという間になくなって、急きょ白黒コピーしたものを配ってしのぎましたが、こんなに反響があるとは思ってもいませんでした。活動の広がりにも限界を感じていたので、Maker Faireでダメだったらもうやめようという気持ちで臨みましたが、非常に関心をもって下さる方が多くて、『この活動は続けていこう』という気持ちに切り替わった重要なイベントでした」(高田さん)